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第六話「初心を忘れるな」

今年最後の投稿になります!

皆さん、よいお年を!

そして、来年もスタイリッシュ警備員をよろしくお願い致します!!

「猫は自由……何にも縛られず、どこまでも」

「あの、詩人になってないで、ちゃんと探してほしいんですけど」

「お前は、考えたことはないか? 猫は自由だ。いや、動物全てに自由というものがある。なのに、人に飼われ、自由を奪われている」

「あの、人の話聞いてますか?」


 猫探しのクエストを始め、早十分。

 まだ探し猫は見つかっていない。

 そんな中で、猫の写真を手に持っているアリーシャに、剣児は突然語りだす。

 自由について。


「だが、動物達も嫌がってはいない。むしろ、飼われて幸せだと思っている者達が多いだろう」

「そりゃあ、まあ。ご飯も出てきますし、飼い主からの愛情も注がれますし。雨風しのげる場所もありますから。野生よりは、マシだと思いますよ?」

「俺もそう思っている。それを踏まえて、猫って動物は本当に自由な動物だ。飼われていても、こうして飼い主の下から離れて、どこまでも、様々な場所へ行くのだから」

「……えっと、つまり何を言いたいんです?」

「そうだな。猫と俺達冒険者は似ている、ということを言いたい」


 飼い猫も人に飼われているが、自由だ。

 首輪をつけているが、縄で繋がれてはいない。

 冒険者もそうだ。

 ギルドに所属しているが、基本的には自由。冒険。そう、冒険をする。クエストというものをしなくてはならないが、自由なのだ。


 戦いたい時に、戦い。食べたい時に、食べ。

 休みたい時に、休む。

 クエストばかりをやるのではなく、基本冒険者達は自由に過ごしている。


「それはわかりましたけど……あの、ちゃんと探してくれていますか?」


 いつまでも語っている剣児に、疑いの目を向けるアリーシャ。

 自分は、写真を見つめながらも情報にあった猫を見かけたという場所を隅々まで探しているのに対し、剣児はただ語っているだけ。

 言いたいことは理解した。

 理解したうえで、言いたい。その必要なクエストをちゃんとやっているのだろうか? と。


「心配するな!! 話しながらも師匠の居場所を探っていた!」

「師匠!?」


 またもや、奇妙なことを言い出す剣児にアリーシャは足を止め、驚愕する。

 そんな彼女に説明するかのように、ポーズを決めながら語り続けた。


「猫は、俺達冒険者達の師匠だ。ヒミカも言っていただろ? 猫探しは、色々と鍛えられることがあると。駆け出しの冒険者は、魔物と戦うためにここで鍛えるんだ! 観察力、反射神経、瞬発力、連携、様々なものがこのクエストで鍛えられる!!」

「な、なるほど。そう言われれば、確かに猫って私達を鍛えてくれていたんですね!!」

「その通りだ! さあ、居場所はもうわかった。さっそく猫師匠を捕らえに行くぞ!!」

「はい!!」


 



・・・・・★





「ふう。やっと捕まえましたよ、師匠」

「にゃー」

「いい訓練になった。感謝するぞ、猫師匠」

「にゃ?」


 数分後、二人の連携もあって白猫を捕まえることができた。

 師匠師匠と言われているが、はっきり言って猫にとっては何のことなのか、わからないだろう。


「というか、丁度依頼主の家の近くですね」

「もしかすると、猫師匠も丁度旅を終えて家に帰る頃だったのかもな」

「にゃー」

「なるほど」

「何を言っているかわかるんですか?」


 猫と見詰めあいながら頷く剣児だったが。


「いや、さすがに猫の言葉はわからない」

「ですよねー。とりあえず、この子をさっそく飼い主のところへ届けましょう。それでクエストは達成です」


 やはり、というか。当然のように、猫探しのクエストをすぐに終え、報酬を手に入れた剣児達は、次なるクエストを間を空けることなく受ける。

 そのクエストとは。


「腰が入ってないぞ! もっと腰に力を入れろ!! こうだ!!」

「おう! あんちゃん中々じゃねぇか!!」

「俺は、畑仕事もやっていたからな! 桑使いなら任せろ!!」

「わ、私だって田舎育ちの娘ですから! 負けません!! そりゃあ!!」

「おう! 嬢ちゃんも気合入ってるな! それじゃ、俺はちょっくら種を持ってくるから、頑張れよ!」


 畑仕事の手伝いだった。

 依頼主は腰を痛めてしまい、畑仕事がしばらくできなくなってしまった。代わりに畑仕事をしてくれ! との内容だ。

 畑仕事は冒険者らしくない、という意見もあるが、このクエストは駆け出しの冒険者や金欠の冒険者にとってはかなり役立つものだ。

 その理由は。


「頑張ってるわねぇ、二人とも」

「あ、奥さん。いえ、これが私達の仕事なので!」


 土を耕し、種を撒いていると、依頼主の奥さんが現れる。 

 その手に持っていたのは、蒸かした芋だった。

 

「少し休憩しないかい? こんなものしか用意できないけど。よかったら食べて」

「そんなことはない。芋は体に必要な栄養素を多く含んでいる。これはかなりありがたい食べ物だ」

「そういえば、おばあちゃんもそんなことを言っていたような……」


 こうして、差し入れをしてくれることがあるため、金がない時はかなりありがたい。しかも、関わりを持てば名指しでクエストを申請されることもある。

 そうすれば、優先的にクエストを受けられ、報酬も確実に手に入る。

 魔物討伐や素材採取だけが、クエストではないのだ。


「おう! 頑張ってるか!」

「こら、あんた! 大人しく寝てなさい! 治りが遅くなるわよ!!」


 蒸かした芋を食べながら休憩をしていると、戻って寝ているはずの依頼主である夫がやってくる。


「いいじゃねぇか。ただ寝ているよりも、若者の働いている姿を見ているほうがいいんだよ。暇でしょうがねぇんだ」

「そんなわがまま言ってないで、しっかり休まないといつまで経っても」

「まあまあ、奥さん。俺達は、別に構わない。それに、布団の中だけが休む場所ではない。ここでも十分休める」

「そうそう!! 大丈夫だって! ちゃーん休んどくからよぉ!!」


 その後、剣児達の仕事っぷりを依頼主は見詰めていた。

 仕事を終えた時には、無理に動かず感謝の言葉と自分の畑で育てた野菜を分けてくれた。ちなみに、こういう報酬以外の品は、怪しいものでない限り依頼主が認めていれば基本大丈夫となっている。

 そして、時刻は昼時になり、アリーシャ達は依頼主から貰った野菜を抱えギルドへと向かっていた。


「どうだ? 魔物討伐だけじゃなく、こういうのも大事で、楽しいというのがわかっただろう?」

「はい、私はちょっと焦りすぎていたのかもしれませんね。……というか、そういう剣児さんも初めてなんじゃないですか?」

「まあ、そうだな」


 剣児も、これまで魔物討伐ばかりをやってきた。

 とはいえ、元の世界でクエストではなく、私生活でやっていたためあまり苦ではなかった。冒険者は、他の者達とは違い魔物討伐や危険地への探索、素材採取など死といつも隣り合わせなことばかりをやる仕事と言えよう。

 そのため、こんなクエストなどやってる暇なんてない! という冒険者も少なくはない。


「でも、とても充実していました。仕事をしているなぁって」

「というわけで、午後からはその充実感を秘めたまま魔物討伐へと向かうぞ」

「わかりました! あ、このお野菜を部屋に置いてこなくちゃ」

「ならば、俺がギルドへ報告をして来よう。その後は、ギルドで昼食だな」

「了解しました! では、さっそく置いてきます!!」


 そう言って駆けるアリーシャの足取りはかなり軽快だった。

 本当に、充実していたということだろう。

 そんな彼女の後ろ姿を見詰めた後、剣児はギルドへと向かって行った。

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