表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【放課後二人きり】

作者: 泥んことか げ


僕は、【勇者育成学校】通称【勇学】に在学している。

そして彼女は、同じ学校内【魔王育成科】に所属している。


なぜ2つが併設されているかは、大人の事情みたいだ。

職業として勇者が必要な様に同じく魔王も必要なんだ。

校内では、卒業するまでは、金網越しの君をみることしか出来ないんだ。


そして、卒業と共に新しい進路に行き僕は、やがて君を倒さなきゃいけない。


授業が終わり、いつも通りの時間に放課後二人の秘密の、ある場所へ行くのが日課なんだ。


そこは、学校から程なく歩いた所で小高い丘から覗く夕陽が綺麗なところでね。

二人だけの取って置きの場所なんだ。

特別な時間が流れ、笑顔が溢れ次第に二人の距離も縮まるんだ


「明日......卒業式だね」


その一言で手を握るのをやめ、僕は、照れくさそうに頭を掻きむしる。


「そうだな......でもお前凄いじゃん。もう魔王城の側近だろ?俺なんて伝説の剣しかない勇者だぜ?」


「そんなことないよ......私なんて......」


「いやいや、本当にすごいよ。尊敬する!!てか俺が認めたんだから信じろよ!!」


卒業式に乗り気じゃない彼女は、最後まで暗い表情だった。


【卒業式当日】1時間前


僕は、卒業式前にいつもの丘へ着いた。

着なれない装備を着用し、腰には、剣を携えている。

いかにも「勇者」という格好だ。

目の前にいた彼女は、気恥ずかしそうに横へ揺れていた。


突然体の力が抜け目眩がした僕は、地面へ片膝をついた。

彼女は、躊躇することなく僕の背後を取ると、殺意を込めた一撃を放つ。


僕は、咄嗟に剣を取った。

それは、僕が「勇者」だからか、それとも「臆病」だったからか。


心のどこかで彼女を敵として、「魔王」として認識していたのかもしれない。


彼女の気持ちも知らずに、胸に深々と突き刺さる剣は「カツンッ」と地面へ当たる。


理解出来て......いや、しようとしなかったんだ。僕は、何も分かっていなかったんだ。

剣ではなく、いたずら心がある彼女の手には、卒業祝いの赤い花「アルストロメリア」が握られていた。


「あなたの......心で......死ねてよかったよ」


口元からは、夕陽と似た鮮血が滴り落ちる。

苦しい素振りは見えなかったような。

僕に心配をかけたくなかったんだと思う。


「必ず......君に会いに行くからね」


倒れ込む彼女を抱きしめることしかできなかった。

「ポタポタ」と落涙し、彼女の涙と合わさり、地面を優しく濡らした。


それが彼女との最後の会話だった。

チャイムと重なった僕の声は、誰も聞くことがないだろう。


誰かを殺して「生」を実感するなら、せめて君と同じように「愛する」誰かに殺されて「人」として死にたい。

けど......君は、もういない......


突き立てられた剣を抜き代わりに花を持たせる。

初めて彼女の手を握ると、まだほんのりとした優しい温かさを感じながら、自らに剣を突き立てた。


「僕の中にある弱さ(魔王)(勇者)を殺したんだ」


【アルストロメリア】‐「花言葉」‐【未来への憧れ】


いま思えば、彼女は運命とは、いえ平凡な生活に憧れていたのかもしれない。


誰もが当たり前のように過ごしている「日常」ってやつをさ。






【また、放課後にいつもの場所へ二人っきりでね】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ