炎の森の少年
真昼の森の中、一人の男が歩いていた。行けども行けども生い茂る草木が行く手を阻む森の中を悠々と進んでいく。男はツンと逆だった短髪を掻きながらため息をついた。
「ったく、なんで俺がこんなど田舎のちっぽけな村にお使いなんざせにゃならんのかねぇ。なあおい。お前さんもそう思うだろ?」
そう言って視線を送る先には小さなリスが一匹。男の顔を見るやいなや、森の中へと姿を消した。動物に愚痴をこぼしても仕方がないかとまたため息を漏らし、また歩きはじめた。
「しっかし村は小せえくせに、周りの森はやたらでけえんだよなあ。立地悪すぎだろ。割に合わねえぜったく。……ん? ……なんだこれは?」
やる気も危機感もないような男の顔が、突然険しい表情に変わる。何かを感じ男は立ち止まり、ゆっくりと森の中を見渡す。
「どうも嫌な感じがするねぇ……」
つぶやいた瞬間、大きな音とともに森の奥で巨大な火柱が上がる。
「あっちか!っつか何だありゃあ!!」
轟々と燃え上がる炎に驚きながらも火柱が上がった方へと走りだした。近づくと周りは火の海、黒い煙がもくもくと立ち上っていた。
「何だこの感じは。消えかかっている……。この奥か……」
そう言ってしゃがみこむと、両の手を地面につき目を閉じる。すると、地面についた手を中心に光り輝く魔法陣が描かれた。魔法陣の光りが更に強く輝くとその手元からは巨大な泥の波が現れ、地面を燃やしていた炎の上に架かる土砂の橋を作りあげた。進んでも進んでも炎が途切れることのない道を男はまっすぐに走りゆく。炎はまだ奥まで続いているが、走るその先に小さく開けた場所が見えた。小さなナイフが煤にまみれて落ちている。そしてその傍らには小さな少年が横たわっていた。
「おい、坊主!しっかりしろ!」
男が呼び掛け、軽く頬を叩くが少年は目を覚まさない。気絶しているだけのようだが、頭にできた傷の方はかなりの重症だった。
「まじでこれをこの子がやったってのか……?」
男が気にしていた異様な気配はこの少年から発せられていた。すでにその気配もごく僅かなものとなってしまってはいるが、この少年がなにか不思議なものを持っていることを感じ取っていた。目覚める気配もなく瀕死のまま放っておくこともできないと男は少年を連れて行くことにした。落ちていたナイフも拾い、少し離れたところへ場所をうつした。




