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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第三章〜ウルク〜
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淫雨の獣

 トキとアキは冒険の前に装備やアイテムを揃え約束の場所へと向かっていた。村の入り口には二人の人影が見える。ルイとグンタのものだ。二人はギルドで別れたときには持っていなかった小さな剣と魔法の杖を持っていた。


「新しい装備買ったんだ!ルイは私とおんなじ魔法使い?」


「いろいろ試して見ようと思ってな。前衛用にも一応と思ったんだが余裕もなくてこの短剣だ。グンタは見ての通りガタイがいいから前衛だな。」


 二人の服装は変わっていないが腰や背中に背負うものは冒険者のそれらしいものになっていた。ルイは背中に木製の魔法の杖と腰に短剣、グンタの背には大剣と木製の盾が背負ってある。旅の途中必要になるアイテムや消耗品の補充も完璧らしい。


「あとはミラちゃんたちだね」


「ああ、あいつらなら先に次の街に向かったよ」


 驚きながらも残念そうな表情を浮かべるアキ。トキたちが待ち合わせに間にあわなかったというわけではないが、ヒズナが先に村へ行くと言い出し聞かなかったらしい。普段は大人しくミラやリアに振り回されることが多いヒズナだったのだが、珍しく自分の意思を強く主張しそれに押し負けたミラとリアはヒズナとともに一足先に村を出たらしい。いわくヒズナは勇者に憧れを持っていて一刻も早く街へ赴きたかったらしい。


「その勇者の街にはどれくらいかかるの?」


「まる一日ってとこかな。歩きだしそんなもんだろ」


 一日歩きっぱなしというのは想像しただけで気が滅入ってしまいそうなものだ。トキもつい馬車があれば……、などと思ってしまうがあいにくそんな物はない。シオンからヴァルへの道にくらべればと仕方なく腹を括り覚悟を決めた。シオンの周辺とは異なり、道中は平で見晴らしの良い平原であった。これまでの荒れた獣道にくらべれば疲れも少なく済むだろう。その予想通り、歩き始めて数時間。日もかなり傾いてきた頃だが、トキも余裕の表情を見せていた。しかし以前のトキであればすでに音を上げていただろう。トキもシオンを旅だってから成長しているということなのだろう。順調に歩みをすすめるトキたちであったが、まだ昼過ぎだというのに辺りは薄暗くなっていた。空を見ると村を出発したときとは打って変わって重苦しい曇天になっていた。


「一雨来そうだね……」


「雨宿りできる場所を探しながら進むぞ」


 雨を警戒しながら先程よりも急ぎ足で歩いた。草原には雨をしのげるような場所はなかなか見当たらない。少し道を逸れるが、草原と隣り合わせになっていた崖との境を行くことにした。崖の洞窟を探すが簡単には見つからない。次第に空も薄暗さを増し、小さな雫が少しずつ空から降り始めた。すると、近くに落岩でもあったように巨岩が積み重なりできた空洞を見つけた。洞窟のように広くはなっていないが四人で雨宿りするには十分な広さだ。四人が空洞に腰を下ろしてしばらくすると雨は激しさを増していった。


「なんとかなったな」


「雨がひどくなる前に見つかってよかったよ。それにしてもトキくんは薬草のときといい、すごくついてるよね」


 トキは自分のギルドカードに運が少し高めに記されてあったのを思い出した。おそらくはその運の高さが幸いしているのだろう。いつでも運がいいというわけではないが、しばしばその幸運の恩恵にあずかっている実感はあった。運が悪いこともあるが、運がいいことは人よりかなり多いだろう。


「雨、止みそうにないね」


「暗くなってきたことだし、今日はここで野宿か」


 そう言うとそれぞれリュックから寝袋を取り出し、火を焚いて四人はそれを囲うように陣取った。村を出る前にそれぞれで買いこんだ食料を持ち合わせ、それを今晩の食料とした。特にグンタは随分と調理器具や食材を買いこんでいて、調理の最中からよだれを垂らしながらその味を想像し頬を染めていた。実際、グンタの用意した食材はとても美味しかった。本人いわく、随分と無理をして買った食材もあったらしいのでその味には納得である。胃を満たし、使った道具や食器は雨やアキの水魔法で汚れを洗い流す。感想にはトキとルイの火の魔法だ。このときトキは火を熾すのに便利な魔法をルイに教わっていた。道具を片付け終えたあと、ルイは一向に止む気配がない雨を見ていた。それを見ていたグンタはルイの傍らに腰を下ろした。


「ミラたちは雨宿りできてるかな……」


「あいつらなら大丈夫だろ。なんとかしてるさ」


 ミラたちはトキたちよりも少し早く村を出ていたが、流石にまだ歩いて一日かかる距離は進んでいないだろう。ルイ心配してない風なことを言ってはいるがその表情からは仲間を心配する様子が伺えた。はたまたさっきの言葉はミラたちの実力を信じて、これくらいの困難はなんとかしているはずだという信頼の証なのだろうか。二人の会話を聞いてトキもなかなか止まない雨を見つめた。初めて雨を見るような感覚はないが、雨の降った日の記憶もなかった。こんな雨に打たれたこともあったのだろうかと不思議な感覚になった。いつになれば記憶が戻るのか。なぜ自分には記憶がないのか。このまま記憶は戻らず、今いる仲間たちと新しい思い出を作っていくのだろうか。そんなことを時間を忘れるほど考えていた。


 どうにも雨というものは人の心を沈めてしまうらしい。トキが雨を見ることをやめ洞穴に振り返ると皆眠りに就いていた。トキも遅れて寝袋に入り、もう一度雨が降っている遠くの景色を見た。そこには草原が広がり遠くの方には大きな山があるはずだった。しかし激しい雨のせいで遠方の様子は把握できない。空は雲のものか、雨のものかもわからないむらなく染められた銀一色。


 しかしなぜか、その遍く染まる空に歪みはが見えた。その歪みは下は大地から、上は遥か空まで伸びている。まるで生きているかのように大気を歪ませ動いている。雨のせいで視界が悪くはっきりとは見えないが確かにそこに何かがいる。それもとてつもなく巨大な何かだ。その一本の太い柱のようにも見えた影から、いくつかの枝分かれした細い柱が覗える。四肢のようなそれは主柱の動きにあわせて揺れている。その体は雲の上まで伸びているのだろう。肩と思われるあたりからは雲に遮られている。一歩一歩ゆっくりと歩く影は遠く銀色の霧の中へ姿を消した。

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