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第五話「冒険の前に」

「はっはっはっは!! さあ、どうだ! 我が業火に焼かれる気分は! まだ堪えるか? ならば、闇の炎に抱かれ、灰塵と化すがいい!!!」

「灰塵と化しちゃだめですよ!! できれば半熟でお願いします!!」

「了解した」


 剣児は冒険者となった。

 今の冒険者達には、冒険者達専用の部屋が与えられる。それはアパートのような建物であり、一室四人まで一緒に過ごせることができる。

 とはいえ、ただで過ごせるわけではない。

 毎月、家賃を払わなければならない。家賃を払うため、生活のため、冒険者達はクエストへと挑む。一緒に住んでいるとはいえ、パーティーを組んでいるわけではない。

 だが、パーティー同士で住んでいる者達も少なくはないのだ。


 そして、剣児は一人暮らしをしている……訳ではなく。


「えー! ヒミカちゃんは、固焼きがいいなー。黄身までしっかりと!」

「何を言うんですか! 目玉焼きは、半熟が一番です! ご飯に乗っけて黄身を割り、しょうゆをかけて食べるのがおいしいんです!!」


 ライバル同士であったが、実は一緒に住んでいたアリーシャとヒミカ。

 毎日のように反発しあいながらも、仕方なく共に暮らしていたようだ。

 そこへ、新たに剣児が加わったことで、色々と環境が変わった。


「安心しろ!! 少女達よ!! 固焼き、半熟ともに俺が作ってやる!! とりあえず、固焼きだ」

「やったー! やっぱり、ヒミカちゃんが優先だよねー」


 今までは、互いに食事の準備などをしていたが、剣児が加わったことで家事全般を剣児がやることになった。

 料理から洗濯まで、何でもそつなくこなす彼を見て、二人は正直驚いていた。


「け、剣児さん! わ、私にも早く!」

「焦るな、アリーシャ。半熟はスピードが命! フライパンに火をかけ、卵を入れる瞬間から戦いは始まっている! さあ、フライパンはまだ温まっている! 卵を用意!」


 固焼きを焼いた後のフライパンを構え、卵を片手で割る。

 じゅーっと音を鳴らす。

 そして、いい具合に焼けたところで蓋をする。


「これで、後は一分だ」

「もぐもぐ」


 すでに目玉焼きを半分も食べていたヒミカ。

 だが、そんなヒミカと会話することなく、剣児はフライパンをじっと見詰めていた


「頃合いだ!!」


 火を止め、蓋を外し、卵をすぐ更に盛り付けた。


「できたぞ! さあ、召し上がれ!!」

「いただきます!!」


 ちなみに、半熟は二つ作っていた。

 剣児の分だ。

 椅子に着席し、手を合わせる。そして、箸で卵を挟み、そのまま白いご飯に乗っけた。


「ところで、今日はどんなクエストに行きますか?」

「猫探し」

「猫探し!? 昨日までは、がんがん魔物を倒していましたよね! なんでいきなり?」


 そう、剣児はアリーシャとパーティーを組み、がんがん魔物討伐のクエストをクリアしていた。

 ちなみに、ギルドは大騒ぎ。

 いや、ギルドだけじゃないガーデジオが、今では世界中が大騒ぎになっていることだろう。

 当然だ。

 ヴィスターラを救ったのあの勇者刃太郎の息子が、訪れているのだから。

 息子がいることは、聞いていたが実際に会ったことはない。

 そのため、名前と写真が世界中に広まっている。


 その勢いで、剣児は次々にクエストをクリアしていった。ここ一週間は、十分生活していけるほどまで。そのおかげもあって、家賃を払えるか不安だったアリーシャも感謝したという。


「初心忘れべからずだ。父から聞いていた。冒険者はまず、確実に金を稼ぐために、猫探しから畑仕事、店番など何でもやると。俺は、生まれてからそういうことをしたことがない。だから、やってみたい!! というわけで、俺は今日猫探しをしようと思う」

「いいじゃーん。アリーシャもぉ、一緒にやってきたらいいじゃん。猫探しは、地味そうに見えて、色々と鍛えることができるんだよ? ヒミカちゃんは、今日も皆の笑顔のために魔物退治に行くけど!」


 ヒミカは、戦うアイドルを目指している。

 可愛い見た目とは違い。がんがん自ら前に出て魔物を倒し、パーティーに誘われれば笑顔で参加する。

 しかも、単独ライブを開いて、皆に歌を披露することもあるそうだ。


「ご馳走様でした! じゃあ、ヒミカちゃん! 今日も、元気に突撃ー!!」

《おっす!! ヒミカちゃんの笑顔は今日も眩しいっす!!!》


 玄関から出て行くとすぐに、あの取り巻き達が集合した。

 ヒミカから聞いたことだが、あの取り巻き達は、三つ子だそうだ。しかも、一人一人の名前もしっかりと覚えており、間違えることがない。

 ヒミカが言うには。


「アイドルとして当然のこと!! やっぱり、ファンの顔と名前はしっかり覚えておかないとねぇ!! ヒミカちゃん、すっごい!!」


 まだまだファンはいるようだが、全員の顔と名前を覚えているのは素直に凄いと剣児は感心していた。

 いったいどれだけのファンが居るのかはわからないが、相当な記憶力だ。


「相変わらず、食べるのが早いですね、ヒミカは。食事ぐらいゆっくり食べればいいのに」

「そういえば、お前達は幼馴染だと言っていたな?」

「そ、そうですけど。あ、あまりその辺りのことは聞かないでいただければ助かります……」


 最初に聞いた時も、そうだったがヒミカとの昔の思い出は、苦いものばかりであまり話したくはないとのこと。

 ヒミカはヒミカで、アリーシャのことをからかいつつも、大事な幼馴染だと思っているようだ。

 だが、その想いアリーシャには全然届いておらず、色々とすれ違っている。


「それで、お前はどうするんだ? 今日も、俺と一緒にクエストをやるのか?」

「よろしくお願いします!!」

「いいだろう。俺は、俺を頼ってくる者は拒まない! まあ、お前は一人にしておいたら、また魔物にやられそうだからな」

「そ、そこまで弱くないですよ!」


 これまで一緒にパーティーを組んできたアリーシャの強さは知った。

 魔法使いではあるが、接近戦もできる魔法使いのようだ。

 戦い方は、己の体で殴り、蹴りながら魔法を発動する。

 新しい職業で【魔拳士】というらしい。

 アリーシャは、父親が有名な魔拳士らしく、小さい頃から随分と鍛えられた。それでも、すぐ魔力切れになってしまうため、長期戦は苦手のようだ。


「その辺は、これからの課題だな。さて、朝食も食べ終わったし。片付けてから、さっそく行くぞ」

「むぅ……負けない! 私は、立派な魔拳士になってみせます!!」

「その意気だ! あ、その前に」

「あ、そうですね」


 二人は、手を合わせ。


《ご馳走様でした!》

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