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第七話「その頃」

「よーし! これで、課長になりました!! ふふん! このまま一気に出世していきますよー!! いやぁ、それにしても地球の文化って本当に素晴らしいものばかりですよね。こんなにも面白い娯楽がたくさんあるなんて」


 剣児達が、外に出ている間アリーシャ達は、屋敷の中で待機。

 ただ待っているのもつまらないので、今はゲームで遊んでいた。

 広々とした部屋の中に、大きなテレビ。

 そして、いくつものゲーム機やソフトが置かれている。


 アリーシャ達も、これまで地球の文化に触れてきたが、改めてやるとやはり、地球の娯楽というのはすごいものばかりだと感心するばかり。

 この時代に生まれてきて、本当によかったと心の底から思っている。


「だよねぇ。ヒミカちゃんは、音ゲーっていうのが好き! 色んな音楽が入っていて、リズムもそこから学べるし! あ、でもやっぱり自分で歌うのが一番なんだけどね!」

「えへへ。パパが、家にいても退屈しないようにって。こんなにも色んなゲームを揃えてくれたの。楽しんでくれたなら、嬉しいな」


 シズクが命を狙われるようになって、ジムはシズクが退屈しないようと色んなものを用意し、様々な防護策を屋敷内に作り上げた。

 今まで、こんなことがなかったため少しやり過ぎた感があるほどに。


「ところで、このボタンって何なんですか?」


 ゲームをしている最中からずっと気になっていた赤いボタン。

 アリーシャは、どうしても気になってしまっている。


「あ、それは」

「押してみればわかるー」

「ちょっ!? ヒミカ!?」


 シズクが説明しようとしたが、ヒミカが楽しげにボタンを押してしまう。アリーシャは、明らかに嫌な予感がしていたため、身構えると。


「え?」


 部屋のドアが開き、メイドが入ってくる。


「何が御用でしょう? シズクお嬢様」

「えーっと。あっ、そうだ。飲み物が切れちゃったから、違う飲み物を用意してくれる?」

「かしこまりました。ご要望などは?」

「それじゃあ、グレープジュースで」

「はい。では、こちらに」


 どうやら、すでに用意していたようで、グレープジュースが入ったペットボトルをメイドはその場に置き、一礼して部屋から去って行く。


「メイドさんを呼び出すボタンだったんですね」

「うん。本当はそんなことをしなくても、自分で取りに行けるんだけど。もしものことがあったらーって。ちなみに、この部屋のガラスは魔法耐性はもちろんだけど、物理攻撃にも耐性があるんだよ」


 そう言って、初級魔法の《フレア》を放つとそれは簡単に弾かれてしまう。


「どれくらいの耐性があるんですか?」

「中級魔法までは耐えれるって。さすがに上級ともなると、素材の入手が困難で、もし入手したとしても加工が難しいだろうって」


 確かに、上級魔法ともなれば、かなり魔法の使い手となる。そんな者から命を狙われるようならば、相当なことをしているということ。

 上級魔法をも耐えれる素材は、かなりの入手困難なものばかり。魔法使い達による結界を張れば、一時的にだが耐えれるだろうが、一時的に、だ。

 ちなみに、ガーデジオ城などには上級魔法に耐えれるほどの強度がある。


「魔法耐性なんていらないって言ったんだけど……」

「もしものことがありますしね。でも、一度命を狙われただけで、ここまで揃えるなんて」

「すごい娘愛だねー。あーあ、故郷のお父さんとお母さんが恋しくなっちゃったなぁ」

「そういえば、アリーシャお姉ちゃん達のパパとママってどんな人達なの?」

「ヒミカちゃんの両親はふつー。のほほーんっとしていて、いつもヒミカちゃんに優しくしてくれる人達、かな」


 そのことは、アリーシャはもちろん知っている。

 同じところからやってきたのだから。

 だからこそ、ヒミカの才能は凄いと思っている。普通の家族から、あれほどの支援魔法を扱える子供が生まれたということに。


(私みたいに、それなりにすごい両親を持っているならともかくとして。ヒミカの場合は、本当に普通の家庭に生まれたのに、この才能ですからね……。最初に出会った当時は、羨ましいって思っていましたっけ)

「アリーシャお姉ちゃんは?」

「私ですか? そうですねぇ……あっ、写真があります。えっと、これです」


 携帯に、両親の写真が保存されているのでそれを見せるアリーシャ。

 画面に写っていたのは、髭面で顔に大きな傷があり、筋肉が隆々とした二メートルは超えているであろう巨漢と、明らかにお姉さんという雰囲気がある白髪の女性にアリーシャだ。


「もしかして、この人がアリーシャお姉ちゃんのママ?」

「はい。あ、もしかしてお姉さんだと思いました?」

「う、うん。なんだかすごく若く見えたから」


 確かに、見た目はアリーシャよりも少し上で、アリーシャがそのまま成長したように見える。

 シズクが勘違いするのも無理はない。


「あらあら? 確かに、若々しい見た目ねぇ。羨ましいわぁ」

「ま、ママ!?」

「え!? シズクちゃんのお母さんですか!?」

「うわ!? こっちも若い!?」


 三人で、写真を見ているところに突然現れた女性。

 栗色の長い髪の毛に、真っ白なドレスを身に纏っている。若干垂れ目で、なぜかソフトクリームを手に持っていた。


「あらあら。嬉しいわぁ、そんなことを言ってもらえて」

「もう、ママ。またアイスばかり食べてるの? お昼前だよ?」

「うふふ。だってー、止められないのだもの。特に、この抹茶のソフトクリーム!」

「えーっと」

「あ、ごめんなさい。私は、シズクの母でシャスティ・ウォルバーよ。あなた達が、シズクを護ってくれている冒険者さん達ね。初めまして」

「は、はい。初めまして」

「気配を感じなかった……この人、すごいやり手!?」


 アリーシャ達も、それなりに経験を積んできている。だから、気配を感じ取ることだってできるのだ。しかし、彼女は。

 シャスティは、この部屋に入ってくる音。いや、近づいてくる気配すら感じさせなかった。


「ママは、元々冒険者をやっていたの。だから、昔の癖でよく気配を消してわたし達を困らせるちゃうの」

「そうだったんですか。それにしても、冒険者からジムさんの奥様になるなんて。すごく出世ですね」

「パパの一目惚れ、だったんだよね?」

「そうねぇ。最初は、驚いたわ。私も、当時は普通の冒険者だったから。突然、公衆の面前で告白された時は、食べていたアイスを落としそうになったもの」


 その時から、食べていたんだ……。アリーシャは、苦笑いしつつも。その時のことを想像した。ジムは、この、ミューレンでは一番偉いと言ってもいいだろう。

 そんなジムから、公衆の面前で告白をされた。

 しかも、その相手は冒険者。

 とはいえ、この場にいて、シズクを生んだということは告白を承諾し、結婚したということ。指には、結婚指輪であろうものがある。

 とても、高級そうな宝石がはまっている指輪だ。


「失礼なことを聞くようですが。どうして?」

「結婚したか、ね。当時のあの人は、すごく痩せていて、すっごくイケメンだったの」


 そう言って、当時の写真を見せてくれる。


「十二年ぐらい前の写真よ」


 今のジムとは大違い。顔も体もシュッとしており、二人ともさわやかな笑顔をしている。スーツを着ているその姿は、誰から見てもイケメン。

 それが、今では……。

 確かに、面影は残っていたように見えたが。


「うわ、本当だ」

「ふむふむ。幸せ太りってやつだね! これは!!」

「その通りー。私って、よく食べるほうだったから。あの人も一緒になって、食べていたらあんなになっちゃったの」

「周りからは、何か言われなかったんですか? 冒険者が、街を統括しているウォルバー家と結婚するとなると」


 反対の声が上がったのではないか。

 アリーシャは、少し聞き難そうにしつつ問いかけると。シャスティは、のほほーんとした笑顔で答えてくれる。


「ぜんぜーん。ジムさんが惚れた女なんだ! とか。これで、ウォルバー家の未来は安泰だ! とか。祝福の言葉ばかりだったわよ」

「パパってば、結婚なんて考えていない! 今は、このミューレンをもっと発展させないと! って仕事一筋な人だったんだって」

「なるほど。そんな人が、初めて女性に惚れて、しかもいきなり告白。皆さんも、ジムさんの幸せをずっと考えていたんですねぇ」


 ちょっとあれな人達も多かったが、とてもいい街と住民達だとアリーシャは、何度も頷く。


「さて。アリーシャちゃん」

「はい、なんでしょうか?」


 抹茶のソフトクリームを食べ終えたシャスティは、静かに立ち上がりアリーシャにこんなことを提案する。


「食後の運動をしたいの。組み手とか、いかがかしら?」

「へ?」


 これは、予想外。護るべき者の母親からのいきなりの組み手をしないか? 相手は、昔冒険者だったようだが。昔の話。

 だが、気配を感じさせず自分達に近づいてきた。

 もしかすると、今でも相当な使い手なのかもしれない。

 そんな人と、組み手をできるなら……。

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