見習いパーティ結成
無事ギルド登録を済ませた二人は、受付でギルドカードと見習いクエスト用の魔石を受け取っていた。
「こちらがあなた方の魔石です。この魔石を隣の村、〈ヴァル〉までお収めください」
二人はきれいな魔石を一つずつ受け取った。魔法の修行の時に使用した結晶に似ているが若干の色味と触感が異なるようだ。
「そしてこちらがギルドカードになります」
続けて渡されたのは手のひらサイズの小さな薄い茶色をしたカードだった。受け取り見てみると、なにやらやたらと文字が多く書かれている。空欄の部分がいくつかあるようだ。
「ギルドカードの使用方法はご存知でしたでしょうか?」
二人は顔を見合わせ大きく首を傾げた。二人の頭上にたくさんのはてなが浮かんで見えるようだった。このカードはただ持っているだけではなく何か使い方があるらしい。二人を様子を見て察した受付嬢の女性は笑顔でカードの説明を始めた。
「ではご説明しますね。このギルドカードには、カードを所持している冒険者様の現在のステータスがわかりやすく表示されます」
このカードには自分のステータスが表示され、ひと目見ただけで自分が何に優れ、何が劣っているのかがわかるというカードらしい。それを聞いてアキは目を輝かせて身を乗り出した。
「ステータス!見たいみたい!」
「ですが、今のこのギルドカードのままではステータスを見ることができません。それにはまずこのカードに自身のマナを込め、ギルドカード自体に使用者のマナを登録する必要がございます」
「カードにマナを……。こんな感じ?」
トキがカードにマナを注ぐと、カードの無記入の欄に新しく文字が浮かび上がってきた。アキも手の平のギルドカードを見つめマナを込めた。すると同じようにギルドカードに文字が浮かび上がる。その様子に感嘆の声を上げる二人を見て受付嬢は微笑みながら説明を続ける。
「つぎにステータス表の見方ですが、項目がいくつか存在します。上から力、マナ、俊敏、体力、精神力、集中力、生命力、治癒、ラックの9つは数字で表記されます。また、その数値の高さによって、その総合力を表すレベル表記がなされます。そして更に上部には、9つのステータスとクエストの実績によって割り出された冒険者としてのランクが表示され、冒険者としての戦績、実績によって与えられた称号を表記することができます。」
二人はマナを込めてカードに出現した数字の羅列と受付嬢の説明を照らし合わせながら、睨みつけるように自分のギルドカードに映るステータス表記を目で追っていった。
「次に魔法属性です。これはカードに注いだマナの属性が追加されていきます。お二人もそれぞれ今注いだマナの属性が表示されていると思います。新しい属性の魔法が使えるようになれば、その属性のマナを注いでください。そうすれば魔法属性は追加されていきます。つぎがスキル、アビリティの項目です。ここには所持者が覚えたスキルや身につけたアビリティが表示されていきます」
「私なんにも書いてないよ~。」
「最初なんだしみんなそうだよ。」
魔法属性:水の下に視線を映し、スキル項目に何もないことにがっかりするアキ。しかし、トキのカードをよく見るとその項目には何か文字が書かれているのだ。しかし文字化けを起こしているのか、見たこともない文字で書かれ意味を理解することはできなかった。このスキルのことは気になったが受付嬢の女性が先に話を進めたので後で考えることにした。
「それでは最後にステータス更新の際ですが、魔法属性の更新のみ、それぞれのマナを注いでください。他の項目はいずれの属性でもよろしいのでマナを注いでいただければ更新されます。説明は以上ですが、他にご不明な点などはございませんか?」
「僕は大丈夫です」
「私も大丈夫」
「ありがとうございます。それでは、よい冒険を」
クエストの魔石を受け取り、ギルドカードの説明を受けた二人はギルド会館をあとにしてゼトと合流するために外に出た。そして二人は早速お互いのステータスについて語り合った。
「トキくん、ステータスどうだった?」
アキはぐっと顔を近づけて聞いてきた。ギルド会館を出てからずっとアキがそわそわしていたのはトキステータスが気になっていたかららしい。
「どうって言われても、比べる人がいないからわかんないよ……」
「そうだね、じゃあ私と勝負しようよ!どっちが強いか!」
自信満々にアキが言う。よほど自身があるのだろう。まあ実際のところ、アキはトキよりも強いのはわかりきっているのでこの勝負の結果もわかりきっているのだが。アキには勝てないだろうと思いながらも断る理由もなくトキはその勝負を了承した。二人はお互いのギルドカードを交換してじっくりとみた。
「うわ、やっぱりアキはすごいなー。ラック以外全部僕より上だよ。しかも力と俊敏は僕の二倍もある……泣けてくる。」
「えへへ〜。それほどでもあるかも〜」
アキは照れながらも自信に満ちた表情をしている。そして表情を僅かに崩してトキのギルドカードに視線を落とした。
「でもトキくんも特別低いってわけじゃないんじゃない? 力以外は……」
「僕ってそんなに非力かな……」
トキは肩を落として落ち込んだ。女の子のアキに倍以上の差をつけられるというのは流石にショックだったようで、ぶつぶつと「筋トレ筋トレ……」と呟く様は異様としか言い表せなかった。
「でもでも、ラックは私よりも上だよ!」
そう、たしかにラックだけは他のステータスに比べると異常に高かった。しかしいまいちどんなステータスなのかわからないしどんな影響があるのかもわからず素直に喜べないでいた。するとアキが訝しげな視線を手元に向ける。
「トキくんこれ……。このスキル、アビリティのところの……」
そういえばひとつだけ、スキルアビリティ欄に何か文字が現れたのを忘れていた。アキは顔を近づけたりカードを回したりして必死に読もうとしていた。
「なんだろうこれ……。全然読めない……」
どうやらアキにも読めないらしくそのスキルは謎を深めるばかりだった。いろいろと詮索はしてみたものの結局は確信を得られるわけもなくお互いにカードを再び交換し合った。アキは自分にはないスキルがトキにはすでに発動していて悔しがって、それからずっと子供のように駄々をこねるように幼いパンチを連打していた。すると遠くからそれそれ聞き慣れてきたあの声が聞こえてきた。
「アキ!トキサラム!またあったな!」
そう、いつもの二人組である──。いつものようにトキだけはフルネームで呼び、喧嘩腰な態度で迫ってくる。
「聞くまでもねえが一応聞いてやろう!お前らももちろんヴァル村へ行くんだろ?」
「行くけど……」
トキは「なら聞かなくても……」と内心思いつつも返事を返す。冒険者になるにはヴァル村というところへ行かなければなれないのだから、見習い冒険者がそこを目指すのは当然のことだ。
「だったら俺たちも連れて行け」
いつもの荒々しい態度から変わって少し落ち着いた様子だった。少し前まであんなに敵対心向き出しだったのに、一体どういう風の吹き回しなのだろうかとトキはルイを警戒した。何を企んでいるのかトキはいまいち信用できないでいたが能天気なアキは違った。
「ほんと!すごく助かるよ!二人だけじゃ不安だったし!ね、トキくん!」
「う、うん…そうだね。」
あまりにも嬉しそうで純粋な笑顔のアキと、言外に自分が頼りにならないと言われたような気がしてトキは苦笑いを浮かべた。まあ敵対心剥き出しなルイだがアキも慕ってはいるようだし悪いやつでもないし、特に問題もないだろうとトキもその申し入れを承諾した。それに、アキも二人の実力は認めているようでその実力は本物なのだろうと思ったのだ。
「よっしゃ!なら決まりだな。さっそくパーティ登録を済ませようぜ」
同じパーティになると決まるやいなや、途端に仕切って歩きだすルイ。相変わらず自分勝手な性格だと苦笑するトキ。そんなときとすれ違うようにギルドを目指すルイ。そのあとにアキとグンタがついていく。するとルイはすれ違いざまにトキの耳元でアキとグンタに聞こえないように小さく囁いた。
「お前とアキを二人っきりにはさせねえからな……!」
トキが振り向いてすれ違ったルイを見やると、舌を出して子供が人を馬鹿にするような笑みを溢していた。ルイの言動がトキの中の彼の残念さを日に日に増していくのだった。しかしそんな彼を知っていくうちに、その残念な部分がなぜだか憎めないものになりつつあった。トキも三人の後ろを肩を竦めながらついていった。




