第10話 シオンの子供たち
シオンの入り口から中央の広場まで歩いて、そこから左へ向かうと身寄りのない子達が暮らす施設が存在する。そこはルイたちにとっては帰る家であり、村の子どもたちにとっての学び舎としても使用されている。
夕刻、施設の学徒は皆帰り始める時間。だが、ルイとグンタ、ミラと二人の少女だけがまだ教室に残っていた。先日、同じ施設の仲間である少年アデルが何者かに殺害された事件があった。五人は村の大人たちとその事件の調査を任されていた。しばらく経って、一人の女性が教室にやってきた。
「では、報告を」
一刻の時間も惜しむように、落ち着いた雰囲気の女性はなんの前触れもなく問うた。
「村の人間には今回のことと要注意人物を伝えておいた。あと何かあれば報告するようにと」
「ご苦労様。正直、ここの子達が犯人だなんて疑いたくもないのだけれど」
今回最も疑いがかけられているのは同じ施設のマルクだ。以前から素行の悪さが目立つ少年ではあったのだが、最近のマルクの行動は大人たちからしても目に余るものが多かった。さらにアデルが行方不明になったあたりから、夜な夜な施設を抜け出していたことがわかっている。まだ殺人とまではいかないものの、すでに何名かの生徒たちが大怪我を負わされていた。
「それに関してだけど、ついさっきアキと一緒にいた見たことない子男の子がマルクたちに襲われてたわ」
「なんだと! アキは無事なのか!」
誰よりも早く反応したのはルイだった。それが面白くないようでミラはむっと口をとがらせている。
「無事よ。傷一つないわ、よかったわね!」
「そうか無事か」
ミラが機嫌を損ねていることにも気づかずにルイはアキが無事であることに安心していた。そんなルイにため息を吐いてミラは続ける。
「でも一緒にいた子はやばいわね。あの女が背負って帰ってたみたいだけど、もう死んでるんじゃないかしら」
僅かにしかその現場を目撃していないにしても、すでに気を失った少年を大人数で玩具のように蹴飛ばしていたのだ。ミラはかなり危険な状態だったと判断したが、この村で最も忌み嫌っている少女に手を貸すことは死んでもごめんだった。
「アキならマルクたちくらいだったら一人で止められたんじゃない?」
グンタが疑問を呈する。アキの身体能力が他の子たちに比べてずば抜けていることは、村の子どもたちは皆知っていること。いくらマルクが強いとは言っても、アキやここにいる五人に比べれば大したことはないはずだった。
「無理ね。少なくとも今のマルクたち相手では私ですら危ういわ。まあ、あいつらはそれに気づかないで逃げていったけどね」
ミラはこの短期間にマルクたちが急激に力をつけていることに気づいていた。それはこの施設内においてルイとタメを張るほどの実力者であるミラにも及ぶ程に。あの時、あのままマルクたちと戦闘になっていたとしたらいくらミラといえど無事ではなかっただろう。
「あの、じゃあ最後に私達から」
手を上げたのは紺色の髪をした物静かそうな少女だった。その隣にいるオレンジ色の髪を結んだ少女とアデルが発見された場所の調査を行っていた。
「リアと二人で事件の起きた場所の周辺を調べていたら、周りの木に見たことのない傷がいくつも見つかりました。かなり深くえぐられていて、倒されている木も数本ではありませんでした」
「刃物傷ではなかったし、爪痕みたいだったけどこの森にあんな大きな爪痕を残せる獣や魔物はいなかったはずよ。」
紺色の髪の少女の説明にオレンジ髪の少女が補足する。二人とてこの村の中では実力を認められた者たちだ。森の中での狩りは得意で、このあたりの獣や魔物に関してはよく知っている。そんな二人が見たことのない爪痕となれば、村周辺の魔物ではないということだ。
「わかったわ。それに関しては私達が調べておくから、あなた達はミラとマルクたちを警戒しておいて。ルイとグンタも、情報を集めつつマルクを動向に注意するように」
五人の返事が響くと、その日の報告は終了となった。少しずつ手がかりは集まってきた。だがまだ犯人を特定するにいたる決定的な証拠は何もない。マルクとて、まだ彼が本当になにか知っているという確証はないのだ。五人はこれからのことを考えながら教室をあとにして、それぞれの自室へと向かった。
「なあグンタ、このあと組手に付き合えよ」
「いいけど、ルイが組手なんて珍しいね」
「まあ、たまにはな」
「あんたたちこんな時に無茶して怪我なんてしないでよね? ただでさえ私の負担がでかんいんだから」
今まではルイとグンタ、ヒズナとリアがペアでミラは一人行動だった。にもかかわらず任された仕事の量は変わらないのは、ミラの周りからの信頼と実力が認められている証でもあるのだ。
「んだよ、今度からはヒズとリアも一緒なんだから文句言うなよ」
「そうだよミラ、ルイの言うとおりよ。なんなら昨日の夜ミラだって大人たちに黙ってこっそり剣の練習してたじゃん」
「ちょ! なんでリアがそれ知ってるのよ!」
「偶然見ちゃった」
「え、あのミラちゃんが!? うう、ミラちゃんにもやっとそんな時期が来たんだね」
「なんでヒズが泣くのよ! てかそんなんじゃないわよ!」
「なんだお前もやってんじゃん」
「うっさいわね!」
「あはは〜」
この村屈指の実力を持つ少年少女たちは、大人たちにも引けを取らないほどの実力者だ。だがこうしてみるとそんなことは微塵も思わせない、ただの仲のいい少年少女たちに見えた。
「もういっそのこと、今からみんなで訓練所で特訓しようよ」
「お、いいなそれ! 模擬戦しようぜ模擬戦!」
「ちょっと何勝手に決めてんのよ!」
「よーし、今回は勝たせてもらうわよ!」
「お手柔らかにお願いするね」
「もう勝手にしなさい」
やる気満々の四人に押されて、流石のミラも疲れを見せた。だが最近は事件のこともあって、久々に身体を動かすのも悪くないとミラは思った。
「じゃあリア以外の四人で」
「「「賛成〜」」」
「ちょ! 私も混ぜなさいよ!」




