魔法少女は敵と遭遇する
夕方の商店街は阿鼻叫喚の有り様だった。
「きゃあああっ!!」
「化け物だあぁっ!!」
「助けてぇっ!!」
人々があちこちにごった返し、我先にと逃げ惑う。
「グゲゲッ!ゴブゴブッ」
「ギャッギャッ!ゴブゴブッ」
「ギシシッ!ゴブゴブッ」
それらを追い立てるように黒い影がワラワラと商店街の中央を練り歩く。
薄汚いボロの腰蓑を纏い、手に刃こぼれした短剣を持つ鷲鼻の緑色の肌をした子供ぐらいの背丈の異様な怪物。
まるでRPGのゲームに出てくるモンスター、ゴブリンにそっくりだった。
そのゴブリンが道先々の総菜屋の料理や土産物、青果店や精肉店の商品を手当たり次第に食い漁り、貪って荒らしていた。
「モル、ボルゥ〜ッ」
そしてゴブリンたちの背後に統括するように触手を無数に束ねた巨大な怪物が体の中心に空いた巨大な口に触手で巻き込んだ食物を放り入れ、ボリボリと鋭く無数に生え揃った牙で咀嚼し飲み込んでいる。
「モル、ボルゥ〜ッ」
「グギャギャッ!? ゴブゴブーッ」
バギィッ!グシャッ!バリボリッッ
ときおりゴブリンごと触手に巻き取り口の中に放り込んでいる。
「何だ何だ、随分と気持ち悪い奴が混じってやがるなぁ」
その狂宴の場に似つかわしくない可憐かつ凛々しく可愛い声が響く。
混乱を極める渦中の夕闇の空から黒い不吉な影を背負った少女が漆黒の翼を広げて舞い降りた。
「チビ鬼のゴブリンどもは毎回必ず取り巻きでいやがるけど、後ろのデカイのは初めて見る奴だな」
その少女は、つばが広い黒い三角帽子を被り、長い煌めく白髪を腰まで伸ばし、小麦色に日焼けした褐色の肌にワンピースの水着跡をくっきりと白く残し紅いV字のスリングショットの際どいコスチュームを身につけていた。
年の頃は13、14ぐらいで生意気なそうなツリ目に紅い瞳をした外国人めいた風貌で黒のロングアームと黒ロングブーツを着用し、片手に先端が赤い水晶の髑髏が付いたロッドを持っている。
「アビスのモンスター、イマジンはこの世界の概念を取り入れて受肉して現れるミュっ!あれも何らかの概念を取り入れて実体化しているミュっ!」
少女の隣を浮遊する白い毛玉が言う。
「あ〜、なるほど。道理でどっかで見たことあるなぁとは思ってたんだよ。今までの怪物をよぉ」
前に倒した奴は黒くてデカイ鳥だったし、その前の奴は闘牛みたいなデカくて長い角を持った化け物だった。
有名なロールプレイングゲームの敵キャラにそっくりだ。
そして今回は触手だらけの体にデカイ口を開けた化け物。なんか臭さそうな息を吐きそうな雰囲気だ。ていうか絶対に吐くだろ。
「ブラックナイトメアっ!相手は未知のバケモノミュっ!油断無く闘うミュっ!」
「あいあいサっと。とりあえず軽〜く魔法をぶちかますかっ――――マジカルフィジカルエターナルブースト身体物理強化っ!」
少女が赤い髑髏ロッドを構えて呪文を唱えると、黒い魔法陣が足元に展開して少女を包み込んでいく。
「ギャギャッ!」
「ゲッゲッ!」
ゴブリンたちがこちらに気付き、ぼろぼろのナイフを持って駆け寄ってくる。目の前の少女を明確な敵だと判断したようだ。
「喰らえっ! マジカルパワースイングッ!!」
ナイトメアが真紅の水晶ドクロのロッドを高く掲げ上げ、襲い来るゴブリンどもに振り下ろした。
ドガァッ!バギィッ!
「グゲーッ!ゴブしっ!!」
「ギャーッ!ゴベしっ!!」
カッチカチに硬いドクロ水晶で殴られたゴブリンどもの頭がカチ割られ緑色の脳汁をブチ撒けて吹き飛び黒い粒子となり消えていく。
「オラオラーッ!死ねっ!下等生物どもっ!!」
グシャッ!ボキィッ!ドゴォッ!ズシャアッ!
「ゴブゴブ〜ッ!」「ゴブ死っ!」「ゴブ南無ーっ!」
次々と商店街に蔓延るゴブリンを殴り殺し駆逐していく全身を返り血の緑の体液で染める魔法少女。
「ナイトメアっ!雑魚ばっかりに気を取られるんじゃないミュウっ!デカイのがコッチに来るミュウっ!」
少女の周りを旋回するヌイグルミみたいな生物が言う。
「モル、ボル〜」
触手の塊の巨大な化け物がウヌウヌしながら長い触腕を振るわせこちらに向かってくる。
「……ふうっ、ふうっ、アイツには近付きたくないなぁ。なんかエロ漫画みたいな展開になりそう」
荒い息を吐いて倒れたゴブリンの頭をグシャリと踏み潰す魔法少女。
「ガキがナマ言ってんじゃないミュウっ!さっさとイマジン倒して商店街に平和を取り戻すミュウっ!」
「……お前後で絶対ぶん殴るからな。ちっ!コイツはマジックブースト三段階ぐらいに強化して一気に始末して……」
「モル、ボルゥゥ〜」
化け物の触手が騒めき、一斉にその魔手を伸ばして魔法少女に襲い掛かってきた。