第一話「異世界へ」
「あっ! 剣児様だ!!」
「わーい!! 遊んで遊んでー!!」
「ふっ、いつも言っているだろ、リトルボーイ&ガールズ。俺に近づくと、怪我じゃすまな―――」
しかし、子供達は言うことを聞かない。
元気な笑顔で、女の子は背中に乗り、男の子は膝を蹴ってきた。
「えいやぁ!!」
「かかれぇ!!」
「お、お前達!! 人の話はちゃんと聞けと親から習わなかったのかぁ!?」
威田剣児。
この世界で知らない者はいない。
二つの世界を救った大勇者である威田刃太郎の息子。この世界でならば、絶対一度はその名を聞くことになる。
しかし、その人気は大勇者の息子、というだけではない。
その格好、言動がある意味人気なのだ。
常に、穴開きグローブと眼帯をつけており、オーラを放っている。普通の者達から見れば、ちょっとあれなファッションをしている少年に見えるだろうが。
この世界に住んでいる者達には、剣児が纏っているオーラすらも見えているため、余計に目立つのだ。
更に、人を寄せ付けないような言動を放っているが。
「まったく……いいだろう! 旅立ちの前に、お前達と遊んでやる!!」
なんだかんだで子供の世話をしっかりしてくれる。
「え? 旅立ち?」
「剣児様、どこかに行っちゃうの?」
剣児の言葉に、子供達は首を傾げる。
どこからともなく、大きなボールを取り出し人差し指でくるくる回しながらああっと首を縦に振る。
「俺は、父を超える伝説を作るため、今日旅立つ。お前達との戯れもここまでということだ」
「ええー!! そんなのやだよー!」
「なんで旅に出ちゃうの!」
「だから言っただろ、俺は偉大なる勇者である父を超えるため、異世界へと旅立つ。俺の魔眼も騒いでいる。くっ!」
しっかりとボールを指で回しながらも右目を押さえる剣児。
「じゃあ、あたし達も行く!」
「そーだ! そーだ!! 僕達だって、強いんだぞ!!」
確かに、彼らは強い。
この世界に居る住人達は、特殊な能力を持った種族ばかり。異世界で暮らしている普通の子供達よりも、断然強いだろう。
しかし。
「お前達は、ここでまだまだ学ぶことがあるはずだ。それに、俺の勝てないようでは異世界へは旅立てないぞ?」
「むぅ!」
「剣児様は強すぎるんだよー!!」
「手加減しろー!!」
「断る!! さあ、お前達! 旅立ち前の全力ドッジボールだ!! 心してかかってこい!!」
ボールの魔力を込め、剣児は構える。
子供達は、お互いに見詰めあいながら首を縦に振る。
「やってやるー!!」
「皆ー! 集合ー!! 剣児様に怪我をさせて、旅立ちを阻止するよー!!」
刹那。
二十人は軽く超える子供達が、剣児の前に現れ、魔力を高める。だが、剣児が臆することはなかった。逆に、武者震いで体を震えている。
「はっはっはっは!! 行くぞぉ!!!」
・・・・★
「ふう。なかなか、いい運動になった」
剣児は転移魔方陣の前に立っている。
準備運動も済ませ、子供達とも挨拶を交わした。
持って行くものは、自分の体のみ。
父である刃太郎も、召喚された時は学生服のまま武器ひとつすら持たずだった。ならば、自分も何も持たない状態で出向こう。
とはいえ、その時の刃太郎とは違い最初から圧倒的な力を持っている剣児にとっては、かなりのイージーモードになる。
それでもいい。
今からヴィスターラへと旅立つ剣児は……全力で異世界を、楽しむつもりで旅立つのだから。
「ん? 電話?」
いざ、行かんと魔方陣に足を踏み入れようとした時だった。
「どうしたんだ? これから旅立とうとしている時に。……心配することはない。俺の強さは知っているだろ? それに、これは父との契約。俺はその契約に従い、十五になるまで待った。もう今の俺を止められる者は……まあ、居るがあえていないと言っておく」
自分はかなり強いと思っている。
だが、それでも何人かは負けそうな相手を知っている。ある意味、もっと強くなるためにヴィスターラへと向かうと言ってもいいだろう。
本当の戦場で、魔物や悪魔と戦うことで更に成長を遂げる。
「俺は、父を超える! そのためにも、父が旅し伝説を築いた世界を俺も知る必要がある! 他の皆にも伝えておいてくれ。俺は必ず父を超える伝説を作り、帰ってくると。なに? 自分で伝えればいい? ……ふっ。そんな恥ずかしいこと言えるか!! 大丈夫だ。何かあればまた電話をすればいい。それに、あっちにはオージオ達も居るんだ。では、頼んだぞ。有奈おばさん」
通話を切り、携帯をポケットへ仕舞って、剣児は再び魔方陣へと歩み寄っていく。青白い光が、剣児を包み込み天へと昇っていく。
意識が集中していく。
さあ、旅立ちだ。