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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第二章〜ヴァル〜
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始まりの日

 アキとミラの二人が年頃の少女らしい会話をしつつ洞窟の前で待っていると、ほどなくして湖で娯楽を楽しんでいた少年たちが帰ってきた。

 

「ちょっとどこ行ってたの!遅いわよ!」


「んだと!お前がどっか行けっつったんだろうが!」


 顔を見合わせるやいなや火花を散らすルイとミラ。トキとアキが二人を宥めると、「まったくお前は甘いんだよ」とルイに叱られながらもトキは苦笑いを浮かべ、ミラは「アキがそういうなら……」とアキに対しては甘くなっていた。少女たちと少年たちはお互いに、別れる前よりも仲良くなっている空気を感じ取りなにがあった? と驚きと疑問の表情を浮かべた。いつもならばトキはルイにいじめられ、ミラはアキのことなど見えてすらいないような態度を取っていただろう。


「お前ら……なんか変だぞ……。大丈夫か……?」


「変じゃないもん!というかそれはこっちのセリフだよ!」


 とルイが気持ち悪がりながら二人の心配をすると、失敬な!と言いつつアキが受けたセリフをそのまま返した。ミラがアキと二人でショッピングに行く約束をしたと自慢気に話すと、対抗するようにルイも三人で釣りをしたことを話した。やっぱり様子がおかしいとお互いに言い争いをしていると、グンタが「それより早く帰ろうよ。お腹ペコペコなんだけど」と空腹を訴えた。それを機にそういえばと皆が腹を抑えだす。


「さっさと帰って飯食うぞ!」


 ルイが叫びそれに応えるように皆自分の荷物を持ち上げ帰路についた。アキが「またあの店に行きたい」と言ったときのルイの表情はこの世の終わりでも予感したかのような絶望に満ちていた。ヴァルまではそう大した距離ではない。しかしまだ意識が戻らない少女が二人いる。二人を連れて行くのは力のある少年たちの役目だった。もちろんそれはルイとグンタの役目。非力なトキには文字通り重荷だった、というと抱えられている二人に失礼なので誰も口にはしない。洞窟を出たときと同じようにリアをグンタが、ヒズナをルイが背負った。思わぬ強敵との遭遇や仲間の負傷など色々あったが、無事ギルドより依頼されたアイテムを手に入れることができた。あとはこれを村のギルドまで届けることができたならば、ここにいる七人は正式に冒険者となる。


「ついに俺達も冒険者か」


「なに? 浸ってんのルイ?」


「るっせ!」


「まあまあ。村に帰るまでは何が起こるかわからないよ」


 ルイがシオンを出てからの短い冒険の思い出に浸っていると、ミラがニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべてルイの顔をのぞき込んできた。馬鹿にされ悪態をつくルイに宥めの言葉をかけるグンタの表情は、言葉とは裏腹にいつにもまして穏やかだ。そんな学徒たちの絡みを見守るトキとアキもまた然りだ。結局そんな心配も杞憂に終わり、魔物が現れる気配もなくすんなりと村まで辿り着くことができた。ルイは拍子抜けだとかなんとか言ってはいたが、その顔には今朝からの披露の色が伺えた。


 その日は全員昨日泊まった宿屋のお世話になり、ギルドへアイテムを納品するのは明日となった。外食にでも行こうという話もあったが、まだ目を覚まさない二人を放っていくわけにも行かないということでその日はそれで解散となった。部屋へ帰るとまだ日も沈みきっていないという時間であるにもかかわらず、皆ぐっすりと寝込んでしまった。どちらにしろ外へ出るような元気は誰も残っていなかったのだ。


ーーーーー


 そして翌朝、いち早く目を覚ましたのはリアだった。柔らかいベッド、隣にはミラが横になっている。布団から出ようとすると体中に痛みが走る。見ると包帯が至るところに巻かれ治療の跡があった。徐々に昨日のことを思い出していると隣の金髪碧眼美少女が目を覚ます。そしてリアを見つめたまま数秒間停止した。それにリアが見つめ返すと目を大きく見開き数回瞬きした。そしてようやく頭がリアが目を覚ましたことを理解すると、ミラのベッドから隣のリアのベッドへと飛び映るようにリアに抱きついた。


「いたたたたたたた!!!!ちょ!ミラ痛い痛いよ!!」


「あ!ごめん!!」


 あまりに突然のミラのハグに反応することができず体にできた傷の痛みでようやくリアは現実に戻ることができた。リアの苦痛の叫びを聞いたミラも同じく現実に引き戻されたようだ。リアの叫びも仕方がない。体中の皮膚を溶かされ酷いところになると骨まで露出する勢いだったのだから。ミラはそんなことも忘れてしまうほどリアのことを心配していたのだから、目を覚したリアを見てつい抱きしめたくなるのも仕方がない。必死で謝るミラをリアが苦笑気味に宥めていると隣からも「いったぁああ!!」という悲痛な叫びが聞こえた。ミラはすぐに服を着替え隣の部屋へと移動した。


「ヒズナ!?」


「え!? なに!?」


「う〜ミラ……?」


 見るとベッドの下でヒズナが目に涙を浮かべながら座りこんでいた。そしてアキはその声に驚いて目を覚ましたようでプチパニック状態だ。どうやら目を覚ましたヒズナはそのまま寝ぼけて起き上がろうとしたときにベッドの下に落ちてしまったらしい。そしてその時の衝撃が傷口を刺激したようだ。そのあまりの痛さのおかげで寝ぼけ状態から一気に覚醒したようだ。


「ヒズナ!よかった!」


「え!?ミラちゃっ痛ったぁあああい!!!!」


「ひゃ!?」


 二度目の出来事にもかかわらず同じ過ちを繰り返すミラ。そしてヒズナはリアほど優しくはなくミラは一気に部屋の壁まで突き飛ばされた。ヒズナもなかなかの怪力の持ち主のようだ。その様子を見てようやく目が覚めたアキ。アキもヒズナが目覚めた喜びで涙を浮かべながら思わずその手を握りしめる。そしてミラの二の舞いになる。痛みに悶えるヒズナの傍にリアが歩み寄る。


「おはよヒズ。どしたのその包帯。ミイラみたいだよ?」


「リアちゃん!ってリアちゃんのほうがひどいよ!?」


 リアの声に振り返るとそこには自分以上にミイラと化したリアの姿があった。思わずその姿にツッコミを入れるヒズナ。リアはそれに「ヒズのその言葉がもっとひどい!」と指差した。すると部屋の扉が二度ノックされる。


「お〜い、なんの音だ〜? 大丈夫か〜?」


 ルイの声だ。眠気を感じさせる声。先ほどミラとアキが突き飛ばされた音で目を覚したのだろう。ヒズナとアキの部屋は男子部屋の隣で、二人が突き飛ばされた壁はその部屋と二人の部屋を遮る壁だった。ヒズナは昨日着替えたままの姿だ。アキも普段から外出時と同じ服装で眠っているので着替える必要はなかった。ミラが立ち上がりすぐに部屋の扉を開けるとそこには三人の少年が立っていた。


「なんの騒ぎ?」


「リア!ヒズナ!目を覚したっ!?」


 グンタが心配の言葉を声にした。そしてその後に部屋の中に目覚めたリアとヒズナの姿を確認したルイがヒズナに近づこうとするとミラが立ちはだかった。ヒズナによる第三の犠牲者を生みだすことは回避できたようだ。ルイは近づこうとしただけなのにミラに立ちはだかられ表情をムッとさせた。


「二人ともまだ傷が言えてないんだから無理させちゃだめ!触れるのも禁止!特に男ども!」


 言っている本人が先ほど触れて突き飛ばされたとは夢にも思わない少年たち。ルイは舌打ちをして「んなことしねぇよ」と吐き捨てたが、実際にはリアとヒズナの体を心配して肩に手を伸ばそうとしていた。「どうかしら」と一瞥を与えるとミラはそれぞれ部屋に戻って宿を出る支度をするように支持をした。皆それ了承し自室へと帰っていく。リアとヒズナの荷物はそれぞれミラとアキが代わりに用意した。ヒズナの着ていたアキの服も返してもらったようだ。ヒズナはミラが村で買った別の服に着替える。それぞれ身支度を済ませると一回のフロント前においてあるソファーに集合した。


「みんなそろったわね!それじゃあギルドに向かうわよ!」


 ミラの呼びかけに少年少女は掛け声をあげる。宿屋を出ると大きなギルドの建物の屋根の先が立ち並ぶ店や民家の間から確認できた。『魔石』、『薬草』、魔物の素材に『スライムゼリー』。シオンを出るときにギルドから伝えられたアイテムはすべて手に入れた。全員喜びのあまりに昨日から何度も確認していたので間違いはない。ギルドまでの道中、皆待ちきれない様子でつい早足になっていた。そして気づくとさっきまで早足だったのが駆け足になり、ついには全速力で走っていた。人混みの間を駆け回り朝の冷たい風を感じて走った。宿屋を出たときは七人一緒だったのが、ギルドへついた頃には全員バラバラ。体格のせいもあってか、グンタは特に遅くついた。そしてそれ以上に遅いのがトキである。


「遅いぞトキサラム」


「みんな、早いよ……」


 息を切らすトキを見て皆が笑った。トキが息を整えるのを待ってギルドの門へと歩みを進めた。ギルドの入り口。ついに七人がそれぞれ夢に見た冒険者になることができるのだ。緊張とこれからの冒険の期待に胸が高鳴る。これまでの苦労を思い出し噛み締めながら少年少女はギルドの奥へと足を踏み入れた。

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