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妖怪探偵・猫天狗!  作者: 深森
妖怪探偵・猫天狗!~「赤き緒のたまゆら」事件
37/40

(4)敵の正体を突き止めよ~外堀をシッカリ埋め埋め重要ニャ・3

草木も眠る丑三つ時(深夜2時~3時)。


ひとならざる怪異が跳梁ちょうりょうする頃合いである。


ラグジュアリー・ホテルの、特別ラグジュアリーな、複数の続き部屋を備える客室。


ボディガードを務める男女2人とともに、香多湯出カタユデおう目暮啓司メグレ・ケイジは、備え付けのソファや椅子で仮眠の真っ最中だ。


目暮啓司メグレ・ケイジは、いつものように……予想どおり怪異を眺め、体験する羽目になった。


オカルトの中のオカルト――霊体離脱である。


「あ、やっちまった」


と思った瞬間に、スッと抜けるのだ。


猫天狗ニャニャオいわく、高位の神官は霊的現象が日常的にできたとのことだが、ハッキリ言って眉唾マユツバものである。


先祖の功徳くどくの影響なのか、本格的な神職――平安時代のような恰好。


オカルト・コスプレだ。


気恥ずかしいこと、このうえない。


――所作の基本すら知らないのだから。


普段着っぽい白い着物だから、Tシャツと思えば耐えられる……と思えるくらいだ。正直、正月のころの、黒だか紫だかの着物の時は、最高に黒歴史だった。いや紫歴史だったのか。


長大な袖の中をさぐると、やはり異世界「ハタキ状」の白いのが出てきた。ネット百科辞典によれば、古式ゆかしき「大幣おおぬさ」らしい。


毎度のように、空中浮遊している怪異、すなわち「ホラー悪玉菌」や「クリーチャー・ゴキブリ」のような気色悪い「ナニカ」を、ハタキで、シッシッとやる。


目暮啓司メグレ・ケイジ自身としては、この状況を理解できないし理解したくも無いが、こうすると、呼吸やら、なにやら……雰囲気がすっきりして、楽になるのは事実。


だれだって、陰湿な怪異が群れを成して浮遊しつつ、ひしめくような、気持ち悪くなるような空間には居たくないものだ。


ほどなくして、猫天狗からの霊界通信がやって来た。肉体の時よりも明瞭に。


『あ、タイミング良いニャ。「ジライちゃん」のベッドへ来てほしいニャ』


(オレは男だ。女性ボディガード佐藤が適任だろ、それは)


『緊急事態ニャ』


霊体・目暮啓司メグレ・ケイジは、とりあえず駆けつけた。


少女に割り当てられている続き部屋の「閉じられたままの扉」を、スーッと抜ける。霊体ならではの怪異。


みっしりと、よろしくない怪異「ホラー悪玉菌」が詰まっていた。


異世界ハタキ――断じて「大幣おおぬさ」とかいうような、ビックリするような代物では無い、と思いたい――でもって、手早く「パパパ」とはらう。


『助かったニャ』


気色悪い群れが片付き、クリアになったベッド回り。


少女『ジライちゃん』は先ほどまで苦しそうな呼吸をしていたが、やがてウトウトと寝返りをうち、穏やかな呼吸に変わった。顔色は悪いけれども。


枕もとで、猫天狗ニャニャオが「フルル」と全身を震わせ、ネコの顔を片足で「コリコリ」やり出した。


薬物過剰摂取オーバードーズは、色々と問題だニャ。目には見えない分だけ』


(神々とやら……から見て、なかなか忌まわしい行為では、あるんだな)


『まったくニャ。もう大丈夫そうだニャ、クスタマ君』


猫天狗ニャニャオが、ふいに空中へ目を向けると、そこに光球オーブがフワリと浮かぶ。


見る間に、あの「ゆるキャラ」テルテル坊主な姿が現れた。


常に生真面目な無表情で、なおかつ非常に奥ゆかしい性質で言葉を発しないらしく……意図が読めない。


それでも、じっと観察してみると……テルテル坊主の頭頂部に「#」が複数、浮き出ているのが、見て取れる。


どうやら猫天狗ニャニャオの友神ゆうじんクスタマは、激怒状態らしい。「神の怒り」ボルテージは分かりにくいのだが、「#」の数々を見る限りでは、修羅の領域なのであろう。


ちっちゃなテルテル坊主はピョコピョコ移動して、ベッドサイドに半分隠れた形になっている引き出しを、ゲシゲシ蹴りはじめた。


(そこに何かあるってのか?)


霊体・目暮啓司メグレ・ケイジは、その引き出しに手をかけてみた。猫天狗ニャニャオが訳知り顔で、ネコの手を重ねてくる。


――鍵が掛かっている。


超一流ホテルが、カネをかけたとあって、相当……手こずる型だが。


霊体・目暮啓司メグレ・ケイジは、実体・猫天狗ニャニャオの「ネコの手」を借りて、慎重に解錠した。名人級に極めつくした特技に限っては、怪異(神?)の協力でもって、実物に干渉できるのだ。


――たまに「鍵が自然に外れていた」というような不可解な怪談があったりするが、謎が解けてみれば、何ということは無い。神々の奇跡に比べれば、なんらかの物理的トリックのほうが圧倒的に多いものの。


猫天狗ニャニャオが「ネコの手」で、引き出しをスッと開ける。


各種錠剤を詰め込んだボトルが現れた。


色とりどりの既存薬物を乱雑に詰め込んだものだ。


明らかに、反社会的勢力が次々に参入するような「セキュリティ皆無ネット」流通の……相当に物議をかもす商品の類と知れる。


『クスタマ君が指摘したとおりニャ。まだまだ錠剤を隠し持ってたニャネ「ジライちゃん」こと樹里ジュリちゃんは』


テルテル坊主は、すでに臨戦態勢であった。


目をキラーンと光らせるや、双対そうついヒョウタンをマラカス楽器よろしく振り回しつつ……ボトルの周りを高速で盆踊りした。


マラカス楽器から聞こえてくるのは、神楽鈴かぐらすずである。


純白のふわもち・きらきら・ヌイグルミなテルテル坊主の、高速マラカス、ないし神楽鈴かぐらすずを振りまわす盆踊りは、なかなかの見ものであった。


明らかにヤバい錠剤の数々が、不吉な霊光オーラをギラギラと発していたが。


そのことごとくが、見る見るうちに、双対そうついヒョウタンの中へと吸い込まれてゆく。


一段落して。


霊体の目で見る限り、不吉な気配ギラギラだった錠剤の霊光オーラが、力を失ったと判る。不思議な双対そうついヒョウタンの中へ、永久的に封じられた形。


その不思議な双対そうついヒョウタンを抱えたまま……テルテル坊主な純白「ゆるキャラ」は、ドロンと姿を消してしまった。


ひたすら唖然とするのみの目暮啓司メグレ・ケイジ


(もしかして、無害なブツに変えた? ヒョウタンの力で? どうやって? テルテル坊主は、どこへ消えたんだ?)


『あれは麦茶ティーバッグの中身と同じになったニャ。このスピード、さすが医薬神の神業かみわざニャ。あの中身、本当にヤバい特定薬物が混入してたニャ。この子が特定薬物を口にする前に、ケイ君が間に合ってくれて、ホッとしたニャ。製造・転売元は、キッチリ調べ上げるニャ。クスタマ君が「きっと神罰を当ててやる」と宣言してるニャ』


(もしかして、グローバル麻薬ビジネスなんかの類が混入してたってのか)


『世の中には、真実ヤバイ呪術を発動する特定薬物も存在するのだニャ。人類には、詳細は明かせないがニャ。だから、薬物過剰摂取オーバードーズなどは、もってのほか、なのニャ』


意外に重々しい口調だ。


人類である目暮啓司メグレ・ケイジにはピンと来ないが、なにやら複雑な事情をはらんでいそうだ……


『フーッ。本来、素人が、聞きかじりで薬物に飛び込んではならんのニャ。お菓子の振りをした薬物に、ヘタに手を出してはいけないのも、それが理由ニャ。親しい友人が「友情と好意の証に」と、入手して来たブツであっても。ニャン』


猫天狗ニャニャオは、珍しく、本気で毛を逆立てていた。


『ともかく、例の特定薬物は神事あずかりニャン。今回の案件からは、クスタマ君の神業かみわざでもって弾き出したゆえ、この要素は無視して、ドンドン進めて大丈夫だニャ』


(それにしても、どうやって、この子は、ワラオー所長の目をごまかして錠剤を持ち込んで……あの坊主頭スキンヘッド所長、錠剤は全部、没収したとか言ってたが)


『人類の男が「女の秘密」を見抜けないのと同じニャネ』


……


…………


いつしか『ジライちゃん』こと少女・樹里ジュリが、ボンヤリと、寝ぼけまなこをうすく開いた。


女子高生ならではの鋭い感覚で、なにやら気配を感じたらしい。


ギョッとする霊体・目暮啓司メグレ・ケイジ


(アヤシイもんじゃねぇ! 変なこと、何もしねぇ!)


「……神サマ? もっと、おカネください。所長、ぜんぜん稼ぎ足りないって……税金……いっぱい払って、ろくに残ってないって……」


文字どおり寝言だった。


次の瞬間には、少女は熟睡に落ちていたのだった。


ほぼ、同時に。


定刻ごとの見回りタイムだったらしく、仕切り扉がスッと開き。


女性ボディガード佐藤が入ってきた……


(ゲッ)


さすがに慌てて、その辺の適当な物陰へ隠れる霊体・目暮啓司メグレ・ケイジ


――「医者でも何でもない成人男性が、寝ている少女のベッドの傍に居る」という状況は、「何かする気だったんだろう」との指摘に対して、いっさい反論できない状況でもある。


――という社会常識は、ある。


霊体離脱は、生きてる人の目には見えない超常オカルト現象である――とは理解しているが……


……


…………


プロならではの鋭い目でもって、女性ボディガード佐藤は即座に、新しく開かれた引き出しと、その中身に気づいた……


「隠れて錠剤を! ……でも封は切られてない、飲んだ気配も無い……服用する前に、間に合ったってこと……!? ニャンコが引き出しを開けたの?」


「ニャーオ」


「ナイス・アシスト!」


それなりに不可解な状況ではあったが、女性ボディガード佐藤は任務に忠実だった。


少女を起こさないように素早く、錠剤ボトルを没収して……退室していった。


*****


「寝ぼけてないで、サッサと起きたまえ目暮メグレくん。緊急会議だ。新しい『隠し錠剤』が見つかったんじゃ。薬物犯罪データベースでも上位に出てきた、ヤバいブツじゃよ……」


気が付くと目暮啓司メグレ・ケイジは、霊体離脱を終了させていて、尋常に寝ぼけている状態であった。


香多湯出カタユデおうに、揺さぶられているところだ。


「待ってくださいっす。目ぇ覚めてるっす」

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