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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第三章〜ウルク〜
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封印

 暗く湿った地下の螺旋階段で、一人の男の足音が一定のリズムを刻んでいる。ここはギルドの地下。ギルドには現在も使われている地下が存在しているが、この場所はそのさらに下。この街のギルドの者ですら知るものはほとんどいない秘密の場所。入り口は地下の部屋の床下に隠され、その扉は分厚い土に埋もれ容易く見つかりはしない。そんな場所をこの街の者ではない男が、一人更に地下へと降りていく。


「ここも随分とかび臭くなりやがったな……」


 階段を降りながら呟くゼト。壁や天井からは地下水が滴り落ちカビが蔓延り足元は滑りやすくなっている。随分長い間人の出入りがなされていないようだ。この街の冒険者がそこにいたならばなぜ他所の者がこんな場所を知っているのだろうかと疑問に思うのだろう。だが今は一人。そんな疑問を浮かべるものもいない。一人黙々と下層へと下り、ようやく薄暗い階段も終わりを迎えると、今度はまっすぐに奥へと続く通路が姿を表した。天井には道に沿って青く光る不思議な石が埋め込まれており、おかげで地下深くにもかかわらず、足元までしっかりと照らされ通路の奥の方まで目視することができた。通路の両壁にはいくつもの扉が一定の間隔ごとに設けられ、それは正面の行き止まりまで続いている。


「着いたぞ……」


 抱えられ眠るトキに声をかけ足を止めた場所は、通路の途中にある無数のサビついた扉のうちの一つの前だった。冷たい扉のドアノブを引くと、扉の動きにあわせて耳障りな嫌な音が地下空間に響いた。そこは鉄の部屋で木製の机と本棚に囲まれた部屋だった。机には数本のペンが置かれ、本棚には分厚い本からまとめられた紙の束など資料のようなものが仕舞われていた。さらに別の机には様々な形をした容器が散らかされている。どうやらここは研究部屋のようだ。ゼトは、部屋にあった腰の高さほどの木の台に布を敷いてその上にトキを寝かせた。横になるトキの上半身だけ服を脱がすと部屋の中を回りだした。


「さてと、あれはどこにしまってあるんだ?」


 ゼトは部屋の壁際を埋め尽くす机や本棚の中を漁りはじめる。何かを探しているようだ。木製の引き出しも水分を吸って膨張し動かない。端にはカビも生えている。それにも不快感を示すことなく部屋のなかを探し回るゼト。そしてようやく、本棚の中にまとめられた紙の束からそれを見つけ出す。


「おおこれこれ。こんなところにあったか」


 紙の束の中から数枚だけを取り出す。そこに書かれていたのは魔法陣の図と余白を埋め尽くす大量の文字。それを真剣な眼差しで精読する。そしてその全てに目を通すと、それを眠っているトキの傍らに置いた。


「なるほどな。こんな感じか?」


 ゼトは横たわるトキに手をかざし詠唱を始める。トキは光に包まれると苦悶の表情を浮かべた。トキを包む光が一層強まり、ゼトをも呑み込んだ。トキの表情もより苦しみを帯び悲痛な叫びとともに暴れだす。するとトキの体中に紫に光る紋様と魔法陣が浮かび上がる。紋様はまるでミミズのように体を這いずり回り、胸の中心の魔法陣に吸い込まれるように消えていく。全ての模様が吸い込まれると、魔法陣は黒く変色し、トキの体に沈みこむように消えていった。同時にトキから苦悶の表情が消える。


「これで封印は終わりか……。だがまだ何かの拍子に封印が弱まる可能性はあるからな。俺はまだやることが残ってるし、しばらくの間ここのギルドの連中にこいつを監視させとくか」


 これからのトキをどうするかを呟くゼト。一旦トキを連れてアキのところへ戻り、それからギルドでも力を持っていそうなカノンのところへ向かうことにした。トキに服を着せ直すと、ここへ来たときと同じようにトキを抱えて地下をあとにした。


 螺旋階段を登り、普段使われているギルドの地下までやってきた。といっても、そこは地下にあるうちの一つの小部屋で、長い間使われた痕跡はなくホコリにまみれている。登ってきた床の扉をきれいに隠しその部屋をあとにした。部屋を出ればそこはよく使われている通路。地下は主にアイテムなどの倉庫として使われている。冒険者の数と実力に比例してその倉庫は大きくなる。つまりこのギルドの地下倉庫もそれなりの大きさを誇っているということだ。冒険者ひとりひとりにそれぞれ設けられた倉庫があり、実力があれは使用する量も自然と増えていくものだ。故にこの地下空間はなかなかに巨大な空間であった。普段であればこの地下は静かな場所なのだが、今は非常事態ということもあり、個人ではなくギルド全体で使用する倉庫から必要な素材や道具を取りに来る者たちで慌ただしくなっている。


 しかし今のゼトにはなんの用もない場所なので、そのまま上へと続く階段を登っていく。地上階まで登り、曲がり角を二度折れて進んだ先にようやく地獄の広間が姿を見せる。相変わらず患者のうめき声とその治療に迫られる医者や医療員、冒険者たちで喧騒としている。ゼトはそんなこと意にも介さないといった雰囲気でアキのもとに戻る。アキの傍らには横たわる二人の少年と、こんな絶望的な状況であるにもかかわらず楽しげな三人の少女たちが腰を下ろしている。アキもその少女たちと同様に楽しげだ。するとアキがゼトに気づき手を降る。


「おじさん!トキくんは!?」


「ああ、もう大丈夫だ。こいつも寝かせてやってくれ」


 トキをおろしルイたちの隣に横たわらせた。心配そうに覗き込むアキ。そして傍らの三人も同じように前のめる。美少女四人にに囲まれるトキを見て、まるでモテ期の子供を微笑ましく見守る父親のような笑みをうかべつつ、若干羨ましく思うゼト。断じてロリコンではない。ただ四人もの異性に心配されるのが羨ましいだけだ。安らかに眠るトキの顔を見て安心するアキたち。それを見てゼトはアキたちにトキを任せ再び広間をあとにする。向かった先はすぐそこ。ギルドの入り口だ。そこで浮かない顔で腰を下ろす女性に用があった。


「よう姉ちゃん。どうした浮かない顔して」


「あんたか。いろいろと考えさせられてな……。あんたこそなんだ、ナンパでもしに来たか」


「ナンパもいいんだが、ちと頼みがあってな」


「頼み?」


 声をかけた相手はこの街を拠点とする冒険者、カノンである。自分の弱さを痛感させられ悩みながらも冗談交じりに言葉を返す。冗談に反応を返しながらもゼトはすぐに本題を話す。


「あの子どもたちのことなんだが、ちょっとは知った顔らしいじゃねえか。知った顔ついでに、あんたにあいつらの面倒を見てもらいたいと思ってな」


「私は子どものお守役か。それくらい誰にでもできるだろう。私にそんな暇はない」


 子どもの面倒を見ろ、と言われて簡単に承諾してくれるような相手ではなかった。冒険者としての実力もあり、ギルドではリーダーを張れるほどの人間なのだ。街が半壊しているこの状況でそんなことに費やす時間も労力もないのだろう。それにギルドのリーダーが子守などプライドが許さない。しかし、ゼトがそのうちの一人の少年がただの少年ではないことを伝えると目の色を変えた。詳しく聞くと、その少年の中に普段は鳴りを潜める禍々しいマナが存在しており、それが暴走しないように監視をしてほしいということだ。さらに、街を襲った魔王信教たちの目的がその少年である可能性があり、この街で暴走すればあの悪夢が蘇ることも忠告した。


「やつらがあいつを狙っている、というのはまだその可能性がある程度だが、このタイミングであの組織が動き出したのは偶然じゃない気がしてな」


「? どういうことだ」


「あいつの力が暴走したのを最初に見てからまだ二週間も経っていない。あいつの体を見たところそれが最初の暴走だろう。俺は組織を追っていたが、その活動に変化が現れたのはほんの一週間ほど前。あいつの暴走に感づいた組織があの力を求めて動き始めたと俺は考えている」


 信じられないといった顔のカノン。ゼトの話したことも、まだ証拠も不十分でただの予測の段階に過ぎない。しかしもしそれが本当だった場合、再び奴らは襲ってくる。もしこの街を抜けたあとであったとしても、少年は狙われ、他の街にも被害が出るかもしれない。あれほどまでに危険な集団に得体のしれない力を与えることはなんとしてでも避けたいところである。口元に手を当て黙り込むカノン。


「どうだ、頼めるか」


「……わかった、私が引き受けよう。もし奴らの狙いが彼だった場合、その少年を守ることもこの街や世界を守ることと同義だ。任せてくれ」


「助かる。それともう一つ、こいつも」


 カノンはゼトの頼みを引き受けることにした。それが世界を救うのならそれ冒険者の役目であるからだ。冒険者とは勇者の心を継いだ者たちなのだ。彼女の中にもその心は引き継がれている。そんなカノンにゼトは一枚よ小さな紙を渡す。訝しげな様子でその紙を受け取るカノン。「あとでいい、一人のときに読んでくれ」とだけ言い残しゼトは去っていった。カノンも一人の乙女である。小さな紙切れに『あとで』、『一人で』と言われ若干の期待を寄せる。直接言葉にするのが恥ずかしかったのだろうか、などと考えてしまう。カノンは頬に赤みを帯びながらギルドの入り口に座り込み、しばらくその小さく折りたたまれた紙切れを見つめていた。

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