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第15話 悪魔の子

 五人は舞い上がる爆炎の中に目を凝らした。息を呑む彼らの前にある煙の壁から姿を表したのは悪魔の如き容姿をした人間だった。


「ちょっと! 全然効いてないじゃん!」


「一筋縄じゃいかなそうだね」


「ふんっ! 少しは骨のありそうな相手で安心したわ!」


 五人の息のあった攻撃を受けても傷一つついていない化け物にリア、グンタ、ミラは気を引き締め直した。


「ねえみんな見て! あれって――――」


「マルク」


 相対した敵の顔に仲間の面影をみた五人。ルイだけが目の前の化け物がマルクであることに驚いていないようだ。


「ほんとうにマルクくんが……」


「落ちるとこまで落ちたわね」


「はっはっは! ルイ、ミラ、会えて嬉しいぞ! あとで殺してやろうと思ってたが丁度いい。今ここでお前らを倒し、俺が最強だということを証明してやる!」


 狂気に満ち歓喜に高ぶるマルクをルイは冷静に睨みつける。


「やってみろよ」


「ハッハッハ、いい顔だ! それでこそ殺りがいがあるってもんだぜ!!」


 数年ともに過ごして初めて見る殺気を放つルイに、マルクはさらに感情を高ぶらせる。前にも増して溢れだした黒い光が五人を飲み込んでいく。


「え! なにこのマナ!」


「黒いマナ!? こんなの知らないんだけど!」


 動揺を隠せないヒズナとリア。ミラとグンタも圧されて身動きが取れない中、ルイだけは悠然としていた。


「ちょっとルイ待ちなさい! 何する気!?」


 ミラの声にも耳を貸さず、ルイは歩みを止めずゆっくりとマルクに近づいていく。


「”火の魂 炎理の血 炎の生を受けし者 炎槍の一撃を放て”」


 口ずさんだルイの周囲に五つの幾何学模様の円環が輝く。マルクとは違う、赤い輝きのそれはさらに炎の槍を打ち出した。


「あれって、炎槍の魔法!? しかも多重詠唱なんて!」


「まったく、いつの間にあんな魔法使えるようになってたのよ……」


「さすがルイだね」


 本来ならばルイのような少年にはまだ使えるはずのない中位中級魔法に当たる炎槍。さらに難易度の高い多重詠唱による五重魔法は規格外の天才であるルイだからこそできた技といえる。


「うっ!! ぐぅ……! ぐはっ!!」


 一撃目、二撃目をかわし、三撃目の炎槍を掴むマルク。しかしその槍の勢いを殺すことはかなわず、軌道をそらすので精一杯だった。脇腹をかすった四撃目も勢いそのまま背後の地面に突き刺さり、最後の五撃目、ついにマルクの肩を抉り翼を貫き大きな風穴を開けた。


「ぐああぁッ!!」


「やった!」


「…………」


 マルクにダメージを与えヒズナが思わず声をあげる。だがルイはまだ黙ったまま、油断のない眼差しでマルクを睨んでいる。


「くっ! この程度の傷で……、調子に乗るなよ!!」


 マルクの足元に浮かびあがる黒く光る魔法陣と湧き出す黒いマナ。マナと光がマルクを包み込むと一瞬のうちに傷は癒え、マルクの身体は無傷の状態に戻っていた。


「そんな! あれだけの傷を一瞬で!」


「ふははは、どうだ見たか! 今ならお前たちが相手でも負ける気がしない! 今の俺に敗北はない! 俺が最強だ!!」


「そう簡単にはいかねぇか」


「しょうがないわね……。リア! ヒズ!」


「うん!」


「まかせて!」


 ミラの掛け声に二人が詠唱を始める。リアの火球とヒズナの水弾がマルクの足元で衝突し爆発を起こす。さらに詠唱を続けいくつもの火球と水弾が交わる。


「小賢しい!」


 水蒸気によって視界を奪われたマルクはどこからくるかわからない攻撃に身動きが取れない。さらにその隙をつくようにミラが詠唱を始める。


「”風の精 清風の奏 風を呼びし者 空を割く刃を放て”!!」


 二重詠唱による二つの淡緑色の魔法陣から放たれる風の刃が、視界を奪われたマルクの身体を切り裂く。


「無駄だ!」


 マルクは黒いマナによって傷を癒やし、同時に視界を遮っていた水蒸気を吹き飛ばした。


「あれじゃあまだ弱いわね……」


「いや、そうでもないみたいだよ」


 致命傷を与えることができなかったように思えたミラの攻撃だったが、グンタは何かに気づいたようだった。


「どういうこと?」


「今の回復、さっきよりも傷は浅かったけど治りが少し遅かったように見えた。それにあの黒いマナの勢いも弱まっていた。あの力は厄介だけど相当な体力を必要とするはずだよ」


 マルクは相変わらず無傷で余裕そうに見える。しかし僅かに息が乱れ、肩で呼吸しているように見えた。


「マルクの体はあの力についていけてないんだ。さっきのルイの攻撃もかなり効いてるはず。つまり……」


「なるほどね」


 にやりと笑い二人は攻撃を再開する。それに続いてリアとヒズナも詠唱を始めた。


「視界が戻っていることを忘れたか、そんなのろまな攻撃など容易く交わせるぞ」


「そいつはどうかな!」


 逃すまいと振り下ろされたルイの短剣をマルクはとっさに爪で防いだ。


「うっとおしいぞ!」


「こっちだってそうかんたんにやられてやるつもりはねえんだよ……!」


 マルクの動きは止められた。マルクは接近戦の隙を狙って放たれる魔法に対応しながらも徐々に傷を増やしていく。


「くそが! しつこいぞ!」


「ぐっ! くそっ!」


 なんとか足止めを続けてはいるものの、身体機能も上昇している今のマルクに短剣の一本では心もとない。体力も消耗し少しずつ押されはじめたルイはマルクの蹴りをまともに受け飛ばされた。傷を癒す隙を得たマルクは瞬時に回復を終えた。


「弱いなルイ。このままお前を先に殺すのもいいが、まずは邪魔なコバエ共の駆除が先だ」


 瞬間移動していると錯覚するほどの速度で移動するマルクに、ルイとミラ以外は反応することすらできない。


「きゃあっ!」


「ヒズ! うあっ!!」


「ヒズ! リア!」


 ヒズナとリアのもとに駆け寄ろうとするが、ミラもマルクの攻撃を防ぐので精一杯だ。


「うぐっ!」


「グンタ!!」


「だ、大丈夫……。頑丈さだけが取り柄だから……」


 しかしグンタもうずくまったまま立つ気配がない。残ったのは体力に限界の見えてきたルイと防戦一方のミラだけだ。


「どうしたのかしら……? 動きが遅くなってきたんじゃない……?」


「そんな挑発に乗るとでも思ったか?」


 容易に冷静さを失わないところは以前のマルクとは違う。ミラの言葉に油断することもなかった。しかしそれは挑発などではない。マルクの速度は落ちていたのだ。


「それは残念。なら、これでも喰らいなさい!」


「なに!?」


 突如地面の瓦礫を吹き飛ばし現れた旋風に飲まれたマルクは、風と舞い上がる瓦礫の破片に体を切り刻まれていく。黒いマナによる治癒と風圧で風を断ったが体力は更に減っていく。


「しぶといやつだ……」


「お前もな!」


 隙を見せたマルクの背にルイが短剣を振り下ろす。深々と突き刺さる刃が背中を裂いていく。


「ぐああああ!!!」


 人間とは思えない紫色の血を噴き出しながらマルクは両膝をついた。


「まだだ…………!!」


 素早く回復に入るマルク。だがそんな隙を与えるわけもない。

 マルクがさらに攻撃を仕掛ける。


「させるか!」


「くそ邪魔だ!!」


 振り向きざまに払われたマルクの腕にルイは吹き飛ばされ壁に背を打ちつけた。だがまだマルクを襲う攻撃は止まない。さっきの旋風が左右からマルクを襲う。


「当たれ!!」


「くそが!!」


 マルクはとっさに回復をやめ、新たな魔法陣を展開した。その魔法が発動するとマルクを中心にあたりの物すべてを勢い良く吹き飛ばした。


「うああ!」


「きゃああ!」


 旋風とともに瓦礫や家の壁もろともルイたちを吹き飛ばした。皆屋外へ飛ばされながらも無事のようだ。崩壊する建物に潰されながらも、マルクは瓦礫の中から這い出て来る。


「化物が……」


「ほんとはもう死んでんじゃないの……?」


 体力とマナの限界も近い。この二人といえどさすがに嫌になってきたようで現実逃避を始めていた。


「体力的に次の攻撃がラストチャンスだ…………」


「私も……。もうマナが残ってないわ…………」


 だがそれはマルクとて同じこと。足をふらつかせながら回復魔法をかけ始めていた。


「ミラ頼む……!」


「いけ! 嵐槍!」


 すでに詠唱を終えたミラの嵐の如くうねる槍がマルクめがけて飛び出す。同時にルイが短剣に炎をまとわせ走り出した。


「ぐふっ…………!」


 マルクは強大な力の代償か槍を避けることなく穿たれる。さらにルイの短剣が心臓を一刺し。さらに追い打ちをかけるように炎、水、土の槍がマルクの足、肩、頭に風穴を空けた。

 

「グンタ……」


「ヒズ! リア!」


「あはは、もう動けないかな……」


「ごめんなさい、これが限界……かも…………」


「もう、起き上がってこないで…………!」


 三人はその場に倒れ込み、ルイとミラと同様にマルクの様子をうかがう。

 マルクの足元の魔法陣は光を失い消え、足の穿たれたところから折れ曲がり倒れ込んだ。微動打にすることのないマルクは完全に絶命していた。

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