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※編集中※ ララノフの冒険者  作者: 紫水シズ
第二章〜ヴァル〜
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巨大スライム

 洞窟に響いたリアとヒズナのものと思しき悲鳴に、洞窟に入ってからずっとトキの後ろに隠れていたアキもあわてふためいていた。それを宥めるとトキは、少し先で待っていたグンタとともにリアの悲鳴を追って先に走っていったルイとミラを追いかけ洞窟の奥へ向かった。


「ちょ、ちょっとまってよー!」


 落ち着きを取り戻しうずくまっていたアキも急いで立ち上がり二人の後を追う。洞窟の奥は枝分かれしていてかなり複雑な作りになっている。ルイとミラが立ち止まっていると遅れてトキ、グンタ、アキの三人がやってきた。


「こっちよ、私についてきて!途中までは二人と一緒にいたから、別れた地点から二人が向かった道までは案内できるわ!」


 無数の枝分かれした道を迷うことなく選択し先導するミラについていくとそこはこれまでの道とは違う大きな部屋になっていた。壁には大きな穴が二つ空いているのが確認でき、さらに奥へと続いているようだ。ミラはここでヒズナとリアの二人と別れたらしく、五人は二人が進んだ右の道を突き進んだ。


 進んだ先は湿度が高く近づくだけでジメっとした嫌な感覚とカビ臭さが漂ってくる。奥はやはり今までの場所とは比べ物にならないほど苔むし、地面にはカビが蔓延り滑りやすくなっていた。危険な足場に用心しつつ先を急いでいると、再び大きな空間にたどり着いた。


「また空洞……」


「ねえ……何か聞こえない……?」


 スライムへの恐怖と洞窟の嫌な雰囲気に感覚を研ぎ澄ましたアキが何かの気配を察知した。暗くて視界は悪いが、何かの暗い影が動いているようだ。そしてアキの言ったように、水たまりでもあるのか時折何かが落ちるようなべちゃっとした音が響いていた。


「ねえ、あれ……」


「スライム……めちゃくちゃいるぞ!」


「あれが……」


「嫌だよお」


 ルイが部屋の底を照らすと、数段下がった空間の床一面にスライムが蔓延っていた。アキはスライムを見て顔を真っ青にしていたが、この光景はスライムが嫌いな者でなくとも嫌悪感をあらわにするほどだった。そしてそれはその空間の天井から無限に湧き続けるスライムが溜まりに溜まったものだった。


「なにこれ……左の道にはこんなにたくさんいなかったわよ!」


「とにかくここを抜けなきゃ向こうには行けないし、なんとか突破するしか……」


「ええ!こんなとこ渡れないよ!」


 突破を試みるグンタに泣きつくアキ。この光景を見ればアキでなくとも渡ることをためらうだろうし、この先へ行くのも至難だろう。


「しゃあねえ!こいつら全部一掃するぞ!てめぇもさっさと準備しろ!」


 トキに向かって叫ぶと、ルイは詠唱を始めた。トキは頷くとルイのあとに続けて詠唱を始める。ルイの手からは大きな火球が飛び出し、その火球は密集したスライムを捉え、一気にその数を減らした。トキの魔法は炎を勢い良く吹き出し、ルイほどではなかったが、これまた一気にスライムを燃やし尽くした。


「なかなかやるじゃねえか。ま、俺ほどではねぇがな。」


 自慢気に笑うルイ。そして再び詠唱を始め、残ったスライムを一掃していく。


「スライムなら俺達でも余裕で戦えるみたいだね」


「けっ!スライムなんかに負けてたまるかよ!行くぞ!」


 気づけばスライムが減ったことによって空間の奥へと続く道ができていた。ルイは次々にわき出すスライムにその道を閉ざされる前に一気に駆け抜けた。それに続いて四人も走り出す。余裕を持って渡り切ると、ルイは四人に何かを手渡した。


「ほら、戦利品だ。」


 ルイが広げた手を見ると、小さなゼリー状の緑色をした塊が握られていた。ルイはそれをひとりひとりに手渡した。


「なにこれ気持ちいい!」


 スライムが嫌手なアキだったが、このゼリー状の素材は大丈夫なようだ。ハマってしまったのか両の手でむにむにと揉みほぐして夢中になっている。


「あ、私はいらないわよ。もうたくさんゲットしているから。」


「ならこいつは俺が持っておくか」


「このゼリーって何に使うの?」


 トキは余ったゼリーを手持ちのバッグにしまうルイを見ながら浮かんだ疑問をグンタに尋ねた。素材として回収できるのだから何かしらの用途があるのだろうが、一見使いみちのないただの感触がいいおもちゃでしかない。


「いろいろあるけど、薬に使われることが多いかな。普通の料理にも使われたりするよ。あとは気持ちがいいから道具なんかに使われたりもするね」


「え、これ食べれるの?」


 グンタの言葉を聞いて、疑いの目で手の中のゼリーを見つめた。そんなトキを見て、まずいが体にいい食材であると付け足した。トキが感心しているとルイが「無駄話してる暇はねえぞ」と二人を急かした。スライムの素材の話をしている間に他のものはすでに先へ進んでいた。それからもいくつかの空間にスライムの大群が待ち構え、それを倒しつつスライムの素材をもういらないだろうというほど大量に回収しながら奥へ奥へと進んだ。そして、部屋を同じような部屋を十は回ったかという頃、五人は今までとは比べ物にならないほどの大部屋へとたどり着いた。


「今までとは違うわね。これまでの比じゃない広さだし、全くスライムがいない」


「なんだか気味が悪いね……」


「ねえあれって!」


 突然アキが声を上げ指差した先にはヒズナが倒れていた。すぐにミラがかけよって抱きかかえた。傷はあまりないようだが、ところどころに服が溶かされたような穴が空き、その部分の肌が赤みを帯びていた。


「ねえ、やっぱりスライムって……」


 ここに来るまでに大量のスライムと遭遇して少しずつ耐性をつけていたアキだったが、再びスライムの恐怖に侵食され始め顔色を青く変色させていった。


「スライムは、自分の体で飲み込める大きさの獣を飲み込み、徐々に溶かしながら捕食する。人間を飲み込むほどのスライムなんて聞いたことがないわ。普通に考えて、私たちがスライムに捕食されることはないはず……」


「でも、このヒズナちゃんを見たらスライムに溶かされたとしか思えないよ……」


 アキの言葉に全員が黙り込んだ時、後ろから何かが落ちたような重い地響きが聞こえた。これまで嫌になるほど聞いてきたスライムの音に似ているが、それはこれまでに比べ重量感を感じる音だった。恐る恐る振り返ると、そこには大人十人ほど飲み込めそうなほどの巨大なスライムがいた。


「おいおいおい……!なんだよあれ!」


「これは……!」


「でかい!」


「いやあああああ!!」


「あれ!中にいるのリアよ!」


 それぞれのリアクションを取る中、ミラが叫んび指差した巨大スライムの体内には、その中でもがき苦しむリアの姿があった。溶かされてか服も半分ほど破け、すでに身体すらも溶かされ始め皮膚がめくられたような傷が見られる。


「トキくん見ちゃだめ!」


「わわわっ!」


 さっきまで真っ青な顔をしていたアキが、後ろからトキの目を塞いだ。敵を目の前に視界を奪われ慌てるトキ。アキの手をどかそうとするがなかなかに力が強く離れない。それすらも通り越してもはや痛い。


「痛い痛い!アキ痛い!!」


「見ちゃだめっ!!」


 アキとトキがそんなやり取りをしている傍らで、他の三人はすでに臨戦態勢に入っていた。


「とにかくリアをあそこから引きずり出すぞ!」


 ルイは詠唱を始める。続いてミラとグンタも詠唱を始めた。ルイの火球がスライムの体の右側に命中。スライムの体の一部を吹き飛ばした。しかしすぐにその穴はふさがり、次の瞬間にはその巨大な体からルイへ向けて二本の触手を撃ち放った。

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