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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第三章〜ウルク〜
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三霊の使い手

 魔王信教徒の襲撃によりギルドはいくつかの部屋を残して崩壊していた。ギルド内で最も広い冒険者専用訓練場には怪我人がごった返していた。本来ならばこのような非常時には避難場所として使われるのだが、負傷者の数があまりにも多く街の医療施設は全て満員状態だった。医療施設からあふれたけが人を受け入れる事ができるのはギルドしかなく、街の中心ということもあり重傷者を連れてくるのにも都合が良かった。街の医療施設から医療員が数名ずつとギルドの治癒魔法師たちが懸命に治療に当たっていた。トキたち四人もゼトによってギルドに運ばれ、今は手当をしているところだ。そして酒場の方には今、教徒たちと交戦した冒険者たちが集合していた。


 集まった冒険者たちはみな、現状の悲惨さに言葉をなくしていた。それも無理はない。勇者誕生の地とも呼ばれたこの街のギルドは冒険者たちの間では一目置かれたギルドだったのだ。そこで活動する冒険者たちに自然とそのプライドが備わるのは当然だ。自分たちはそこらの冒険者ギルドよりも実力を持った冒険者であると、そう思っていた。しかしそれが今は、見たこともない謎の集団に街を襲われ好き放題に暴れられた挙句街は半壊、死傷者も数え切れないほど、そして冒険者たちは完全敗北を喫した。プライドはズタボロに打ちのめされていた。実際、ここの冒険者たちは猛者ばかり。下っ端だろうと他のギルドへいけば主力となれるだろう。しかしあの悪夢のような現実を見たあとでは自分たちが他より劣った存在に思えてしまう。それほどに敵は異次元の強さを誇っていたのだ。


「あいつらは、一体何なんだ……。なぜこの街を……」


「街を、仲間を、皆をめちゃくちゃにしやがって……!」


 一人のカウンターに座っていた冒険者が、吐き出すようにつぶやいた。それに呼応するように他の冒険者たちも不満をぶちまけている。口にしたところで何も変わらない。そんなことはわかっていたが口にせずにはいられなかった。でなければ自分の中の今まで培ってきた大事なものを否定されるような気がしたからだ。


「わからないことを考えていても仕方がない……。まずはわかることを共有しよう。奴らとの戦闘で得た情報はなにかないか」


 普段からギルドで仕切り役を買って出るカノンも、内心では自責の念に駆られいつもの威勢のいい態度は鳴りを潜めた。だがその中にこれ以上奴らをこのまま好きにはさせないという気持ちも見て取れた。少しでも早くやつらのもとへたどり着くためにも、今は情報が必要だった。


「俺が戦った男は、自分のことを教徒と名乗ってた……。組織のためだとか、目的のためだとか……。魔王信教……そう言っていた……。」


 そう切り出したのは酒場で酒に酔い、トキたちに悪態をついていたサカスであった。サカスもまた、あのときの乱暴な性格は鳴りを潜めていた。


「魔王ってのはあの魔王のことなのか……?」


「そんなわけねえ、あの伝説はただのおとぎ話だ……」


「でも、それが本当だったら……」


 勇者伝説とは、この世界に広まる最も有名なおとぎ話の一つである。その物語は、世界を支配しようと企む魔王とその配下を、勇者たちが倒し世界に平和が訪れたというどこにでもあるような作り話だ。しかしこの話は世界中で知られる伝説でもあった。世界の各地にこの伝説の記述やゆかりのある地、アイテムなどが存在している。


「いや、今のところそれはありえないと思ってもいい……。俺はいつも遺跡や世界の歴史についてのクエストを受けるんだけど……。正直あれほど現実的じゃない伝説は他にない……」


「どういうことだ……?」


「確かに、あの伝説に関しての土地や記述、アイテムは多く存在しているけど、どれも夢物語のレベルだと思う……。実際、ほとんどのアイテムは後に作られたもの。わずかに存在するものは記述とは異なってるし、その記述も内容がぶっとび過ぎていて学者の間では話にも出てこない。そこに書かれている場所についても曖昧ではっきりしていないし、俺はそういう遺跡なんかを調べ始めてから正直、この街が勇者の誕生した土地だっていうのも疑っている……。全てにおいて今の世の中と違いすぎるんだ……」


 冒険者たちは黙り込んでうつむいていた。その男もこの街の冒険者である。皆、彼が遺跡や歴史を求めて旅をしていてその筋の話に詳しいことも知っているのだろう。彼の言葉を疑おうとするものは誰もいない。それから教徒たちについての情報を語るものはいなかった。結局得られたのは『魔王信教』という組織の名だけであった。情報はただ一つだけ。それだけを手がかりに探すことは至難の業であろう。


「ああ、ちょっといいか」


 声を発っしたのはこのギルドでは見慣れない男だった。それもそのはず。教徒たちの襲撃の後にこの街へやってきたばかりの冒険者なのだから。そしてサカスの目の前でルイやグンタの怪我を一瞬にして直してみせた男。ゼトである。


「俺は奴らを追跡し情報を得る任務を任されている者だ。極秘任務だったんだが……こんな大事になったんじゃ極秘もクソもねえしな……」


「お前は、あいつらのことを知っていたってことか……?」


「なぜ公表しなかった!あんな危険な存在を!そうすれば、未然に防げることもあったかもしれないだろ!!」


 一人の冒険者から発せられた言葉が火種となり、冒険者たちはゼトへと集中砲火を始めた。正体がつかめない手も足も出ない相手よりも、今目の前に存在している認識できてまだその実力も未知数の相手に牙を向けるほうが容易いこと。それ故に怒りの発散場所を求める冒険者たちは今目の前に存在するゼトを責めたてた。


「落ち着けお前ら……!そいつにはそいつの事情があるんだろう……。極秘任務なんて、騎士でも名誉騎士以上の称号は持ってなければ与えられないようなものだ……」


「そうだぜ。それに俺は見たんだよ……。あんた、相当な魔法使いだな。基本属性以外の精霊との契約を必要とする魔法なんて初めて見たぜ……。それも三体の精霊契約を必要とする魔法……。正直しびれたぜ……」


 カノンが熱くなった冒険者たちを落ち着かせ、その言葉の証拠とでも言うかのようにサカスが見たものを語った。それを聞いた周りの冒険者たちはざわつき始めた。その表情は目の前の男がどれだけとてつもない存在なのかを表していた。


「三体だと……!それだけの実力があれば、騎士団では黄金騎士、いや……聖雄騎士の称号も得られるぞ!!」


「しかもその精霊が基本属性のどれにも当てはまらないなんて……そんなことあり得るのか……?」


「はは……そんなやつが受けた極秘クエストの情報なんて、恐ろしくて聞けたもんじゃねえぜ……。そんなことに命かけるのはごめんだ……」


「わるいな。理解のあって助かる……。俺の素性は晒せないが、お前たちも奴らの正体を知ってしまったんだ。奴らに関して、俺が掴んだ情報は全てこのギルドに伝えよう。代わりに何かわかったことがあればこいつで飛ばしてくれ」


 ゼトはサカスに白色の中に虹の輝きをまとった魔石を渡した。それを見た冒険者たちは、目を丸め再び驚きの表情で魔石を見た。


「こ、こいつは……魔石か!?なんだこの輝きは……。こんなもんどこで!」


「場所は教えられねえが、ちょっとした細工がしてあってだな。そいつを使えば、情報をマナに変換して俺のもとへ飛ばすことができる。俺からの情報もそいつを通じて送ることになるから大事にとっといてくれよ」


 魔石をサカスに渡すと、驚きの表情を浮かべたままの冒険者たちの視線を背にゼトは酒場をあとにした。

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