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学庭の少年少女

「……トキくん……?」


「アキ!」


「おはよ、トキくん。」


  アキが目を覚ますとトキはすぐにアキの側に駆け寄った。体を起こし呑気にいつもの笑顔を振りまくアキを見ると、トキの中でいろんな感情がうずまき知らず知らずのうちに涙がこぼれた。


「ど、どうしたの? トキくん!」


 アキは驚いた様子でトキに寄り、あたふたと視線をあちこちに彷徨わせ両手を慌ただしく振り回している。


「もう、だめかと……もう会えないと思った。終わったと思った。どうしたらいいかわかんなくって……」


 頭のなかで色んな言葉が混ざりあい、何を言ってるのかもわからなくなっていく。感情が考えていることを追い越して駆けていくようだ。そんなトキをアキは優しく両の腕で包み込みふわりと頭を撫でた。


「ったく、最近の若いやつは。おじさんには刺激が強すぎるぜ……。先に村に戻ってるぜ」


「おじさん!さっきの約束忘れてないよね?」


 年甲斐もなく臭い台詞を吐いてゼトは一人森の奥へ向かうゼトに叫んだ。魔法を覚えて次こそはアキを守るんだと意思を込めて。


「おう!ちゃんと後で教えてやるよ!」


 そう言って背中越しに手を降りながら森の中へ消えていった。トキも疲れてしまっていたのだろうか、そのままアキの腕の中でいつの間にか眠りについていた。




※※※




 少し時間は遡り、ここはシオン村の学庭。ルイが通う、村の施設である。夕刻、施設の学徒は皆帰り始める時間。ルイはまだ、アキが知らない少年を家に招いて二人きりで寝泊まりをしていたことにショックを受けていた。


「……はあ~……はあ~……」


「ここに戻ってきてからずっとあんな感じ。ため息ばっかりこぼして」


「そりゃ好きな子が他の子と二人でお泊りなんて聞いたらショックでしょうね」


 アキの家にルイが来た時ルイの隣にいた大柄な少年と、同じ施設の少女が会話をしている。


「ルイもあんな女のどこがいいんだか。もうすぐギルド登録会があるっていうのに……。あんたも、いつまでもダラダラしてたらまわりの奴らに置いてかれるわよ」


「わかってる……。でもルイを放っておくわけにも行かないし。パーティを組む約束もしてるしね。」


「そう。でもまあ、あんたもルイも実技の成績だけはいいからね。要らない心配かもしれないわね……」


 そう言って少女は、机に伏せてため息を吐き続けてるルイの机へ向かい、その机を勢い良く叩いた。若干ピクリと驚いたような反応を見せるルイ。


「しっかりしなさいよ。あんたの夢はあの女とくっつくこと?立派な冒険者になること?女にかまけてたら本当の夢を掴みそこねるわよ」


「……そうだな。今はこんなことしてる場合じゃねえ……。サンキューな、ミラ。お前のおかげで元気が出たぜ!!」


 立ち上がり自身に満ちた笑顔をミラに向けるとルイは窓から飛び出していった。呆然とルイが飛び出した窓を見つめるミラの頬は赤みを帯びていた


「ウ、ウン……」


 飛び出したルイは学庭裏の広場にいた。カバンを下ろすと少し離れた魔法の練習用に吊るされた木の的に向かって手をかざす。


「[火のマナの精よ 我が精よりその資格を示す その火球の威を以て焼き尽くせ]!!」


 かざした手のひらから勢い良く小さく、しかしごうごうと燃ゆる火の玉が飛びだした。狙った的めがけて真っ直ぐに飛んでいき、見事中心に命中した。すると背後から拍手が聞こえ、その後に聞き慣れた声がルイの名を呼んだ。その声の主はあの大柄な少年、グンタだった。


「さすがルイだね。」


「なんだよ。お前もミラにお説教食らってきたのか?」


「まあ、そんなところかな。ミラもかなり気合入ってるみたいだし」


 悪戯な笑みでニヤニヤとグンタを見ているルイに、グンタは肩を竦めそのやる気のない顔に苦笑を浮かべながら応える。


「あいつだけじゃねえよ……。冒険者を目指すやつは全員そうだ。俺も、お前も含めてな」


「後々ライバルになると思うと厄介なことこの上ないね」


「関係ねえ。俺は誰よりも強くなって夢をかなえるんだ」


 軽く笑みを浮かべるグンタと力強く拳を握るルイ。学徒たちもまた冒険者を目指して来る日に向け特訓を重ねるのだった。

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