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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第二章〜ヴァル〜
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勇者

「見習い冒険者の方たちですね。それでは指定されたアイテムを確認させていただきます」


 そう言って七つの袋からいくつかのアイテムを取り出すのはヴァル冒険者ギルドの受付嬢だ。シオンのギルド嬢も素晴らしく美しい女性だったが、彼女もそれに負けず劣らず美しかった。袋から取り出されたアイテムは一つずつ丁寧にカウンターに並べられていった。目の前の女性はそれを一つずつ、全員分を順番に確認していく。


「はい、たしかに全て見習い用クエストで指定されたアイテムに間違いありません。ここにいる七名をこれより正式に冒険者として認めましょう」


「「「「やったー!!」」」」


「ふん!まあ当然だな!


「素直に喜びなさいよ」


 短くも長かい初めての旅が終わった。そしてそれは新たな旅の始まりでもある。ついに冒険者となった七人は、顔を見合わせると無邪気に跳ねるように喜びそれぞれ歓喜の言葉を口にしている。初めはたった二人で目指した冒険者だったが、気づけばトキの周りにはたくさんの仲間ができていた。冒険者を目指して本当に良かったと改めて感じた。各者各様に喜んぶトキたちに受付嬢が次の話を繰り出した。


「では正式に冒険者になられた皆さんには、メインパーティの登録をこれからしていただくのですが、パーティの編成についてはすでにお決まりでしょうか?」


 そう。今まで見習いとして冒険をしてきたトキたちのパーティは、正式には登録されていない見習いパーティ。仮のパーティだった。これからは一人前の冒険者として実績を重ねるためにはその実績の代名詞ともなるメインとなるパーティを組まなければならない。


「もちろん私たちはこの三人で組むわ」


「うん、相性もいいし」


「何よりずっと一緒で慣れてるからね〜」


 ミラ、リア、ヒズナの三名は、見習いのときと同じ編成でメインパーティを登録するようだ。ルイとグンタいわく、この三人は学庭でも常にともに行動しており、ミラを中心としてバランスの取れた良いパーティらしい。初めから三人で組むことも決めていたみたいだ。


「ルイ、僕達はどうする? ここまではトキくんたちと一緒に冒険してきたけど」


「俺らも二人だけで組むことにするか。こっちはこっちで色々やりたいこともあるしな」


 ルイはグンタと二人でパーティを組むようだ。てっきりアキを狙ってトキたちのパーティに入るつもりなのかと思っていたのだが。それほどの目的があるのだろうか。


「じゃあ私達は二人だね」


「そうだね」


 アキはもちろんトキと組むつもりだ。トキもそれを当たり前のように受け入れる。そして、全員のメインパーティが決まり、それぞれ手づきを済ませここに三つの新たな冒険者パーティが生まれた。学徒組はすでに行き先は決まっているようだった。どちらも次の街まではともに行動するらしい。トキたちはというと、まだ目的地は決まっていない。それならば一緒に行こうと学徒組の意見に流され御一緒することになった。何よりも、その次の街というのが『勇者誕生の地』と呼ばれる街らしいのだ。


 『勇者』はこの世界で誰しもが幼い頃より聞かされる童話の主人公である。かつては世界を恐怖に陥れた『魔王』を倒し、世界に平和をもたらしたという。といってもあくまでも作り話であり、勇者や魔王などに関する記述やその証拠などは発見されていない。勇者や魔王の名がおとぎ話の領域を超えることはなかった。ルイたちが言うには『冒険者』も勇者をモデルに生まれたらしい。ギルドには童話の勇者のような救世主が現れることを祈る意味も込められているようだ。それならば冒険者たるもの、一度はその『勇者誕生の地』を目にしなければ!とトキたちの心に火が着いたのだ。


「じゃあみんな準備もあるだろうし、また解散して昼丁度に村の入り口に集合にしましょう」


「よっしゃ!装備とアイテムも見とかねえとな!」


「調理器具なんかも欲しいな〜」


「可愛い防具とかあるかな!」


 最後に七人は報酬としてある程度の通貨と簡単な冒険者の心得が記された手帳を渡された。ギルドを出るとメインパーティごとにそれぞれ別れ、たびに必要なアイテムや道具、装備を探しに出た。トキは早速雑貨屋へ赴き余分に手に入れていた薬草とスライムゼリーを少量を残して金に変えた。トキの現在の所持金は2050ネル。ネルというのはこの世界の通貨単位で、1ネルは銅貨一枚と同価値だ。硬貨を小さな袋に入れると早速武器屋へと向かった。しかしその道中、一着の服がアキの目に止まった。しばらく立ち止まると吸い寄せられるようにその店の前に寄り添った。そして現在、トキはアキのわがままで服選びに付き合わされていた。普段ボロボロの服しか着ていないアキも一人の女の子だ。お金がある今、夢中になって服を選んでいる。「これ変じゃないかな……」と独り言を言っているとその店のきれいなお姉さんが服選びを手伝ってくれた。「これなんか似合ってるんじゃない?」と軽いノリで勧められるが「こんなにきれいなの着れないよ〜」となかなかお決まりにならない御様子。


 ようやくアキの服選びも一段落。早くもアキの財布の中はすかんぴんであった。つい衝動買いをして使いすぎたことに後悔するアキ。気づくとアキの両手はすでに袋でふさがっていた。両手の袋の重みに肩を下げながら「う〜……」と涙を流していた。トキは「いや買いすぎでしょ!」と突っ込みたくなる気持ちを抑える。しかしこれでは武器を買う余裕はなさそうだ。しかしそれでもトキの目当てでもある武器屋へは立ち寄る。小さな店中には様々な武器が並んでいた。弓や剣はもちろん、小さな杖や針のようなものまで。少し厳重に飾られているいかにも強そうな剣にトキは目を輝かせた。しかしその値段は桁違い。見るだけで目眩がしそうだ。それに対して魔法使いに憧れるアキは魔法の杖を見て目を輝かせた。だがアキにはもう杖など買うお金はない。そんなことは百も承知だろうがそれでも杖に熱い視線を送り続けていた。トキは大きなため息をついてアキのそばに寄った。


「安いのなら買ってあげる……」


「ほんと!!」


 我ながらアキに甘いと溜め息を吐いて反省した。より一層アキの瞳の輝きが増す。そんなアキに「ただし、僕の武器が買える範囲で!」と付け足す。トキは自分が気になっていた武器を手に取り店の主人のもとへ行った。


「二つで1550ネルね」


「意外とする……」


 トキは武器の高さに驚きつつも硬貨を払う。二人はそれぞれの新たな武器を手に店を出た。残り500ネル。最初にしてはそこそこのお金があると思っていたのが、一瞬で消えてなくなってしまった。その後、いくつか道具を買うとトキの財布の中身もすかんぴんとなった。肩を落としながらこれからはお金の使い方には気をつけようと思うトキとアキであった。

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