タイムスリップという失敗作
「タイムスリップ」? いい響きだ。
どんなものなんだい? ……へぇ。過去にも未来にもいける。ずいぶん便利だなあ。
僕にそれを使わせてくれるって? いい度胸だね。僕が使ったら全部むちゃくちゃになるよ。それでもいいの?
じゃあ、僕が生まれる前に「タイムスリップ」しようかな。叶えてくれる?
『「タイムスリップ」=人生書き換え』
そんなの聞いてないよ。ちょっと待っーー。
僕ガ生まれタノハ、とても裕福ナ家庭ダ。親ハすごく優しクテ、兄モ僕ヲ導イテくれるかっこイイ人ダ。ご飯モ美味シイ。
「色んな人が僕に期待してくれる。その期待に応えられるだけの力が僕にはある。ああ、なんて幸せな人になってしまったのだろう、僕は。最高な人生書き換えじゃないか」
人と関わりヲ持ツようニなる。友達ハみんな僕ヲ慕っテくれる。人間関係、問題ナシ。
「前の僕とは違う。全員とうまくいっている。気持ちがいいな」
挫折ヲ味わわズに、大人にナル。自分ノしたいことを仕事にシテ、幸せナ家庭ヲ築く。子供ハ自分ノように育つ。何モカモが、思い通リになってイル。
「成功するってこんなに素晴らしいんだ。失敗作だと言われ続けた僕が嘘みたいだ。幸せだな。幸せ…だよな?」
突然、僕の目の前が真っ暗になった。
『おい。やっと起きたか』
誰だお前は。
『お前は「タイムスリップ」なんて使っちゃって…どうするつもりだったんだ?』
僕の質問に答えてくれ。
『嫌だね。こっちの質問に答えなさい。』
どうするって…僕が生まれる頃を見たかっただけだよ。ちょっと人生に疲れたから。それが、人生書き換えだなんて。
『人生書き換えなんてことしないよ。私が君に提供した「タイムスリップ」は、「別の人生を体験すること」だよ』
はあ…? 体験…? 何がしたいんだよ。
『さっき君は人生に疲れたって言ってたよね。きっと不幸だとか思っているんだろう? 失敗作の自分が嫌になった。図星だろう』
…ああ、そうだね。
『簡単な話だよ。私は君に聞きたい。君の今の人生は本当に不幸か? 君は本当に失敗作か?』
いいや。確かにさっき僕が見た人生は成功作かもしれない。だけど、幸せそうには見えなかった。つまらないだろうな。きっと。
『そういうことだ。わかったか?』
わかったよ。
ちょっと待って。お前は誰だ?
『ああ、私? 私は失敗作の君だよ。』
『じゃあね』




