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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第三章〜ウルク〜
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特訓開始

 魔王信教の襲撃から五日が経過した。街の状況は依然として瓦礫の山であるが、そこには五日前ほどの暗い雰囲気はなくなっていた。すでに街は復興へと向かい、場所によってはあの惨劇の中なんとか無事だった商品を売りに出す店まで見られる。ギルドの広間にも、あの日の騒がしさはもうない。今は家を失った者たちの避難場所となっている。


 あのあと、街の冒険者たちが周辺の街や村に救援を求めたのだ。おかげで薬や医療器具、食料などが届けられ、足りなかった人手も派遣された人々によって補われた。瓦礫や崩壊した建物は徐々に取り除かれ、新たに建造物も建てられ始め街は徐々に活気を取り戻していった。怪我人も徐々に数を減らしていき、今では無事だった医療施設に残る重傷者のみとなっている。密かにゼトが、怪我人のために非常に珍しい回復薬を冒険者たちに渡していたことは知られていない。おかげでギルドの訓練所には住まいを失ったものが生活するための空間として利用することができるようになった。


 さらに、四日前には眠っていたグンタが目を覚ました。目の前で泣く四人の少女たちを見て状況が把握できていない様子だったが、周りの光景を見てすぐにあの日のことを思い出しながらも悔しさを滲ませていた。


 その同日、グンタより遅れてルイが目を覚した。もっとも重傷だったルイだが、ゼトの驚異的な治癒魔法によって見事復活。ミラが号泣するのは珍しいらしく、学徒組が引いていたのは記憶に新しい。


 次に、一日遅れでトキが目を覚ます。唯一無傷だったトキだが、目覚めるのには時間がかかった。症状が他の三人とは違うのもあるのだろうが、そんなことを知らないルイたちは馬鹿にしたように笑っていた。実際、トキの体や精神が弱いことも関係があったのかもしれない。ルイのときにはミラが号泣していたが、トキが目覚めたときにはアキが号泣していた。さらにアキは泣きながらトキに抱きつき、その様子をルイが羨望と嫉妬の目で見つめ、それを今度はミラが怒りの目で睨んでいた。打って変わって立ち上がろうとしてふらつくトキを見て、アキは出会ったときのトキを思い出しながら笑っていた。


 そしてさらに次の日、七人のもとにカノンが現れ、ギルド三階にある部屋へと案内されるとしばらくその部屋を使うように支持された。部屋の数は三つ。部屋割りはアキとミラ、リアとヒズナ、そして男たちとなった。その後の行動に制限はなかったが、トキたちはブランのことが心配なりカノンに訪ねたところ、街の医療施設にいると言われ見舞いに行くことにした。ブランもすでに目を覚まし、元気アピールをして傷口が開き医者に怒られていた。心配の必要はなさそうであった。


 そして昨日、街ではちらほらと商売を始める店がではじめていた。トキたちは外へと向かったが食材と雑貨屋がほとんど。残りは冒険者の武器防具だったが品揃えはよろしくなかった。その頃カノンはゼトに渡された紙切れをほんの僅かに期待しながら開いていた。そこに書いてあったのは恋文、ではなくトキたちの今後のことについてだった。期待はあまりしないようにしていたがしばらくうつむいたまま黙り込むくらいにはショックだったようだ。立ち直ると、改めてその紙に書かれていたことを見直し、今はその準備を進めていた。


 そうして今日に至る。昨日よりもさらに店が並び、そこに来る買い物客も増えているようだ。しかし幼い冒険者たちは街の端の、まだ瓦礫が山積みになっている場所に集まっていた。どうやらここに皆を呼び出したのはルイのようだ。


「全員集まったな」


「どうしたのルイ。急にみんな集めて」


「この間の件でな、いろいろ考えたんだよ。どうして街がこんなになっちまったのかとか、どうしてみんなが苦しんでんのかとか。敵の目的がわかんねえからその理由もわかんないままなんだろうけど……でも俺は思ったんだよ。俺達が強ければ、こんな事にはならなかったんじゃないかって……」


 ルイのその考えには皆納得していた。特にトキにはそれが痛いほどよくわかった。過去にその経験をしているからだ。森の中でアキが攫われたとき、自分の弱さを死ぬほど恨んだ。それは言葉通りの意味で。あの時、トキの体は孤独よりも死を選んだのだ。無意識のうちに湧いてきた死んでも力が欲しいという願望が、トキの中に眠る強大な力を目覚めさせたのだ。その経験があるからこそ、今のルイの気持ちを理解することができる。そして、ルイが言いたいことも……。


「特訓するんだね」


「ああ。特にお前とアキはまだ魔法に関して知らなさすぎる。そのあたりのことも知るべきだ」


「でも具体的にどうするのよ」


「それなら私に任せな」


 ミラの声にルイが答えるよりも早く答えたのはカノンだった。なぜここに、という表情を皆が浮かべる。それを察してかカノンはその疑問にも答える。つまるところ、カノンがここへ来た理由は、ゼトの頼みの一つでもあったトキたちの特訓をすることだった。監視も任されている身でもあるので、密かに後をつけていたのだ。すると偶然にも、そのうちの一人がゼトの頼みのうちの一つを自ら行使しようとしているではないか。この機を逃す手はない、ということらしい。自ら頼んだとはいえ、カノンがここまで積極的に任務をこなしているとはゼトも思っていないだろう。ルイたちにとってもカノンは先輩冒険者であり、その知識も技術も遥かに上。自ら教え役を買ってくれた彼女に特訓を見てもらわない手はないだろう。


「あんたが教えてくれるならこっちも助かるよ」


「相変わらず生意気ね。言っとくけど、やるからには確実に強くなってもらうわよ」


「僕、やるよ!僕だって強くなりたい!みんなを、守りたいんだ!!」


「私も!私もやる!!」


「もうあいつらの好きにはさせられないものね」


 グンタ、リア、ヒズナもそれに頷くと皆の意思を理解したカノンは静かに笑った。これほどまでに頼もしい後輩たちに期待をしないほうがおかしいとでもいうかのように。ギルドカードとそれぞれの戦闘スタイルを比べながら特訓の内容を決めていく。ミラとリアは最大マナ所有量の増加をメインにマナ消費の効率化。グンタ、ルイはマナ放出量の調整と最大放出量の増加。ヒズナはマナ放出維持の効率化。そして、トキとアキはお勉強である。


「「勉強!?」」


「ルイいわく、お前たちは魔法の知識が乏しすぎるようだからな。必要最低限の知識は叩き込んでもらうぞ」


 みんなが魔法を発動したりマナ操作をしている間、二人だけは座学。普段からルイから学庭での勉強の愚痴について聞いていたアキはとても嫌そうな顔をしている。そして、アキからその話を聞いていたトキも地獄が待っているのではないかと恐怖している。その様子を同情全開の眼差しで見つめる学徒組の五人。助けを求めるようにそちらに視線を移すと、「そんな目でこっちを見るな!」とでもいうように視線をそらされる。そして五人の反応に涙しながらも逃げられないことを悟り諦めるトキとアキであった。そしてそれぞれの特訓が開始される。


 ミラとリアはマナを最大放出で放出しながらもそれを安定させる特訓。グンタとルイはその逆、最小出力で安定させる。ヒズナは放出したマナを停滞、そして維持する特訓。トキとアキは瓦礫の机の上でカノン先生の授業となった。カノンは予め用意しておいた紙とペンを二人に配る。さらに大きな紙を崩れた建物の壁に貼り付け簡易黒板とした。そしてなぜか、いつもの装備は脱ぎ捨て、変わりにゆったりとした白に統一された服に見を包んでいる。普段の鎧を着た彼女からは想像できない格好なのだが、これはこれでありなので許すことにしよう。休日にはこのような格好で外出するのかも気になるところである。二人もまたカノンの服装に目を奪われていると「集中力が途切れているぞ!」とお叱りを受けた。二人にとって初めてのお勉強が始まる。

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