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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第二章〜ヴァル〜
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脱出

 ルイの火球が巨大スライムに直撃し大きな穴を開けた。だがその穴はすぐに塞がれ、直後、スライムの体から出現した二本の触手がルイを襲う。間一髪回避するとすぐにグンタとミラが魔法で風の刃を放つ。しかしその切り口もすぐに再生され致命傷を与えるには及ばなかった。


「ただでかいだけってわけではなさそうだな……」


 ルイは弱点であるはずの火属性魔法が効かない巨大スライムに焦りを感じ顔を引きつらせている。そうこうしているうちにスライムは、今度は自分の体の一部を弾丸の如くグンタとミラへ向かって発射した。被弾する二人だったが肉体を貫通することなく、それはグンタの腕と肩、ミラの足と腰に付着し、衣服を溶かし始めた。


「ちょ!何よこれ!!」


「やっぱり、あのスライムに触れると服が溶けるみたいだね」


 服を溶かされていることに気づき慌ててスライムを払いのけるミラ。グンタもスライムを剥がすと敵の体内に囚われたリアを見やる。先程よりも消化が進んでおりスライムの体内に赤い液が滲んでいる。その様子を見て焦りの表情を浮かべるルイは悪態をつきながら詠唱を始める。グンタとミラもそれに続いた。ルイの手の平に赤い魔法陣が描かれ、そこから放たれた火球はスライムの足元の地面に着弾し砂埃をあげた。そしてグンタとミラが詠唱を終え地面に手をつくと、地面から複数の旋風が巻き起こり、スライムを包み込む。その渦の中には吹き荒れる風に徐々に体表を削られ小さくなっていくスライムが必死に抵抗しようと触手を伸ばしていた。伸ばされた触手は自身を囲う旋風に抵抗し、ついにその風をかき消すまでに至った。だが三人はスライムが先程よりも小さくなっていることを見逃さない。


「二人とも援護頼むぞ……」


「まかせなさい」


「わかった」


 伸ばされた触手が再び放たれると僅かにかすりながらも詠唱を完了させるルイ。そして手元からは小さな六発の火球が捉えられたリアを中心に、その周囲を焼き払う。しかしあと一歩のところでリアをスライムの体から切り離すには至らない。素早く再生を試みる巨大スライムだったが、再びミラとグンタの風刃ふうじんを受け、ついに捕らえられたリアを切り離すことに成功する。リアとともに切り離したスライムの体の一部に守られながら地面に数回叩きつけられるリア。ほどなくスライムの一部は溶け出し消滅した。切り離したリアのもとにすぐにミラが駆け寄るがピクリとも動かない。


 すると獲物を奪われたスライムが暴れだし、自分の体を銃雨の如く乱射した。飛ばしたスライムは体に張り付いていき、徐々に三人の自由を奪っていった。


「くそ!このままじゃ俺たちまで捕まっちまうぞ!」


「ちょ、ちょっと!待ってよ!服が!!」


「いやあああ!!」


 まとわりつくスライムは当たり前のごとく衣服を溶かし始める。しかし三人はすでに大量のスライム弾に自由を奪われもがくこともままならない。背後でスライムの雨に逃げ惑うアキの声が響く。するとその隙をついて、アキに抑えられていた目を赤くしながらもトキはスライムに向かって走り詠唱を始める。スライムに捕まり身動きが取れない三人を抜き去る。


「おいお前!」


「ちょっと、何する気!?」


 トキの手からスライムめがけて炎が吹き出した。腹に穴を開けられたスライムは再び穴を塞ごうとする。


「やっぱり無理よ!すぐに再生される!」


「トキくん!!」


 再び詠唱を始めるトキの背後からアキの声が響く。すでにアキは詠唱を始め手元には青色の魔法陣が輝いていた。そしてスライムの開いた穴が塞がろうかという時、アキの手から激しい水流が流れだす。それは巨大スライムを飲み込み、その巨体を押し流すには至らなかったが動きを止めるには十分だった。トキも詠唱を終え火球を御見舞すると、すぐにそばに倒れていたヒズナを抱え撤退した。


「お前馬鹿か!無茶しやがって!」


「ご、ごめん……」


「ナイスだよトキ」


 ルイに怒鳴られ肩をすくめるが、グンタの優しい言葉に複雑な笑みを浮かべる。咄嗟に体が動いてあのような行動を取ってしまったが、一歩間違えれば自分も危険な目にあっていたと今になって気付きゾッとしてた。

 

「そういうのは後!今のうちにリアとヒズナを連れて早くここから出ましょう!」


「うん、リアは俺が連れて行くよ」


「ヒズナは任せろ!」


 トキがヒズナをルイに預けようとすると、少しだけ虚ろな瞳が覗いたのに気づき少しだけ安心した。ルイとグンタは意識を失っている二人を抱えると、アキの方に視線を向けた。未だにスライムを抑え込んではいるが、アキの表情を見ると限界を訴えていた。


「アキ!ここを出るぞ!」


 それを聞いたアキは水流を止めルイたちのもとへと駆け寄った。水の流れが弱まると巨大スライムはじわじわと迫りながら触手を伸ばす。ルイとグンタは人を抱え、アキは魔法の使いすぎでうまく走れない。ミラとトキは三人を逃がすように魔法で牽制しつつ出口へと走った。後ろからは逃がすまいと、巨大スライムが触手を伸ばす。ようやくその広い空間から脱出し、巨大なスライムがトキたちを追うことは不可能に思われた。しかし伸ばされた触手はしつこく、魔法をぶつけてもすぐに再生し獲物を追いかける。さらに帰り道には小さなスライムが湧いており、そのたびにトキとミラが魔法で道を開いた。魔法の使いすぎでダウンしているにもかかわらず、相変わらずアキはキャーキャーと叫んでいた。トキとミラにも疲れが見え始めた頃、ようやく目の前に外の光が差した。飛び込むように外へ出ると後ろを振り返り、洞窟からあのしつこい触手が追って来ないことを確認し崩れるように地面に倒れ込んだ。


「なんとか逃げ切れたな……。誰だよ、スライムが最弱なんて広めたやつは……」


 愚痴をこぼしながら背負っていたヒズナを草の上に寝かせた。グンタもその隣にリアを寝かせた。スライムに服を溶かされ、皆の服は虫に食われたようにボロボロになっていた。特にスライムに襲われたリアとヒズナは服の面積の半分以上がなくなっており、年頃の男子二人の視線が吸い寄せられないわけがなかった。


「あんたたち、何見てんのよ……」


「い、いや……別に……」


「男どもはあっちに行ってなさい!」


 怒鳴られた二人は逃げるように森の奥へ消えていった。リアとヒズナは服を溶かされ、場所によっては皮膚まで溶かされていた。スライムは本来獲物を溶かして吸収する肉食の魔物。一足遅ければ二人もあの巨大スライムの餌になっていただろう。ルイたちが遠くへ行ったのを確認したミラは二人の服を脱がし治療を始めた。


 トキはというと、少し離れたところでアキにガミガミ説教を喰らっているようだ。おそらく洞窟内で無茶をしたことを叱られているのだと思われるが、見ただの見てないだのという言葉が聞こえてくるのは気のせいだろうか。

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