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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第二章〜ヴァル〜
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恋心

 アキとミラがまだ洞窟を抜けたばかりのところの木陰で、リアとヒズナの横に座って手当をしていた。少年たちはというと、美少女二人にこっちに近づくなと鬼の形相で言われ、湖のほとりで三人はめを外していた。というのも、そこには衣服をボロボロに破かれ若く美しい素肌を露わにした少女二人が横たわっていて、ミラはルイとグンタを追い払うとアキが遠くでトキと話している間に少女たちの服を脱がせ傷の治療を済ませていた。しかし二人分の衣服の替えがなく、唯一元気な女性であるアキを傍に呼んだのだ。内心ではアキのことを嫌ってるミラだが、二人にためにはやむを得ないとアキに助けを求めることにした。トキはミラのもとへ駆け寄るアキに「来ちゃだめ!」と言われ一人残されたのだが、そこへルイとグンタがやってきて湖の方へ行こうとトキを誘うので、それにご一緒させてもらい今に至る。


「その、アキちゃん……だっけ……? 替えの服とか持ってないかしら。この子達の服、見ての通りだから……。私も一人分しか持ってなくて」


「あ、えっと、一着ならあるよ。ちょっと待ってね……」


 そう言ってリュックの中を漁り、中からまだ使われていない新品の衣服を取り出した。それは長袖のシャツと生地の厚い長ズボンで、ゼトがくれたリュックに入れてくれたものだった。それを見るやミラは目を見開いた。


「え、これほんとに借りてもいいの!?こんないい服もったいないわよ!」


 今までクールビューティだったミラがあまりにも驚いた様子なので、アキはなにかまずかったのかと焦りを浮かべたがアキの取り出した衣服がとてもよいもので驚いていただけらしいと知って安心した。ヴァルで泊まった夜リュックの中を覗くとその服が入っていて、普段からきれいな服など着ないアキは飛んで喜んでいたのだ。ゼトが冒険者らしく動きやすい服を用意してくれたものだったのだが、どうやら素材まで良いものが使われているらしい。


「うん、それが一番きれいだし、他の服は古くてボロボロだから二人には着せられないよ」


 嫌っている相手の好意をありがたく受け入れつつ心苦しさもあった。そんな気持ちもあって、ミラはつい微妙な返事を返してしまう。


「そ、そう……。あの、ちょっと一人じゃ着替えさせるの大変だから手伝ってもらえないかしら」


「うん、わかった!」


 そんなミラの気持ちにも気づかず純粋な笑みでミラの手伝いを承諾するアキ。横になった二人にかけられただけの布地を捲り上げながら二人に衣服を着せていった。アキとミラは気を失った同性の服を脱がすという行為におかしな感覚を覚え、先ほどとはまた別の意味で気まずさを感じるのだった。男たちが近くにいないか警戒し、急いで二人に服を着せていった。


「よし!その、ありがと、アキちゃん」


「うん、気にしないで」


 リアとヒズナの服を着替えさせた二人。ミラがお礼を言うとアキは優しい笑顔を浮かべた。ミラはリアとヒズナの破けた服をカバンの中に丁寧にたたんでしまっている。と言ってもボロボロでまともにたためたものではないのだが。するとアキが突然「ねえミラちゃん」とミラを呼びかけ、それにミラは驚いた様子で「どうしたの?」と返す。


「ミラちゃんって、ルイのこと好きなの?」


「へ……?いや……ええええ!!?」


 突然のことでミラは一瞬固まってしまった。そして顔を真っ赤にして、両手をジタバタして口をパクパクしながらあわてふためく。完全にパニックになっている人間のそれだ。それもそのはずだ。誰にも話したことのない自分の恋心を最も毛嫌いしていた相手に見透かされたのだから。なんの脈絡もないあまりに見事な不意打ちに心臓が激しく脈を打つ。


「え!? ちょ、なにそれ!!私がぁあ!? そ、そんなわけ!!あ、ああアキちゃんこそ……!ルイのこと、どう思ってんのよ!!」


 とっさに話をそらそうとしたが、その様子は明らかに不自然だ。しかも、投げやりにした話のネタが自分の想い人をどう思っているかというもので、しかも相手は恋敵。これで両想いなどとわかった日にはショックで立ち直れないのではないだろうか。


「私? 私はね〜ルイのこと、好き……だよ? 強いし、ああ見えて頼りになるし」


 そう言って笑うアキを見てミラは呆然とした。想い人は恋敵と両想いだった。その事実が頭の中でアキの好きという言葉とともに反復していた。ルイがアキに対して恋心を抱いていることは知っており、アキのことを自分の中で恋のライバルだと勝手に決めつけていた。だからこそアキのことを毛嫌いして、無意識のうちにルイとアキを突き放そうとしていたのだ。アキとは今回の冒険を通じて、ただのライバルではなく少しずつ仲間と言える存在になりつつあった。だがそれもすべてなくなってしまった。片思いの相手も新しい仲間も全て消えたのだ。だがそれはミラの早とちり。そんな心配はアキには必要なかった。


「でもね、それは仲間として。私は男の子のこと好きっていう感覚がわからないから。でもミラちゃんはなにか違う気がしたから。ルイの強さとか、頼りになるっていうことだけじゃない気がして……。ルイの仕草とか、言葉とか。それ以上のところもミラちゃんは見ている気がしたの」


 今まで誰にも気づかれなかったことをアキはほんの少しの時間で見抜いた。それは本当に周りの人間を見ているからこそ気づくことができることなのだろう。それはミラに対しても同じことが言え、本当にミラのことを見ていたからこそミラの気持ちに気づくことができたのだろう。自分のことをこんなに見てくれる人間は今までいなかった。アキは真剣に人と向き合える人間。そんな人を今まで見ようともせずに毛嫌いしていた自分が恥ずかしくなった。ルイがアキのことを好きになる気持ちがミラには少しだけわかったような気がした。自分が自分で馬鹿馬鹿しくなり笑いがこみ上げてきた。それをおかしくなったのかと心配するアキに「ごめんなさい。もう大丈夫……」と言って続けた。


「アキちゃん……。私、ルイのことが好き……」


 そう打ち明けたミラの表情は柔らかく清々しさすら感じた。アキは悪戯心を宿した笑みを浮かべて「どの辺が〜?」としつこく質問した。こういう色恋沙汰に関心があるところは二人とも女子なんだと感じさせられる。ミラは「誰にも言うんじゃないわよ!」と念の為釘を差しておいた。

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