第二話「奇妙な出会い」
「ここが、異世界ヴィスターラか。なるほど、少しマナの質が違うようだな」
黒髪に、眼帯、穴開きグローブを身につけた少年、威田剣児は召喚陣から姿を現す。ここはかつて、父である威田刃太郎が救った異世界。
今では、平和そのものであり、新たな勇者が召喚されるような事態には陥っていない。
なら、なぜ剣児はこの異世界に来たのか?
簡単な答えだ。
剣児は、ずっとひとつの世界で十五年もの月日を過ごしてきた。その間に、父からは自分が若い頃に救った異世界の話をずっと聞いていた。
そして、剣児は思ったのだ。
自分もその世界へと行ってみたい、と。だが、刃太郎は許してくれなかった。お前の力は、強すぎる。力を制御できない今の状態で行ったらヴィスターラ側に迷惑をかける。
「だからこそ、俺は待った。その時が、来るまで。来る日も来る日も、俺の溢れ出る力を制御するべき、血の滲むような特訓を重ねてきた……!」
そして、今の自分がある。
とはいえ、あまりにも大きすぎる力ゆえに、今でも制御しきれていない。だからこそ、封印術にて、一時的に封印しているということだ。
「さて、さっそくこの近くにある街に行くか。我が父の話では、この道を真っ直ぐ進み十分ほどで着くらしいからな。まずは、そこを拠点とし、俺の伝説への一歩とするか」
今から剣児が、行くのはかつて刃太郎が召喚された王城がある街。
ガーデジオ。
まずは、そこへと向かい今のヴィスターラのことを知ることから始めよう。オージオからは、何か支援はいるか? と言われたが、何もいらないと剣児は答える。
自分のことは自分でやる。
何もない状態からやるからこそ、楽しいのだと。
「豊かなところだ。俺が生まれ育った世界に似ている。いや、俺の生まれ育った世界がこっちに似ている、というのが正しいか」
父である刃太郎は教えてくれた。
色んな出来事があったヴィスターラ。それを少し、自分の世界に取りいれたと。だからこそ、この何もない道も違和感なく歩いていられる。
五分ほど歩き、木々が出始めたところで、剣児はあるものを見つけた。
「……」
少女が、植物のような化け物に襲われている。
蔓で身動きを封じられていたのだ。
「ふむ」
普通なら助けるところだが、剣児は興味津々な様子で観察していた。
「ちょっとー、観察してないで助けてほしいんですけどー」
「少し待て。ほうほう、これが魔物という存在か。映像では見ていたが、実物を見ると中々迫力があるな。こいつの足元はどうなっているんだ?」
「そんなことしていたら、あなたも襲われますよ!」
白髪の少女がジト目で助けを求めているは、剣児は実際に見る初めての魔物をとことん観察している。蔓を触った後、足元はどうなっているんだ? と膝をついた刹那。
「おうふっ!?」
一本の蔓が、剣児の腹部へと強烈な一撃を与えた。
「ほら、言わんこっちゃないー!!」
くの字となり、吹き飛んだ剣児は仰向けに倒れ、青い空を見上げる。
「さすがは、魔物。容赦のない一撃だったな。だが、所詮は植物といったところか。我が【神魔の衣】を貫くことは敵わなかったようだな」
無傷の状態でむくりと起き上がり、再び魔物へと近づいていく。
あれほど強烈な一撃を受けたのにも関わらず、ぴんぴんとしている剣児に少女は目を丸くしていた。
「あ、あなたなんともないんですか?」
「当たり前だ。我が神魔の衣は、光と闇の力が合わさった奇跡の衣。植物程度の攻撃で、ダメージを負うはずがない!」
「そのわりには、おうふって声をあげていたけど」
「ダメージはないが、衝撃はある」
「それってダメージ受けてるんじゃないんですか?」
「断じて違う」
魔物を前にして、テンポのいい会話をしている二人だったが。
空気を読むことはない魔物は、蔓から謎の液体を放出。
それは、どろりと少女の服に肌に付着し。
「あわわわ!? ふ、服がぁ!?」
「おお! これが噂に聞く、衣服だけを溶かすという謎の液体か!」
徐々に、少女の服が溶けていく。
肌にも付着しているのにも関わらず、なぜか服だけが溶けていくのだ。これも、聞いていたことなので剣児は興味津々だ。
だが、少女にとっては由々しき事態。
内股になりながら、少女は最初よりも大きく必死な声を上げる。
「あ、あのー! は、早く助けてくれませんかねー!! こ、このままじゃ服が……!」
「少し待て」
「待てません!!」
「もう少し服が溶けるまで待て!!」
「待てませんって言ってるじゃないですかー!! 早く助けろ、ぼけぇ!!!」
もはや、必死になりすぎて罵倒の言葉を剣児へと叫ぶ少女。だが、それでも剣児は助けない。じっと吹くが徐々に溶けていくのを待っている。
そして、程よいエロさになったところで。
「もういい、お前はマナに還れ」
魔力を放出させ、魔物を一撃でマナへと還した。
「ひゃっ!?」
随分高く吊るされていた少女は、魔物が消えたことでそのまま落ちる。
が、剣児が下に居たので簡単に受け止めた。
「なるほど、聞いていた通りだ。この服だけを溶かす液体は、エロい感じな溶かし方をするようだな」
「そ、そんな簡単に倒せるなら、ちゃっちゃと倒してくださいよ!!」
もはや下着も見えてしまっており、恥ずかしそうに身を抱く少女。
早く下ろせという視線に気づき、剣児は少女を下ろす。
再び少女を観察し、口を開いた。
「安心しろ」
「な、何がですか?」
「これで、お前は注目の的だ」
「それはそうでしょうね! こんな恥ずかしい格好をしていれば!! もう、どうするんですかこれぇ! 変えの服は、ないんですよ今!! これじゃ、ろくに街すら歩けませんよ!!」
確かにその通りだ。
ならば、と剣児は何もない空間に手を突っ込み、何かを探している。
そして。
「これを着るがいい」
取り出したのは。
「バニーガールじゃないですか!?」
「発育のいいお前にはぴったりだろ」
「確かに、同年代の子よりも発育はいいほうですけど……い、嫌です! 恥ずかしいです!」
「ならばこれだ!」
と、バニーガールを残したまま次に取り出したのは。
「布じゃないですか!? しかも小さすぎます! 下半身が隠れませんよそれじゃあ!」
明らかに薄い布であり、しかも誰が見ても小さい。
これでは、確実にパンツが見えてしまうだろう。
「冗談だ。とりあえず、これを着るがいい」
最初に出した、二つを収納し次に取り出したのはフリルが多い可愛らしい服。
つまり、メイド服だ。
「なんでメイド服……」
最初の二つよりはマシだと言う目をしているが、それでも微妙な反応である。
「ちなみにロングスカートのほうもあるぞ」
「なんで二着もあるんですか」
「備えあればというだろ」
「一体何の備えなんですか!?」
少女の服は、魔法使いを思わせる服装だった。羽織っていたマントは最初のうちに全部溶けてしまい、もうない。
残っているのは、普通の街娘のような服とスカートだけ。
だが、それも半分以上溶けていて、下着が全然隠れていない。
悩みに悩んだ結果。
「じゃあ、着替えてきますけど……覗かないでくださいよ」
ミニスカートのほうのメイド服を着ることにした。
それを手に茂みの奥で着替えようとする少女は、剣児を変態を見ているかのような視線で睨む。
「俺が、そんなことをする男に見えるか?」
「見えます」
考える余地のない即答っぷりであった。