表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪探偵・猫天狗!  作者: 深森
妖怪探偵・猫天狗!~「赤き緒のたまゆら」事件
32/40

(1)時は春三月なかばの猫天狗~献血バスがやって来た

元・天才プロフェッショナル空き巣の目暮啓司メグレ・ケイジは、探偵事務所の所員として勤める探偵だ。目下、海賊版と転売屋を追跡している。そんな中、先輩の所員から代行業務を受ける。人気急上昇中の美少女アイドルの身辺警護だ。結局その話はナシになったが、なんと先輩の所員が、任務中に襲撃されて瀕死だと言う!しかも、海賊版グッズ問題も関係している案件だ。事件現場は謎だらけだが、それでも、凶悪な襲撃犯を突き止めて、解決へ持ち込まなければならない。目暮啓司メグレ・ケイジの相棒にして妖怪探偵・猫天狗が、「ゆるキャラ」仲間も巻き込んで、大活躍をする!■

時は春

日はあした

あした七時ななとき

片岡に露みちて

揚雲雀あげひばりなのりいで

……

作:『春の朝』ロバート・ブラウニング/訳:上田敏『海潮音』


*****


三月の半ば。


香多湯出カタユデ探偵事務所の電話が鳴った。


ドッカーン!!


仮眠と称して昼寝を決め込んでいた目暮啓司メグレ・ケイジは、毛布の中から飛び上がった。


はずみで、銀灰シルバーネコも、『複数のネコ尾』をさらして飛び出し、事務所じゅうをニャアニャアと駆け回った。


「チクショウ、あの、ハードボイルド・ジジイ! なんでコール音が爆弾の音なんだよ!」


連日の尾行と隠密調査で、グッタリとしてはいたものの。


探偵事務所には、冗談では無くヤバい電話も掛かって来ると覚悟せねばならない。


しかも発信番号を見ると、ヤバいのか・ヤバくないのか、判断が付きにくいグループのものだ。


ドッカカーン! ド・ド・ド・ドカーン!


銀灰シルバーネコは七尾ナナオをさらしたまま、興が乗ったのか、電話コール音に合わせて空中浮揚タップダンスを踊りはじめた。背中に烏羽からすばねを生やしているので、それで自由自在に飛べるのだ。


「空飛ぶネコマタを止めてくれ……尾が7本もあると気が散る」


寝ぐせがついてクルクルになった毛髪のごとく、寝ぼけてグルグルしている脳内。


カツを入れるべく。


拳骨ゲンコツで、頭を、ゴッゴッゴッ……と、やり。


若手の所員・目暮啓司メグレ・ケイジは、あらためて気を引き締め、受話器を取った……


「やあ、目暮メグレくん。そちらの所長の了解済みだが、少し手を貸してもらえるかね?」


…………


……


目暮啓司メグレ・ケイジに、飛び入りの、交通整理-兼-警備の予備スタッフ業務が割り振られた……


……もはや腐れ縁のような気がする、なじみの警察署から。それも、顔なじみの、セレブ風の刑事から。


*****


うらうらと暖かな陽射し降りそそぐ春、三月の半ば。


まさに「春眠しゅんみんあかつきを覚えず」そのものの風光。


人使いの荒い香多湯出カタユデおうが、目暮啓司メグレ・ケイジを、急遽、人手不足をしのぐための派遣スタッフとして差し向けたのだ。


若き探偵・目暮啓司メグレ・ケイジを迎えたのは、伊織イオリ・ド・ボルジア・権堂ゴンドウ


地元の警察署に何故か務めている、セレブ風の刑事。トップブランドスーツで身を固めた、中年ベテラン男だ。


毎度の胡散くさそうな、明らかにカネのかかっている上品な笑み。


「こころよく承知してくれて、誠にありがたいよ」


「金輪際、警察などと縁があってたまるか、と誓った筈っす」


「ニャー」


定番のパート警備員スーツを着込んだ若き探偵・目暮啓司メグレ・ケイジの足元には……普通の銀灰シルバーネコの姿形に収まった猫天狗ニャニャオ。そのネコ顔に浮かんでいるのは、ネコの種族ならではの、チェシャ笑いだ。


ここは、警察署と消防署の敷地の間にある、共同駐車場である。


双方の署員の協力によって広々としたスペースが開けられており、真っ白な大型車が駐車していた。


献血バスである。


白い車体に記された赤十字マークが鮮やか。


同じく鮮やかな赤がトレードマークの、女子供にウケそうな「カワイイ・ゆるキャラ」。


目暮啓司メグレ・ケイジのほうでは、うすい興味しか無かったこともあって、その「ゆるキャラ」の名前を知らない。


また知らない新顔「ゆるキャラ」が増えたじゃねえか。


――という感想のみ。


共同駐車場の入り口には、地元の「警察署・消防署の合同」献血イベントののぼりが立てられている。


すでに参加者の呼び込みと受付が始まっていたが。


チラチラと献血バスの白い車体へ視線をやりながらも、足早に通り過ぎる……諸般多忙な通行人のほうが、圧倒的に多い状況である……


…………


……


着慣れない警備員スーツのネクタイをそっと締め直し、所定の位置で交通整理をつづける目暮啓司メグレ・ケイジ


本日の任務は、一日限定パート警備員。


地元開催の、ささやかな献血イベントの実施に際し、交通整理を兼ねる警備員が定数に足りないのを埋める「外注の予備スタッフ」である。


会場に近づく人々は、ほぼほぼ、ボランティア精神あふれる善男善女な一般庶民である。相応に……年配の割合が高い。


何ということのない日常のなかの、ちょっとした変化。予期せぬ出来事さえ無ければ、実入りは薄いながら、楽勝な業務と言えそうだ。


――この季節ならではの、すさまじい花粉の量を、別にすれば。


やがて。


見知った老婦人が、チョコチョコと、やって来た。どこにでも居そうな風体。


そして、見知った格好の飼い犬。


フッサフサ眉毛をした小型テリア種だ。立派な白い眉毛。まさに「ジジ眉毛」である。


ジジ眉毛テリア種は、目暮啓司メグレ・ケイジ銀灰シルバーネコを見つけるや、再会の喜びに満ちて、フッサフサ尻尾を千切れるほど振った。


「キャン! キャン!」


異世界モップ……のようなモフモフは、一目散に駆けてきて、目暮啓司メグレ・ケイジの警備員スーツの足に、かぶりついた。ガブリ・ガブリ……これでも喜びの表現である。


「おいこら、仕事の邪魔するんじゃねえ、この、ジジ眉毛」


『無病息災で実に良きことニャネ、テリア=トップスター君』


目暮啓司メグレ・ケイジが、足元にじゃれつく元気な小型テリア種を引きはがしていると。


引き紐を引っ張られるままに、小走りで近づいてきた老婦人が、目暮啓司メグレ・ケイジを見て、目をパチクリさせる。


「あら、奇遇ね? メグレ探偵さん。今日は警備さんなのね」


「ジジ眉毛トップスター、……日暮ヒグレの婆さんすか。献血に来たんすか」


「そうなのよ、若い頃からやってて。耳が遠くなって、電話の聞き間違いが増えたけど、いまはネット予約があって便利ねぇ」


老婦人は感心したように首を振り振りしていた。その後、一礼して、献血バスの近くにある受付へと、慣れた様子で近づいて行った。


この地区では常連だったらしく、受付の側も、老婦人と顔見知りといった様子。テキパキと問診が進んでゆく。


「あら、『献血ご卒業』が近くなりましたね。日暮ヒグレさん」


「私も年を取ったわねぇ」


「キャン! キャン!」


「ワンちゃんは、どこかへ、おつなぎ頂ければ」


という訳で。


手が空いてヒマそうな予備の警備スタッフ目暮啓司メグレ・ケイジが、しばらく、小型テリア種の番をすることになったのだった。


小型テリア種「ジジ眉毛」、本名「トップスター」は、お喋りだった。


神猫にして猫神ならではの猫天狗ニャニャオの通訳があって、目暮啓司メグレ・ケイジは、動物どうしの情報交換の怪異を体験する羽目になった。


「キャン! キャンキャンッ!」


『最近、ロックな地雷ゴスロリが話題ニャ。あちこちのライブハウスで人気上昇中で、近いうちブレークしそうな、イケイケ女子高生アイドルだニャ。日暮ヒグレ夫人も、息子の話を通じて概要を知ってる状態ニャ。「ジライちゃん」と言うそうだニャ』


目暮啓司メグレ・ケイジも、心に覚えがある程度には記憶している。地元ネット記事の広告スペースで、名の知れたライブハウス出演スケジュールの宣伝を、多数見かけるからだ。


普通に「お化け屋敷の美少女っぽいな」とは思うものの、それだけである。


そもそも怪異に遭遇しまくっていることがあって、目暮啓司メグレ・ケイジの、その方向の趣味は古典的なのだ。


*****


やがて午後の部。


生真面目な顔をした女子高生が――制服姿だ――呼び込みに応えて、献血バスの受付へと接近した。


モデル背丈というほどでは無いが、それなりに高身長。


シッカリした体格や足取りには、バランスの良い食生活などの背景が感じられる。


――400mL全血を一気に抜かれるのに耐えられるだけの、必要十分な、体力も体重も備えていると見え。


献血バスの中の人が臨戦態勢になった気配が、こちらへも伝わってくるようだ。


「若い人は珍しいし、学生さんは、いっそう珍しいっすね? ちゃんと、18歳すかね」


ポカポカ陽気がつづく午後、居眠りしそうになっていた予備の警備スタッフ目暮啓司メグレ・ケイジも、さすがに目が覚めた。


献血希望の署員をあらたに引率して来ていたセレブ風の中年刑事、伊織イオリ・ド・ボルジア・権堂ゴンドウも、目をパチクリさせている状態だ。


耳をそばだてていると、受付の問答が流れてくるのが判る。


女子高生は、初回ということもあって、それなりに緊張しているらしく……受付の質問に対する回答が、時々ズレていた。


「……ヨモギ・シオリです。今日が高校の卒業式で、四月から大学で。前から興味があったので、卒業記念になればと思って」


「ご卒業おめでとうございます。それに、献血ご協力ありがとうございます」


目暮啓司メグレ・ケイジの足元で、猫天狗ニャニャオも珍しく感心したように、ネコのヒゲをピピンとさせていた。


『シッカリ18歳に到達してるネ。前に見た時は、ちっちゃな幼女だったニャ。大きくなったニャネ』


「会ったことが?」


『この近くの友神ゆうじんの氏子ニャ』


目暮啓司メグレ・ケイジは、女子高生に改めて注目した。


先ほどから不思議な気配があるのだ。肩先か……背中か、あるいは頭の上に。


少し角度を変えると、女子高生の近くでフワフワと浮かんでいる光球オーブのような「ナニカ」が見えてきた。


シッカリと光球オーブを視野に捉え、目を凝らしてみる。


――明らかに普通では無い。確実に妖怪に近い部類。


目を凝らしていると、光球オーブは、特徴的な姿形を二重に映し出した。


――どことなくテルテル坊主に似た純白「ゆるキャラ」。ふわもち・きらきら・ヌイグルミ風。頭のてっぺんに、なにか草を生やしている。


仰天のままに見つめていると、光球オーブなテルテル坊主は、生真面目な視線を返してきた。


瞬間……圧倒的なまでの霊威に、震える。


ふわもち・きらきら・ヌイグルミな「ゆるキャラ」といえど、その眼差しは、時空を超越する領域のものだ。


その怪異が左右に携えているのは……双対そうついのヒョウタン。マラカス楽器とも見えるが、正体は楽器などでは無いだろう。確実に。


猫天狗ニャニャオが、金色のネコ目をピッカピカと光らせつつ、目暮啓司メグレ・ケイジを見上げてきた。


『さすが、ミー選抜の最高の相棒ニャ。あれは、ミーの古くからの友神ゆうじんニャ。専門領域は医薬の方面ゆえ、医薬神の系統ニャネ。最近は稲荷の神々と一緒に、人工血液などの案件を……』


(……神だと!? あのテルテル坊主・ヌイグルミが!?)


『あの姿は「ゆるキャラ」流行テンプレに乗っかったのニャネ。別の姿パターンは全国的に有名ニャ。神紋として頭に載せてるのは、古代から薬用植物として知られてるガマ。因幡の白ウサギの伝説は聞いてる筈ニャ』


(知らねえぞ! あんな神!)


『神話歴史書にまとめられた段階で、失伝してるニャネ。普通の人類の感度は、超ニブイから』


…………


……


ほどなくして。


若いゆえに献血時間が短く済んだのか、制服姿の女子高生「ヨモギ・シオリ」が献血バスから出てきた。


戸惑った風に頬を染めながら、何度もお辞儀して……謝礼の菓子ジュース類が入った袋を持って、もと来た道を歩いて行った。テルテル坊主な謎の神が宿るフワフワ光球オーブを、肩先あたりになびかせつつ。


予備の警備スタッフ目暮啓司メグレ・ケイジは、さらに不思議な光景を目撃することになった。


献血バスの傍に、いつしか、別の「ゆるキャラ」がフワフワと浮かんでいた。献血バスの白い車体にバッチリ描画されている「ゆるキャラ」が、ポンと三次元・実体化して、出てきたみたいだ。


その鮮やかに赤い装飾がトレードマークであるらしい「ゆるキャラ」は、英数字「О(オー)、-(マイナス)」が記された空色の旗を振って、見送りしていたのだった。


いちおう邪気は感じない。


それでも、れっきとした怪異現象には違いない。


思わず、目暮啓司メグレ・ケイジは呟いていた。


「献血バスにも、妖怪だか妖精だかが、居るんすかね?」


「そのオカルト霊感で、異世界ファンタジーなみの『ナニカ』を見たらしいな、目暮啓司メグレ・ケイジくん?」


一日、献血イベントの事務局を務めていたセレブ風の中年刑事・伊織イオリ・ド・ボルジア・権堂ゴンドウは。


頭のおかしな予言者を見るような目つきで、目暮啓司メグレ・ケイジを、まじまじと眺めた。


そして、銀灰シルバーネコ姿をした猫天狗ニャニャオは、金色のネコ目ピッカピカ、チェシャ笑いを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ