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03-07 断章

 夜、少年はベッドの上に横たわっていた。

 部屋の窓の外からは、まだ燃え続ける炎のオレンジ色の光が差し込み、人々が自由を祝う歓声が響いている。


 昨晩、少年はゴロの家の来賓用の寝室に泊まった。あの寝室が過剰なまでに豪華だったのは、マスランが鉱山に視察に来た際に泊まるための部屋だったらしい。


 今晩の寝床は、そのマスランが手配してくれた宿屋の一室。

 いちばんいい部屋なので、ベッドは昨晩に劣らぬほど寝心地がいい。


 身体が沈み込むままにベッドに身を任せていると、ふと、アロマの香りがした。

 昨晩と同じ、ハチミツのような上品な甘い香り。

 脳まで染み込んでくるような芳香は緊張を解きほぐし、内臓までもをやさしくマッサージしてくれるようだった。


 ふと、あたたかいものが耳元にふれる。


(ジェリーくん)(ジェリーさん)


 それは、天使と悪魔の唇だった。


(ん……ああ、お前らか)


(またお話しさせていただいてもよろしいですか?)


(なに……またか……?)


(ねえ、いいじゃん! お話しよ! お話しようよぉ!)


(うぅん……耳元で騒がれちゃ、ノーチョイスじゃねぇかよ……)


(まぁ、そうおっしゃらずに、わたくしたちにジェリーさんのこと、教えてください)


(まぁ……いいぜ……)


(やった! ねぇねぇ、ジェリーくんってさ、弱っちいくせになんでそんなに成り上がろうとしてるの?)


(……弱っちいは余計ですよ、プル……)


(あ、今のナシ! えーっと、ジェリーくんってさ、なんでそんなに成り上がろうとしてるの?)


(……うーん……なんでって……そんなこと、考えたこともなかったな……)


(お兄様の影響ではないのですか?)


(ああ、もしかしたら、そうかもしれねぇなぁ……)


(お兄ちゃん?)


(……俺が麻薬所持で保護観察処分になったとき、兄貴が言ったんだ……自分は表社会のトップを取るから、お前は裏社会のトップを取れ、と……兄弟ふたりで、世界征服しよう、って……)


(あれ? 濡れ衣を着せたのってお兄ちゃんじゃなかったの?)


(……そん時は、俺は知らなかったんだ……兄貴が仕組んでいたことをな……。あの時の俺は、兄貴の言われるがままに、裏社会に身を投じた……どうせ、不祥事で芸能界には戻れなかったしな……)


(12歳の頃ですよね。でもそんな年齢で裏社会なんて……)


(……いろいろあったさ、だが『親分は小学生』のイメージにだいぶ助けられた……それでも時にはヘマもして、不名誉なアダ名をつけられたりもした……ヤバくなったら、兄貴が警視総監と警察庁長官に手を回してくれた……)


(そういえばお兄さんが『親分は小学生』の警視総監役をやられてたんですよね)


(……そうだ、アイツは恐ろしいヤツだ……ドラマの時の立場を利用して、いつの間にか警察組織のトップにコネを作り上げてやがったんだ……)


(すごいお兄ちゃんだったんだねぇ……でも、それで助けられたんじゃないの?)


(……助けられた……かどうかはわかねぇが、保護観察処分の身でも動き回れたのは、兄貴が手を回してくれたからだな……あのときの俺たちはまさに表と裏だった……兄貴は華やかな表舞台で活躍し、俺はその裏で、兄貴の邪魔をするやつらに睨みをきかせた……)


(そうやって、世界征服を進めていったんですね)


(……ああ……だが、ある日、知っちまった。俺を裏社会に向かわせるために、兄貴が俺を陥れたことを……!)


(それで、ジェリーくんはどうしたの?)


(……その時、兄貴はホワイトハウスにいた。大統領の娘と婚約して、さらなる足がかりを作ろうと目論んでたんだ……!)


(それを阻止しようとして、ホワイトハウスに潜入したんですね)


(あーっ! わかった! それで失敗しちゃって、トラックで逃げてる途中で死んじゃったんだ!)


(……そうだ……! 俺と兄貴はそっくりだったから、兄貴のフリをして、メチャクチャにしてやるつもりだった! 俺を騙し、俺を利用し続けている兄貴に、復讐してやるために……!!)


(あ……落ち着いてください、ジェリーさん)


(ううっ……! は、離せ……!!)


(ああ、よし、よし……落ち着いて……)


(……う……っ……)


(……あ~あ、終わっちゃった)


(もぅ、プルが大きな声を出すからですよ)


(えーっ、ボクのせい!? ルクの質問が悪かったんじゃないの!?)


(そんなことはありえません。……でも、ジェリーさんのこと、だいぶわかってきましたね)


(うん。世界征服なんてスゴいこと言うなあって思ったけど、もしかして前の世界ではけっこうイイ所まで行ってたのかな?)


(はい。スタートは高校の番長からだったようですが、今や暴力団、麻薬カルテル、マフィアでジェリーさんの名を知らぬ者はいなかったようです)


(お兄ちゃんのためにガンバってたのかなぁ)


(ジェリーさんの行動原理として、お兄さんが大きく作用しているのは間違いないでしょう。問題は、こちらの世界にお兄さんがおられないのを自覚できていないことですね。気付いてしまったら、きっとこの世界でのモチベーションが大きく低下するでしょう)


(ええーっ!? それはダメだよ! 禁忌を破ってまでついてきたのに、抜け殻みたいになっちゃったら面白くないじゃん! ……あぁ、こっちの世界にお兄ちゃん呼べないかなぁ?)


(禁忌を破ってしまったわたくしたちが、世界間の異動をさせるのは難しいですね……)


(うーん、なんかいい手ないかなぁ……)

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