学徒
無事薬草を手に入れたトキたち四人は目的のヴァルを目指していた。あれから随分と歩くがまだ村は見えてはこない。だんだんと四人の中にも疲れを感じるものが現れ始めていた。
「おもったより遠いね……」
「当たり前だ。この森は相当な広さでシオンは森の中心、ヴァルは森の端の方にあるんだからな。帰るなら今のうちだぞ?」
すでに限界を超えているのではないかというほどの疲れ具合を見せるトキをルイは汚物を見るような目で見下す。言外に帰れと言われたような気がして表情をむっとさせるトキ。それと同時にここで負けてたまるかと怒りを力に変え足早に歩き始めた。
「そろそろシオンも、もう少しちゃんとした道作ったほうがいいんじゃないかな」
グンタが足を早めるトキを微笑ましそうに見ながら滴り落ちる汗を拭った。彼の大きな体なら体力も他の人以上に消費するのだろう。それでも余裕の表情で獣道を歩くその体力は流石である。トキの方が明らかに置いて行かれている。とダラダラと会話を交えながら歩いていると、突然草陰から一人の少女が出てきた。両者ともに硬直し、少女がその丸い目を数回瞬かせて声を発した。
「あれ? ルイとグンタじゃない」
「お!ミラじゃねえか!」
「偶然ね、ふたりとも。」
彼女はルイやグンタとともに学庭へ通っていた少女である。以前、トキがアキの家で寝泊まりしていることを知りショックを受けていたルイを励ました人物である。金髪の波がかった長髪に碧眼を携え強気の姿勢を崩さない。ミラも十分に美少女と言える容姿である。スタイルにおいてはアキ以上の物を持っているようだ。さらにその後ろから更に二人の少女が顔をのぞかせる。
「ちょっとミラ早いよ~……ってあれ?」
「わっ!グンタくんとルイくんだ!偶然だねー!」
「ヒズナとリアじゃねえか!お前らパーティ組んでたのか!」
元気な印象を与える大きく少し釣り上がった目に明るめなオレンジ色の髪を後ろで結んだポニーテールがリア、おっとりと垂れた目と眉、青い髪が肩まで真っ直ぐに伸びているのがヒズナ。性格は見た目通りのようである。この二人もまた同年代の少年たちが放っては置かない美少女っぷりだ。二人ともルイとグンタを知っていることから彼らと同じ学徒だったのだろう。
「二人とも調子はどう? クエストちゃんとやってる?」
「おうバッチリだぜ!薬草も手に入れたしな!」
「ルイのはトキに分けてもらったやつだけどね」
「だからそれを言うなって……」
自慢げなルイにグンタがまたルイに悪戯をする子供のような目を向けて言うと、同じく秘密をバラされた子供のようにグンタの両の頬を引っ張った。痛いよといいながらもにやにやと悪戯な笑みをやめないグンタとそれを知ってかこちらも抓るのをやめないルイ。そんな二人を見て慌てるヒズナと爆笑するリア。そしてミラは「相変わらずね」と呟くとアキに視線を向けた。そしてグンタの傍に近寄ると耳元に口を近づけた。
「(なんであいつがいるのよ!)」
「(ルイが一緒に行くって聞かないから)」
「(あのバカ!まだ引きずってんの!?)」
ちらりとアキの方を見やる。アキは自分を見てコソコソと話している事に気づいたのかニコッと笑い首を傾げ、頭上にははてなマークが浮かんで見えた。その様子に気づいたミラはグンタから離れため息をこぼす。
「まあいいわ。じゃあルイ、私たちは行くからね」
「おう、気をつけてな」
そう言って踵を返したミラの後を追うようにリアとヒズナも「またねルイくん、グンタくん」「二人ともばいば〜い」と手を降って去っていった。
「二人のお友達みんな可愛ね!」
「そうか?」
「僕は三人とも可愛いと思うけどね」
ルイがグンタに「お前狙ってんのか〜?」などと極めてうざい絡みをしていると、アキに女の娘には可愛いと言ってあげなさいと叱られ落ち込んでいた。そのやり取りを後ろから見ていたトキは、やっぱり友達が多いというのはいいものだと思いながら、学庭へ通っていたルイとグンタが羨ましくなった。




