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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第三章〜ウルク〜
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偉大な冒険者

魔王信者たちとの戦闘でひどく衰退したカノンは、途中負傷した街の人々を助けながらも仲間たちとの合流と安否の確認を優先してギルドへ向かっていた。


「私としたことが……あんな賊どもにここまで好きにさせるとはな……」


 短期間のマナの大量消費により、体力の消耗とマナ切れを起こしていた。それでも体に追った傷が少ないのは流石というべきであろう。ギルドへ向かう道中の街の有様は見るに耐えなかった。建物は形を失い炎に包まれ黒く変色していた。瓦礫の下からは人々の赤い血が滾々と流れ出て、赤い河を創っていた。ギルドへ向かうほどに、その光景は悲惨さを増す。嫌というほどその光景を見せつけられ、己の無力と罪を押し付けられるようであった。ギルドへつく頃にはその重圧に心が潰され、酷く重い自責の念となっていた。ギルドの外にはサカスが立っていた。


「お、おう……戻ったか……。ブランは奥のベッドに寝かせてあるが、向こうはひどい有様だ……。負傷者が山のようにいる……。今は治癒魔法が使える連中でなんとか対応している状況だ……」


 そういうサカスもすでに魔力切れを起こす寸前だった。中で負傷者の傷を癒やしていたのだろう。「まさかあのブランがやられるとはな。」と独り言のように話していた。他にも怪我をした冒険者たちがギルドの外で座りこみ、未だに重症の患者たちがギルドの中へ運び込まれているようだ。すでにギルドの中は怪我人であふれかえっているのだろう。黙秘を続けるカノンに、「大丈夫か?」と声をかけるサカス。依然として無言のままのカノンにサカスがどうしたものかと頭を掻いていると、突然カノンの顔色が変わった。その理由にはサカスも気づいていた。それは今まで感じたことのない異様なマナの気配であった。


「これは……魔王信教徒か……!」


「いや……かなり異質ではあるがあの狂ったマナとは別のものだ……。俺が行く、お前は中で休んでろ」


 そう言うとサカスは高く飛び跳ね、数回のジャンプでその姿は瓦礫の向こうへと消えていった。その姿を見送るとカノンはサカスの言葉通りギルドの奥の部屋へと向かった。ベッドが置かれているのは宿泊が可能な部屋のみだが、そのベッドはすべて持ち出され別の広間に置かれていた。その部屋は本来ならば戦闘訓練用に利用される空間で、冒険者たちが少々剣術や魔法で暴れ回っても傷一つつかないようになっている。その頑丈さからこの街では避難所としての役割も担っている。そこへカノンがそこ向かったときには地獄絵図となっていた。今にも命が尽きそうな負傷者がベッドの数では足らず、床にも転がるように寝かせられている。耳をふさぎたくなるほどのうめき声と、鼻をつまみたくなるような人間の血の匂いが混ざり合い、耐性のないものならば今にも吐き気を催すような生々しい空間だった。カノンは眼前に広がる地獄のような光景に立ち尽くすことしかできなかった。




※※※




 その頃サカスは突如として現れた異様な気配がする場所へと向かっていた。それは人間のものとは明らかに異なっている。しかし魔王信教徒のものとも違う。初めて感じるマナだった。清らかなマナの中に禍々しさを持ち、まるで水と油のように混ざり合うことがない二つのものを強引にかき混ぜたような感覚。本来ならばこのように全く異なるマナが一つの器に宿り混ざり合うことなどありえないのだ。


「あれは誰だ……?」


 そのマナを感じる場所を目指していると、その先には小さな少年が見えた。その周りには血を流し倒れる少年と少女が確認できた。すぐに近くに倒れていた一人の少女のもとへと駆けつけた。その少女が昼間に酒場にいた少女だと気づいた。目を虚ろとしていて動こうとしない。少女はゆっくりと首を回し、サカスの顔を見た。その眼差しは恐怖に支配され生気を捨てていた。サカスはその目を見た瞬間少女の恐怖が自分にまで襲いかかるような感覚に苛まれた。首を激しく振り正気を取り戻すとその少女に語りかけた。


「おい、しっかりしろ! 何があった!」


「トキ……を……けて……!」


 途切れ途切れだが必死に伝えようとする言葉を紡ぎとり、その意思を汲み取る。誰かを助けてほしいという気持ちだけを頼りにあたりを見渡す。二人の血を流す少年が地に伏している。そしてもう一人異様な少年がいた。あきらかに異常で歪なマナを周囲に纏っている。追っていたマナの正体がその少年だと知り警戒を強める。だが倒れた二人の少年の様態は非常に危険だ。これでもサカスは治癒魔法師。遠目でもその一刻を争う状態だけは把握できる。異様なマナの正体に警戒を向けつつ、一人の少年のもとへと駆け寄る。


「まずいぞこれは!!一刻も早く傷を塞がないと……!!」


 焦りを覚えながらも治癒を始めるサカス。しかし貫かれた風穴は塞がらず、流れ出る血を止めることもできない。傷が深く命に関わるレベルまでになると回復速度は落ちてくる。しかしそれを踏まえても明らかに回復が遅い。原因もわからずただ止まれ止まれと何度も叫びながら治癒魔法をかけ続けることしかできなかった。街を破壊され、脅威が去ってもなお自分の無力さを思い知らされる。自分はこんなに小さな命も救えないのかと折れそうになってもなお、その現実は目の前に転がり続ける。ギルドでも治療を手伝っていたサカスのマナはすぐに枯渇し、次第にその表情は青ざめていく。とうとうサカスのマナは底をつき魔法は発動することさえなくなった。


「くそが!治れ!治りやがれ!」


 激しいマナ消費で顔は青ざめ、苦痛からか悔しさからか、いつの間にか涙が溢れでていた。すでに魔法は発動しないことも、もはや自分では少年たちを助けられないこともわかっていながら、何度も何度も少年の腹に空いた穴に手をかざし魔法を唱える。そんなサカスの腕を突然誰かが掴んだ。


「てめえまでぶっ倒れるぞ……」


 それはツンと逆だった茶髪に無精髭を蓄えている男だった。茶色いマントを纏い、背中には大きな袋を担いでいる。そして袋を担ぐのとは逆の腕にもう一人の血まみれの少年が抱えられていた。男は少年の横に座ると袋をおろし、二人の少年を並べ寝かせた。落ち着いた様子で少年の体を調べはじめる謎の男。もう一人の少年も額から大量後を流している。サカスはその様子を真っ青な顔で呆然としながら見つめる。男から漂う只者ではないオーラと膨大なマナに圧倒されたのだ。ただそこに悪意はなく、まるで神が舞い降りたように錯覚した。


「おじ……さん……!」


「アキ。お前はゆっくり寝てろ。こいつは俺が見てやるからよ。」


 遠くからわずかに届いた少女の叫びに答えると、男は魔法の詠唱を始めた。その集中力は周囲を飲み込み静寂を訪れさせるほどだった。木々のざわめきも風の音すらも聞こえない。ただ男の静かに詠唱する声が鳴るのみだ。


「《さまよう死者を導きし黄泉の使者 黄泉の門を叩く生者の魂の鎖をその身と魂とを引き裂く者 星の力を操りし偉大なる大地の英霊 その民の命尽きぬ者の震えに星の共鳴を示す者 天海より天命を受けし天の使い 天楼の頂へと登り天の使いに天命を授かりし者》……」


 男が詠唱を始めると周囲は光に包まれ、地面と男の遥か上空にいくつもの巨大な幾何学模様が姿を表し重なり合っている。そして、空からは巨大な光の柱が降り注ぎ、その空に浮かぶ魔法陣を貫く。


「《天地冥堂の結びは繋がれた その魂黄泉へその肉体地へ帰すこと 双方我が命によって無へと帰す 汝ら我が命により閃光の瞬きの間に世の理を無へと帰す》!」


 光の柱はより輝きを増し、魔法陣の中心に収束しはじめた。辺りは白一色に染められ、空に浮かぶ雲さえもその眩さに姿をくらます。そして次第にその光の柱が姿を消していくと、先程まで少年の体に開いていた大きな穴はなんの痕跡を残すこともなくきれいさっぱり消えていた。舞う一人の少年の額の抉れた傷何事もなかったかのように完治している。サカスは目の前で起きた出来事にただ言葉をなくすばかりであった。


「ほらあんたも、マナを戻してやっからじっとしときな」


 サカスは男になされるがままに魔法をかけられ、その魔法の温かみによって現実に引き戻される。マナが体に溢れ出し、蒼白としていた顔色も生気取り戻した。そして目の前に腰を下ろす神のような存在に問う。


「あんた……一体……」


「あんたと同じ、ただの冒険者だ……。おいアキ!次はお前を治してやるから待ってろ!」


 男はサカスの疑問に答えると少女に向かって叫んだ。サカスの治療を終え少女の方へと歩いていく男の後ろ姿を見ながら、サカスは初対面で顔も知らなかったその冒険者を名乗る男に憧れを抱いた。もはやそれを通り越して崇拝でもしてしまいそうな勢いである。これまで見てきたどんな冒険者よりも勇敢でたくましいその背中にこの街に残る伝説の勇者の影を見た。

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