勇者誕生の街
勇者の街を目指す道中に遭遇した謎の気配に四人は胸騒ぎを覚えながら勇者の街を目指して走っていた。なにか悪いことが起きるのではないかという予感が四人の中にはあったのだ。先に街へと向かったミラたちも気がかりだ。普通に考えれば彼女らが街へ着くのはそろそろのはずだ。それに追いつけずともできるだけ街へたどり着くに越したことはない。しばらく行くと再び草原に出た。しかし道は林道から真っ直ぐに続いている。そしてその先には街を囲む大きな壁が見えた。ようやく目的の街にたどり着いたのだ。近くによると街の壁は随分と高くそびえ立っている。勇者誕生の地『ウルク』。それがこの街の名前だ。
シオンやヴァルとは比べ物にならないほど大きな街だということは壁の外からでもわかった。街をきれいに囲うその壁の一面には扉が備え付けられていた。門の前には二人の警備の者が立っている。単調な鉄製の鎧と槍を携えていた。近づくと声をかけられ身分を証明できるものを求められる。冒険者のギルドカードは身分証としても使える。それを見るとすんなりと街の中へと通してくれた。壁の内側へ行くと、流石にこれまでのような田舎とは違い、おしゃれな建造物が建ち並んでいた。道のほとんどが石畳で整備されており、店の数も大きさも段違いだ。人の数も多く村で暮らしていたアキたちにとっては目眩がするほどだった。街の中心には異彩を放ちながらも堂々と冒険者ギルドが建っている。その規模はこれまでのギルド以上だ。
「広ーい!!」
「ここがウルクか……」
「人がたくさん……」
「これはミラを探すのにも苦労しそうだね……」
それぞれ感嘆の声を上げている。しかし通行人や街並みを見たところ、四人が心配したような何かが起きた様子はない。どうやらただの思い過ごしであったようだ。杞憂であったと安堵のため息を吐いた。
「とりあえずミラを探すとするか」
「でもこんなに広いところじゃまず見つからないだろうね」
「ギルドに行くのはどうかな? ギルドにはいろんな情報が集まるんでしょ?」
ギルドといえば酒場。そしてそこのマスターはあらゆる方面から仕入れた情報を冒険者に提供するのがコノ世界でも常なのだ。ミラの居場所についての手がかりを得るため、四人はこの街のギルドを訪れることにした。なにより四人は勇者の伝説が残る地のギルドに興味があった。ギルドは街の中心。勇者の伝説が残るだけあってこの街では勇者を称え創られたギルドは堂々としてる。ギルドへ向けて街を歩いていると至るところにギルドの広告や武器屋、防具屋など冒険者が普段からお世話になる店が立ち並んでいた。この街のギルドは一種の観光スポットとしても有名なようで、その周辺の店をも巻き込んでお祭り騒ぎだ。もちろん、勇者にあやかった土産や名物なども売られている。勇者伝説とギルドがこの街に与える影響は大きいらしい。街を輝く視線で見渡しながら歩く四人の目の前に現れたのはこれまでよりも一回りもニ回りも大きなギルドだ。
「大きいね」
「この街は人が多いからな。依頼の量も冒険者の人数も多いからでかくなっちまったんだろ」
「早く入ろうよ!」
まるで遊園地にやってきた子供のようなテンションでギルドに足を踏みいれる。扉をくぐると中心に通路があり、左右にいくつかの部屋が置かれ正面が酒場となっているらしい。途中通路も枝分かれしており、二回へと続く階段もあった。四人は早速酒場へと足を運んだ。これまでのギルドと同じような雰囲気と装飾の酒場ではあったが、非常に広く冒険者の数も桁違いだ。冒険者たちの豪快な笑い声で喧騒に包まれている。
「賑やかなギルドだね……」
「情報ってどこで聞くんだよ」
「とりあえずミラたちがこのギルドに立ち寄っていないかここにいる人に聞いてみよう」
それぞれギルド内で騒ぐ冒険者たちにミラたちを見かけたものがいないか聞き込みしていくことにした。グンタも小さく見えるほどの巨漢や男たちを足蹴にする女騎士など、皆それなりに冒険者としてやってきただけの覇気をまとっていた。トキはというと、他の冒険者に圧倒されて声をかけられず尻込みしていた。
「おいそこのガキ!!てめえら何をしているか知らねえがな、邪魔なんだよ!ここはお子様が来るとこじゃねえぞ!!!」
「ご、ごごごめんなさい……!」
振り向くと縦にも横にもとてつもなく巨大な男が顔を真っ赤にしてトキに絡んできた。テーブルには大量の空のジョッキが置いてある。この男は酔っ払いのようだ。トキが男に怯えているとそれを遠くで見ていたアキが割って入ってきた。
「ちょっとおじさん、そんな言い方ないじゃない!私達だって冒険者よ!」
「んぁあ? お前たち見たいなちんこいのが冒険者だあ? 笑わせんじゃねえぞ小娘が!!」
「まあそのへんにしとけよ。いいじゃねえか別に子供くらい」
「んだとブラン!!俺はなあ──!」
男がさらに荒れると今度は近くで見ていた別の男が止めに入った。しかし止めに入った男にも同じように怒鳴り散らしている。だが名前を知っているところから察するに知り合いなのだろう。荒ぶる男を落ち着いた様子で対処して、ほとぼりが冷めると怒鳴った男は文句を垂れながら去っていった。
「悪いな、お前たち。あいつは酒が入るといつもああなんだ」
男はスキンヘッドに褐色肌で筋肉質な体つき。しかしそんな容姿とは反してとても穏やかな笑みを浮かべて笑った。見た目とは裏腹に性格は温厚そうな男だ。この男は怖くないと思ったのかアキの後ろに隠れていた前に出る。
「あの、ありがとうございます……」
「いいんだ。こっちこそすまなかった。それより君たちさっき冒険者と言っていたが新人か? おっと、俺はミゼリアン・ブランクだ。あいつはブランって呼んでたがまあ好きに呼んでくれ。」
男はトキたちが新人だと知ると席へ招いて食事をおごってくれた。遠くで騒ぎを聞きつけたルイとグンタもやってきて、五人で隅のテーブルを囲んだ。ブランに続いて四人も自己紹介をし、ここに来た目的を話した。
「なるほど、仲間を探して。俺はその娘のこと見てねえけど、他のやつにも聞いてやるよ」
そう言うとブランは、一人カウンターに座っていた銀髪の長い髪に同じ銀色の鎧を着た女騎士に声をかけた。先ほど複数人の男を足蹴にして泣かせていた女騎士だ。トキは少し怯えた様子で女騎士を見る。
「おいカノン、聞いてたよな。こいつらが言ってたような娘見てねえか?」
「んあぁ? そういえば昼頃ここへ来て、クエストを受けていった小娘が三人いたような……」
三人の小娘とはおそらくミラとリア、ヒズナの三人のことだろう。カノンという女性の言う外見的特徴も一致していた。詳しく聞くと、ギルドで酒場のマスターといろいろ話しているうちに「記念にクエストを受けてみるかい?」と言われヒズナが目を輝かせて承諾したらしい。先程の酔っぱらいがその様子を見て悪態をついていたのを横目に見ていたらしく、その様子を見ていて三人のことも記憶していたようだ。
「それで、そのクエストはどんな内容なんだ?」
「ただの資材調達だよ。街の南で取れる木ノ実を取ってくる簡単なお仕事だ。新人っつってもあれくらいなら心配いらないだろうってマスターが勧めたんだとよ」
「ああ、あのクエストか。確か依頼主がマスターの知り合いとかでクリアされても常に掲示板に張り出されてるやつだよな。木ノ実はいくらあっても困らないとかで」
「そうそう、あれくらいならあの子達でも問題ないでしょう。あんたたちも行く気かい?」
「どうする? 今から同じクエストを受けて追いかけることもできるが」
二人のベテラン冒険者がトキたちに尋ねる。四人は顔を見合わせ悩む。クエスト自体は簡単なようだし、なにか用があるわけでもなくしばらくすれば帰ってくるだろうからここで待っていてもよいのだが……。
「私達も行こう!簡単っていってもやっぱりまだ冒険者になったばっかりのミラちゃんたちには何が起こるかわからないし!それに私達もなにかクエストを経験しておくべきだよ!」
「そうだな。冒険者としてあいつらに負けるわけには行かねえからな!」
トキとルイ、グンタもアキの意見に賛成した。いくら簡単なクエストといえど初めてのクエストで無茶をしないとも限らない。
それにライバルに負けるわけにはいかないのだ。そんな風にいろいろと理由をつけていたが、そこには言葉にはしないながらもあの謎の影たちのことがやはり気になっていたのだ。ブランはどこか暗い様子の四人を訝しげに見たが少し考え込んである提案をした。
「よし、それなら俺も連れて行け。その娘たちと同じようにお前たちもルーキーなら先輩として守ってやらないとな!安全だといっても何があるかはわからん。念には念をだ」
ブランはそう言うと、クエストボードからミラたちが行ったクエストと同じものを豪快に手に取り受付へ提出した。驚くアキたちだったが心強い味方ができてますますやる気を見せた。「ルーキーの助けになるのは先輩の務めだ」と言うブランにトキたちは再度例を言う。そして五人はブランとともに冒険者として初めてのクエストに向かった。




