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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第三章〜ウルク〜
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生贄の娘

 冒険者ギルド訓練広間には、魔王信教徒の襲撃によって傷を負った、街の人々が運び込まれていた。街の冒険者たちや医療員たちが総員がかりで手を施している。運び込まれる怪我人の数はあまりに多く、人員も薬や道具も圧倒的に不足していた。街中の医療施設もすでに飽和状態。教徒たちが去ったあともパニックは続いていた。


「怪我人三名追加だ!!」


「今手が離せない!!そこに寝かせてくれ!」


「誰か!この人を助けてください!お願いします!誰か!!」


「どけ!重症の患者が先だ!!」


 広間はけが人の叫びや、助けを求める声でパニックになっていた。医者たちもこれまでにない状況に冷静さを欠いている。ますますひどくなっていく広間の状況に、アキは一人、三人の少年を見守っていた。


「どうして、こんなことに……。ルイ、グンタくん、トキくん……どうしたらいいの……」


 仮面の教徒の襲撃を受けたアキたちは重症を負っていたが、アキだけは運良く傷が浅く済んだようだ。ゼトの治癒のおかげもあってまともに動けないながらもすでに目を覚していた。傍らには重症を負ったルイとグンタ、そして何らかの精神攻撃と見られる魔法を受けたトキが眠っている。ルイとグンタもゼトの治癒魔法によってその傷は塞がっているが、まだ目を覚ますには至っていない。比べてトキはかすりの傷一つも負ってはいない。仮面の男はトキにだけは物理的な攻撃を仕掛けて来なかったのだ。ただ、他の三人とは違う別の攻撃を受けていたのかもしれない。それは交戦中のトキの様子がおかしく、ゼトが駆けつけたときにもまだその影響が見て取れたからだ。その後魔法によって眠らされ、今は落ち着いた表情をしている。一旦三人が無事であることが確認でき安堵したアキ。しかし産まれて初めて感じた死というものに、未だ言いしれぬ恐怖を感じていた。


「わるい、待たせたな」


「おじさん……」


 うつむいていたアキのもとにやってきたのはゼトだった。ここへトキたちを運んだ後、用事があるとかでしばらく席を外していたのだ。ようやく帰ってきたゼトを見て恐怖が消え去る。しかしすぐに押し返してくる恐怖に再び不安そうな表情に戻るアキ。ゼトはそんなアキの頭をなでながら微笑んだ。


「安心しろ。俺がトキもこいつらも助けてやる。心配すんな……」


 小さく頷くアキ。しかしそこにはまだ不安感が残っているようだった。ゼトは暗い顔をしながらもアキが頷いたのを確認すると、傍らで眠るルイとグンタの傍に寄り添った。そして二人の体を調べると「こいつらはもう大丈夫だ。じきに目を覚ますだろう」とアキに伝えた。その言葉を聞いてアキはほっとした。二人は助かる。あんなに、今にも死んでしまいそうなほどの重傷を負っていた二人が。また以前のように戻れると思うと恐怖心も消えていた。


「問題は……」


 そうつぶやいて見た先にはトキが眠っている。一見四人の中でもっとも軽い症状にも見えるトキ。しかしゼトの顔はこれまで見せたことがないほど真剣な表情だった。アキも自然とそれを察する。消え去った恐怖心以上の不快な感覚がこみ上げる。ゼトを持ってしてもトキは治らないのだろうかと。突如として二人の間に訪れた沈黙がその感覚を大きくしていく。そしてようやく、ゼトがトキを抱えると同時にその沈黙は破られた。


「ちょっと待っててくれ。アキはそこの二人を頼む……」


「どこいくの? トキくんは、助かるの……?」


 ゼトは何も言うことなく微笑みを返した。そしてそのまま言葉を発しないまま、ゼトは広間をあとにした。アキはただその背内をじっと見つめた。答えを曖昧にしたまま去っていったゼトの顔はなにかを誤魔化しているようにも思えた。その姿が見えなくなると、入れ替わりでアキを呼ぶ女性の声が聞こえた。


「アキちゃん……」


 声の主はミラだった。隣にはリアとヒズナの二人も並んでいる。だが三人とも怪我をしている様子はない。だがこの場所にいるということは魔王信教の襲撃を受けたのだろう。いろいろ聞くところによると、襲撃された際近くにいた冒険者たちによって保護されすぐにギルドへつれて来られたらしい。突然訪れた危険な状況と、まだ幼さを感じさせるその容姿も相まってミラたちは保護されたようだ。しばらくして怪我人が押し寄せ、無傷なミラたちは別の部屋へと移動させられた。その後しばらくして部屋を除くと、そこは地獄のような光景だった。しかしそんな中に見慣れた顔を見つけて今に至る。互いに無事を確認し合うとミラたちの視線は傍らで眠る二人の少年に向けられた。


「二人とも……大丈夫なの……?」


「体の方は大丈夫みたい。後は目を覚ますのを待つだけだって」


 それを聞いて一安心するミラたち。トキについても信頼の置ける冒険者に任せてあることを伝えた。すると、仲間たちが無事であったにもかかわらず、ミラは表情を暗くしうつむいた。アキは訝しみながらも心配そうな視線を向ける。そんなミラの背中をリアが優しく叩いた。振り返ると笑っていたリアとヒズナの優しい笑顔に、ミラは決心したようにアキの目を見た。


「アキ……。私には冒険者になって、どうしてもやらなきゃいけないことがあったの。そのために私は冒険者になった。私の目的……それは、この街を襲ったあの組織を潰すこと」


「潰す? 潰すって……この街をこんなにするような組織を……?」


 あの組織というのは魔王信教のことなのだろう。しかしなぜミラが魔王信教を狙うのかがわからない。それに周りの大人たちでさえ知らなかったような集団をなぜミラが知っていたのか。アキは驚くと同時にいくつかの疑問が湧いて出た。小さく頷くとミラは自分の過去を語った。


「これはルイにもグンタにも話してなかった話なんだけど、私の両親は、あの組織の一員だったの。そして、二人は組織に生贄として殺された。服を全て破かれ、腕も足ももがれて……。大衆の前で侮辱的な拷問を受けて見世物にされながら、狂ったように笑って死んでいったわ。まるでそれを喜ぶみたいに……。そしてあいつらは、私にも目をつけたの……。生贄の血を引く私も、生贄に捧げなければならないって、そう言ってた……。私は怖くて、逃げて逃げて、もう死のうかと思った。でも私は決めたの。絶対にあいつらは殺す。二人の仇を取るまでは死なないって……」


 そう語るミラの声には今まで感じたことがないほど恨みや怒りが込められていた。その話を静かに聞いていたアキもはじめは驚きの表情を浮かべていたが、次第にそれは怒りの表情へと変わっていった。今まではミラのことをルイやグンタのことを影から支えるお姉さんのような存在だと思っていた。そんな彼女の内に秘められた憎しみは壮絶なものだった。いままでそんな素振りを全く見せなかったのは、復讐を掲げれば皆が自分から離れていき、一人になってしまうと感じたからだという。


「私が冒険者になりたかったのは、世界中を回って情報を集めることができるから。でも、リアとヒズナと知り合ってからはそんなことどうでも良くなったの。いつの間にか復讐のための目標も、二人と一緒に冒険がしたいっていう私の夢になってた。でも、今日あの仮面の集団を目にしたら、またあのときの気持ちが湧き上がってきて……。もう私にはみんなと一緒にいる資格はないのかも……。ほんとにごめんなさい。みんなにも、リアとヒズナにも迷惑をかけたわね」


 自嘲気味に笑みを浮かべるミラ。そんな彼女を見てアキはなんと声をかければいいのかわからなかった。それはきっと、彼女の恨みが想像を絶するものだと悟ったからだろう。仇を思い出したときのミラの表情がそれを如実に物語っていた。たとえ自分たちがミラを受け入れたとしても、ミラが復讐を前にしたその視界には自分たちは映らないのだろう。そこに映るのは過去の悪夢と親の仇だけなのだ。リアとヒズナとともにいたいという気持ちを、それはたやすく上回ってしまうのだろう。それを自分でも理解しているからこそ、彼女は"資格がない"という言い方をしてしまったのだ。アキがかける言葉に迷っていると、ミラの背後の声がその沈黙を破った。


「ミラ、ごめんなさい。私達も気づけなくて。そんなことがあったなんて全然知らなかった。でもミラの気持ちはごもっともだと思う。そんなの、私だって復讐したくなるわ。でももし、復讐に負けるような夢だとしても、私達と一緒にいたいっていう気持ちが本当なら私はミラと一緒にいたい……私もミラとヒズナと冒険したい」


「リア……」


「私もだよミラちゃん。私も二人とずっといっしょにいたい。私達はパーティだよ。同じパーティの仲間なんだし、目的があるなら手伝う。ミラちゃんを苦しみから解放して、私達の本当の夢を叶えようよ」


「ヒズナ……」


 二人の言葉に涙を流すミラ。ミラだけではなく、二人にとってのミラもかけがえのない存在だったのだ。たとえミラが自分たちのことを忘れるようなことがあっても、二人はミラのことを見捨てずにその闇を払うのだ。そしてその闇から解放されたとき、三人を縛るものがなくなり、ミラにとって二人は復讐すらも打ち破る誇るべき仲間になるのだろう。そしてそれは三人だからこそ意味があること。一人で振り払った闇の先には隣りに居たはずの人間はいないのだ。その手をしっかりと握ってくれる存在が、闇を払ったときにも手を繋いでくれているのだろう。その手を頼りにまたもとの居場所へと帰ることができるのだ。孤独を恐れていたミラには、端から二人の手を払いのけるという選択肢など用意されてはいなかったのだ。


「二人とも……ありがとう!!」


 涙を流すミラの隣にはその手を繋ぐリアとヒズナが寄り添っていた。アキもその様子を見て安心した。ミラが一人の道を進んでしまうのではないか。自分たちのものを離れてしまうのではないかと思ったからだ。しかし二人によってその心配も消え去った。それは二人だからこそできたことで、それをやってのけるだけの信頼のある関係を羨ましくも思った。自分にもいつか、なにをおいても優先するような存在、優先してくれるような存在。そんな仲間ができるのだろうかとこの先の未来に期待した。


「ミラちゃん、私もミラちゃんとさよならは嫌だよ。まだショッピングの約束も果たせてないんだから。目標があるのはいいこと!でも無茶はしないでね。三人のうち誰か一人でもいなくなったら私嫌だからね!」


 アキの言葉に涙しながらも笑うミラ、そしてその様子を見て同じように微笑む傍らの二人。知り合いの少ないアキにとって数少ない同性の友人なのだ。女の子だけでのショッピングやいわゆるガールズトークなどは憧れだった。そんな些細なことが失われることもアキにとっては重大事なのだろう。頬をふくらませるアキミラは「わかってるわよ」と言いながら涙を拭った。

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