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第十三話「とっておきを」

「気を取り直して……おい、勇者の息子!!」

「俺は、剣児だ」

「ああ、わかってるよ。んなこと。剣児!! 俺様はてめぇをぶっ殺さなくちゃならねぇ!」

「……それは、お前が魔帝バルトロッサの配下だったから、か?」


 剣児の言葉に、アリーシャ達は目を見開く。

 いや、マグルもそうだ。

 いや、正確には、常に目を見開いているというか、常に、つぶらでまん丸な瞳なので、これ以上見開けないのだ。

 しかし、驚いているのは確かだ。

 

「……知っていたのか」

「お前が連れ去られた後、ゴドゴンに聞いた」


 魔界から来た魔族達にも、二種類いるそうだ。

 魔帝バルトロッサの配下として来た魔族と、ただ暴れたいがために、ついて来た魔族。マグルは、前者のほうになる。


「そうかよ、あのじじいがな。ああ、そうだ! 俺様はバルトロッサ様の配下だった魔族!! そして、てめぇは勇者の息子!! 言いたいこと、わかるだろ?」

「敵討ちか? 言っておくが、俺を倒したとしても、バルトロッサを倒したのは俺の父だ。正確な敵討ちにはならないぞ?」

「ハッ! だったら、てめぇを倒した後に、勇者に縁のある奴らを根絶やしにしてやるよ!! そうすれば、勇者自らこっちに来るだろうよ!!」


 真面目な空気。 

 だが、アリーシャ達は思った。

 剣児が負ける光景が浮かばないと。そして、何よりも勇者刃太郎に縁のある者達を根絶やしにすると言っているが、それも不可能に近いだろう。

 

 勇者に縁のある者達には、常に神々の加護がある。

 もし何かあった場合は、即座に神々が何とかしてくれるだろう。それに、刃太郎と共に旅をした三人ならば尚更無理な話だ。

 

「くっくっくっく!! さあ、楽しい楽しいパーティーを開始しようじゃねぇか!!」


 まるで開始の狼煙とばかりに、魔力の塊を天へと打ち上げる。それは、二十メートルほどのところで弾けた。

 いったい何のつもりだ? と首を傾げると。

 背後で待機していた騎士達がざわつく。


「どうした? なっ!? 東門に向かってくる敵影複数ありですって!?」

「西門にも!?」

「なるほど。さっきのは、本当に開始の狼煙だったわけか」

「そういうこった。さあ、どうする? 俺様と戦うか。他のところに助けに行くか!!」


 意識を集中させ、周囲の気配を。そして、魔力を感知する。

 東門に向かっている敵は、約四十。

 西門に向かっている敵は、約五十。

 南門は、イシュラとアルルが居るため心配はいらないだろう。

 ……違うな。


「お前、馬鹿だろ」

「な、なにぃ!?」


 どこの門も心配いらない。むしろ、最初から心配などしていない。剣児に、馬鹿と言われたマグルは高笑いを止め、こちらをじっと睨みつけた。

 

「ここがどこだか忘れたのか?」

「あぁ?」

「ここは、中央大陸一の国。そして、勇者刃太郎が召喚されたところだぞ? なによりも冒険者の数も大陸一だ」

「んなこと知ってるっつーの。だからこそ、とびっきりの魔物どもと魔族を―――ん? どうした?」


 にやっと剣児が笑みを浮かべると同時に、マグルへと念話がきたのだろう。誰かからの報告を聞いたマグルは、はあっ!? と驚きの声を上げる。


「報告します!! ガーデジオの冒険者達の協力もあり、魔物の軍勢を順調に撃退できています!!」

「西門も同じです! 中に、魔族もいるということで、少し苦戦を強いられているようですが。順調に、魔物を倒しています!!」

「っと、言うわけだ。ガーデジオを落とそうとするなら、何千、いや何万もの軍勢を連れて来るんだな! まあ、それでも足りないと思うが。さあ、どうする?」


 しかし、わからないことがある。まだ数は少ないとはいえ、これだけの魔物達をマグルが集め、操ることなどできないはずだ。

 力のある魔族達は、魔物を操ることができると聞いたことはある。

 マグルも、あんな見た目で少し馬鹿そうなところもあるが、力はある魔族だと剣児は理解している。が、それでも東西南北の門を攻める魔物の軍勢を操ることは、難しいはず。

 もしかすると、マグル達の脱獄を手伝った第三者が? バトゥーも、中々の魔力を持った魔族だったが、協力したとしても百以上を超える魔物を広範囲で……。


「ちっ。しゃあねぇな。さっさとてめぇをぶっ殺して俺様が加勢に行くしかねぇようだな!!」


 魔力を解放すると、森の方から、魔物の軍勢が押し寄せてきた。数にして、七十は超えているだろうか。居るのはわかっていた。

 何も焦ることはない。

 ぎゅっと穴開きグローブをしっかりと手にフィットさせ、剣児は叫ぶ。


「行くぞ! お前達! 周りの雑魚どもは任せた!! ボスは、俺が倒す!!」

「了解ー!! よーし、やっちゃうよー!! ヒミカちゃんとっておきの付与魔法!!」


 刹那。

 ヒミカの魔力が、いつも以上に。爆発するように体中から溢れ出てくる。マイク型の杖を口元に近づけ、その魔法を唱えた。


「頑張れ! 頑張れぇ!! ヒミカちゃんの応援は、世界を救う!! 《オールアップ・マジック》!!!」


 ヒミカを中心に虹色の光は放出される。

 それは、剣児達を包み込んでいく。

 ただの付与魔法じゃない。

 これは……全てのステータスが向上している。そんな感覚がある。


「ひ、ヒミカ。あなた、こんな上級魔法をいつの間に」

「ふふん! とっておきって言ったじゃん!! でも、これ唱えちゃったら、一気に魔力が尽きちゃうんだよねー」


 本人の言う通り、笑顔を保とうとしているが疲労の色は隠せていない。全てのステータスを上げるうえに、広範囲の魔法だ。

 現在のヒミカの魔力では、一度使えばかなりの魔力を消費してしまうのは必然。

 が、これで随分と楽にはなる。

 

「さすがは、スーパーアイドルだ!!」

「ふふん!! どんなもんだー!! さあ! ヒミカちゃんの応援で、皆元気いっぱいになったところで!」

「……仕方ありませんね。やってやりますよ!」

「主よ。熊狩りといこうではないか」


 ヒミカの付与の力により、いつ以上に身軽に力強い動きができている。森から押し寄せてきた魔物の軍勢をアリーシャ達は次々に撃退していく。

 これならいける! と騎士達も、希望に満ち溢れた表情で剣を振るっていた。


「ヒミカがとっておきを出したんだ。こうなったら、俺もとっておきの武器を見せてやろう!!」


 とっておきの武器!? と、アリーシャ達は興味津々のようだ。

 今まで、剣児は魔法や拳、魔力を武器に生成し戦ってきた。

 だからこそ、剣児には決まった武装はないものだと思っていたが。ついに、剣児が所持している本物の武器を拝めることができる。

 マグルも、いつもと違う雰囲気の剣児に警戒心を高めていた。


「さあ、解き放とう! 我が魔力を喰らい! 顕現せよ!! 聖と魔。全てを打ち砕く我が玩具よ!!!」


 呪文の詠唱に呼応し、空間から落ちてきたのは鎖で拘束された棺桶。

 出てきただけで、体が縛られたかのように動かなくなる。

 それだけの力が、あの棺桶の中に。

 自然に、鎖は解かれ棺桶が……開く。

 

「見るがいい!! そして、恐れ慄くがいい!! こいつが、俺の最高にして最強の武器だ!!!」


 勢いよく引っ張り出したその武器は……。


「……あの」

「どうした? あまりの最高さに、言葉も出ないか?」

「あ、えっと、いやその」


 どう言ったらいいのかわからない状態のアリーシャ。ヒミカももちろん、騎士達も微妙な反応で固まっていた。

 しかし。


「おい!! てめぇ!! まだふざけるつもりか!!」

「なんのことだ!!」


 マグルが、代わりに突っ込んでくれるらしい。


「てめぇ……それのどこが最高で最強の武器だよ。どう見ても、そいつは!!」


 そう、剣児が手に持っているものは、おそらく誰もが見たことにあるもの。

 例えるなら……雨の時とか日差しが強い時とかに使う代物。

 つまり。


「傘じゃねぇか!!!」

「ああ、そうだが?」


 決して、剣児自身はふざけているわけではないのだろうが。何も知らない者達から見れば、その傘のどこが最高で最強の武器なのかまったくわからない。

 マグルが怒るのも、無理はない。

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