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02-05

 勝負のポーカーは、クローズドのファイブカードドロー形式で行われた。


 ただしジェリーのチップは1枚しかないので、その間はブラインドやベッドは省略という処置がなされた。

 すなわち、最初の勝負にジェリーが勝ってもチップは1枚しか増えないが、負けたら即終了という厳しい条件だ。


 それでも、初戦はツーペアでジェリーが勝利し、1枚のチップを得る。

 これで、ブラインドとベッドができるようになった。


 この勢いで次も行くかと思われた2戦目、ジェリーはドロップし、チップ1枚を失う。


 3戦目、4戦目は連続でジェリーの勝利、チップは4枚になった。


 ジェリーは的確なレイズとドロップを繰り返す。

 相手がここぞという時にはドロップで流し、そしてレイズしたときには必ず勝利した。


 絶妙な押しと引きを繰り返し、敵のチップを少しずつ削りとっていく。

 そうして10戦目を終えるころには、ジェリーのチップは40枚まで増えていた。


「ちっ、なかなかやるじゃねぇか……ポーカーでこの集落を支配した俺を、ここまで苦しめるとは……その変な頬杖、ムカつくぜぇ……!」


 ゴロはこしゃくな相手に対し、隠すことなく悔しさをにじませる。


 彼の目の前にいる少年は、表情が全く読めなかった。射抜くような視線を、ロックオンしているかのように、ずっと外さずにいる。

 そして勝負の最中はずっと頬杖をついており、なぜか片目を覆っていた。


「また勝った! このまま一気に畳み掛けましょう! ジェリー様っ!」


 配下の女騎士から声を掛けられても、まるで聞こえていないかのように対戦に集中。

 少年はポーカーフェイスの申し子のように冷静だったが、その脳内は反比例するように賑やかだった。


(すごい、すごい、すごーい! よく考えたねぇ!)


(まさかプルの視力を利用して、相手の瞳に映ったカードを盗み見るなんて、思いもしませんでした!)


(ギリギリ思いついた手だが、なんとかモノになった。……しかしヤツは遊んでやがるな)


(遊ぶ? 相手は本気を出してないということですか?)


(真面目にポーカーをやってるってことだ。ディーラーがヤツの部下であるこの状況ならば、ケーキカットをするのは簡単だ。それをしないってことは、遊んでやがるんだ)


(なんで遊んだりしてるの?)


(おそらくだが、劇的な勝利を演出しようとしてるんだろう。一戦で終わらせることもできたハズだが、それをしちまうと誰の印象にも残らねぇ。だから大勝負まで引っ張って、そこでケリをつけようとするハズだ。そうすれば、部下にも勝負強さを印象づけられ、尊敬を得られるからな)


(一見して優勢なのはジェリーさんですが、実際は敵の手の内だということですね)


(ああ。だが、そうやって遊んで、付け入るスキを与えるのは三流のヤツがすることだ。一流は、窮鼠に牙があることすら気づかせぬまま、勝負を決める……!)


 勝負は進み、ジェリーのチップは80枚までに膨れ上がった。相手のチップは120枚。

 新たなる場で配られた手札を見て、ジェリーはついに来たかと眉をピクリとさせた。


(おおっ、すごい! 数字が並んでるよ! 縁起いいね!)


(ストレートフラッシュですね)


(そうそう、それそれ! この勝負も貰ったも同然だね!)


(……いや、アイツの手札を見てみろ)


(あっ、あの人の手札……おっきい数字が並んでる!)


(ロイヤルストレートフラッシュですね)


(そう、俺以上の手札だ。まず俺に勝てそうな手札を与えて、その気にさせてるんだ。端役だったら流されて終わるからな。この勝負で仕掛けてくるはずだ)


(……あの、ジェリーさん、もしかして、先程おっしゃってたケーキカットって、不正をするという意味ですか?)


(えっ、ケーキカットって、ケーキを切ることじゃなかったの?)


(なんでポーカーの最中にケーキを食うんだよ! トランプではイカサマのことをいうんだ。ディーラーに指示を出して、手札操作をするんだ)


(あ、でも、それでしたら……)


「なぁ、そろそろここいらで大勝負といかねぇか?」


 ルクの脳内会話を遮るようなタイミングで、ゴロが話しかけてきた。


「俺ぁチマチマとやりとりするのはどうも性にあわねぇみてぇだ。この勝負で勝ったほうが、チップを総取りするってことにしようぜ」


 ふてぶてしく吸いこんだ葉巻の煙を、ジェリーの顔に向けて吐きかけてくる。


「俺は掛け金が高くなればなるほど強くなるタイプなんだ。だから間違いなく俺が勝つと思うがな……ま、怖けりゃ別にいいぜ、ジジイのションベンみてぇにチビチビした賭けが、おめぇにはお似合いだからな! きっと股ぐらには、クルミみてぇなカラッカラのモンがぶら下がってるんだろうよ!」


 大げさに煽ってくるゴロ。大声で嘲り笑うと、仲間たちも揃って笑った。

 それでも少年は動物園の檻を眺めるような表情を崩さなかったが、隣にいる女騎士には効果覿面だった。


「なんだとぉ!? ジェリー様っ、ここまでバカにされて引っ込んだら、極至天導(キョクシテンド)の名がすたります! やりましょう、やってやりましょう! ここで一気に終わらせましょう!!」


 『極至天導(キョクシテンド)』と聞いて、観客たちからさらなる冷笑が漏れる。


 いくらけしかけられても、失笑されても、ジェリーは承諾するはずがないとルクプルは思っていた。

 しかし、返答は意外なものだった。


「いいだろう、これが最後の勝負だ」


 一瞬意味がわからなくて、顔を見合わせる天使と悪魔。


(ええーっ!? なんでっ!?)


(どういうおつもりですか? 負けるのがわかっているのに受けるなんて)


 これにはプルはもちろんのこと、ルクまでもが取り乱した。


(いいから、黙って見てろ……!)


「よぉし、そうと決まればショーダウンだ! もう後戻りはできねぇぜ!!」


 罠にかかったことも気づいていない間抜けなネズミを見るように、ゴロは大口を嫌らしく歪める。

 勝利を確信した、奢りきった表情だった。


 続けざまに手札を大きく振りかぶり、「見やがれ!」とテーブルにズバァンと叩きつける。

 10、J、Q,K、A……すべてが真紅の札だった。


「ハハッ、どうだぁ! ハートのロイヤルストレートフラッシュだ!」


 おおーっ!! と大きな歓声が弾ける。


「このハートは、俺に惚れた勝利の女神からの授かりモノ……! 女ってヤツぁ、ここ一番というときには真に強い男のほうに微笑むようだなぁ!!」


 すっかり勝った気で椅子の上にあがり、ガッツポーズと共に雄叫びをあげるゴロ。

 早すぎる勝利宣言だったが、この場にいる者すべて、それはルクプルも含めて、彼の勝利を疑う者はいなかった。


 喜ぶ者、尊敬する者、期待に胸を膨らませる者。そして絶望する者と呆気にとられる者……誰もが全ては終わったと思っていた。

 しかし、歓喜も悲哀も感じていない者が、ただひとりだけいた。


「そうか、貴様の前では、勝利の女神は微笑むのか……」


「ハハッ、そうだぁ! お子ちゃまにはわからねぇ感覚かもしれねぇがな! ガッハッハッハッハッ!」


 ゴロの高笑いは、フッと鼻であしらわれる。


「この低次元な世界では、そうなのだろうな」


「なんだとぉ!?」


 少年はこれまでのポーカー勝負と同じように、何の興奮も意気込みもない当たり前のような手つきで、自らの手札を白日の元に晒した。


「その勝利の女神とやらは……いま俺様の足元に、しなだれかかっているぞ……!」

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