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Helpoort  作者: FA
3/9

髑髏の兵団 Part2

「来ないな」

「ああ、来ない」


 地球軍の輸送部隊は予定時刻を過ぎても戻ってこなかった。

 こういう場合、もう二度と戻らないことが多い。経験上の話だが、だいたいは的中する。

 原因は色々と考えられる。


「はてさて、今回は何が原因だったかな。ガイウス、俺は地球軍の誰かがヘマした、に1000ヘルランドマルク賭けるぜ」


 とカシウスが地球軍の連中に聞こえるようわざと大きな声で言ってきた。

 防壁の上にいる迷彩柄の兵士たちの射貫くような視線がこちらに向けられてくる。


 ちなみに、ヘルランドマルクというのはヘルランドの通貨の単位だ。


「やめろ、カシウス」


 俺は声をひそめて、カシウスに地球軍の悪口はやめるように言うが


「なんだ、ガイウス。あんな奴らにビビってるのか?壁の内側でしか偉そうにできない、あんな臆病者共によッ!」


 と、また壁の上の連中に向かって声を張り上げるのだから本当に性質が悪い。


「はぁ」


 と、俺は思わずため息を零した。

 カシウスはとにかく地球軍を嫌っていた。同時に、《地球人》も嫌っていた。

 彼は差別主義者で、民族主義者でもある。

 

「余計なもめごとは起こすなよ」


 といっても無駄だろうと思うと俺はまたもやため息を漏らした。

 カシウスは問題児だ。よく地球軍ともめごとを起こす。

 でも、その後始末をするのはいつも俺だった。俺の身にもなってもらいたいものだ。


 などと、心の中でぼやいていたため、赤色の長い髪を揺らしながら近づく人影に気づけなかった。


「よッ!」


 バコン、と俺の尻に軽い蹴りがお見舞いされる。

 一生の不覚……。


 そしてカシウスだけでも手がかかるのに、世話の焼ける奴がもう一人来た。


「マリア。一体、何度言えばいいんだ。俺の尻はお前のサンドバックじゃない」

「ニシシ、ガイウス、お前の物は俺の物。俺の物も俺の物。ということはお前の尻も俺の物というわけだ」


なんて身勝手で自己中心的な思想だろう。独裁主義よりもひどい。

 前世は間違いなく暴君であっただろうその人物は、腰まで届く赤い髪に、青色の瞳をした愛くるしい顔の少女だった。

 白い歯を覗かせながら悪戯っぽく笑う仕草がカシウスに似てる。


「マリア、相変わらずガイウスの尻が好きみたいだな」


 と、さっそくカシウスが白い歯を覗かせて悪戯っぽく笑う。

 だが、マリアと呼ばれた少女は呆れた様に肩でため息をつき


「これだから俺の兄貴は。ガイウスの尻を蹴り上げる神聖な行為をお前のような下賤な者に語られるとは屈辱の極みだ」


 と、辛辣な言葉の限りを浴びせかけた。


「ちょ、ちょっと待てッ!俺、そんな酷いこと言ったか!?

「自分の胸に聞くことだな、くそ兄貴」


 と、終始ジト目と棘のある言葉で応じた。

 兄としての威厳もなければ、そもそも人としてもまっとうに扱ってもらえない。

 カシウスは心を打ち砕かれたようにシクシクと泣いた。


 

少女の名前はマリア・ナタリエル。階級は中尉で、カシウスの双子の妹だ。

背中にはスコープ付きの軍用狙撃銃がストラップによって下げられている。


だが、彼女の軍服は俺やカシウスのものとは違って手が加えられていた。

自分なりの個性を出すためなのだろうが、そのアレンジは軍隊で許容される域をはるかに超えている。


「マリア、何度も言ってるだろ。その服装をなんとかしろ」

 

それには俺もさすがに注意せざるを得ない。

俺たちは全身を深い緑色の軍服で包む。

だが、マリアの格好は白が目立った。彼女の肌だ。

ジャケットのジッパーを全開にして、インナーの真っ白なシャツを露わにさせている。それだけならまだよかったのだが、彼女はシャツをたくし上げて鳩尾のあたりで結び、色白な腹部をむき出しにしていた。

軍人らしく引き締まった腹部に縦向きのへそが惜しげも無く曝け出されている。

 

「固いこと言うなって。それとも気になるか?」


見たかったら堂々と見ていいんだぞ?とマリアはからかいつつ俺の顔をのぞき込んでくる。その仕草をとったとき、年相応に膨らんだ二つの果実がゆったりと揺れた。

胸の真下で腕を組み、左右から挟み込むことでより胸をクローズアップさせたのだ。


マリアの思惑通り、俺の視線は胸に釘づけだった。時々、むき出しの腹部にも視線を泳がせている。

そして俺は手をゆっくりとマリアの胸元へと伸ばしていった。


「綺麗な肌に傷がついたらカシウスが悲しむ」


だが俺はマリアの胸には触れず、ジャケットのジッパーを指で摘まむとそのまま首元まで押し上げた。むき出しだったマリアの腹部がそれで軍服の中へと仕舞われる。

それで、どこにでもいる一般兵の出来上がりだ。


「はぁ……まったく……」


と、小さくため息をつきつつ、少しだけ悲しげな眼でマリアは俺を見上げた。

一瞬だけでも期待した自分が愚かだったと言わんばかりに自嘲するような笑みを浮かべる。


「相変わらず……固い奴だな……」

「そうでもないさ」 


 俺は緩い上官だよ。地球軍のお偉いさんに比べればな。



「ディクタトル大尉、よろしいでしょうか?」


マリアにきちんと服装を正させた直後、地球軍の士官が俺を呼んできた。階級は少尉だが、見慣れない顔だった。新任だろうか。



◇◇



ガイウスは地球軍の士官に呼ばれて行ってしまった。


赤毛の少女はその背中を細めた眼でじっと見つめていた。

その隣にカシウスがさり気なく並んできて


「いい加減、告白すればいいだろ」

「うるせぇ……くそ兄貴……」

 

マリアの頬はリンゴのように真っ赤だった。


「はぁ、本当に息苦しいぜ」


ガイウスに着せられた軍服のジッパーを下げて羽織るだけの形にし、結局、腹部をむき出しにする。だが、彼女はただ苦しいだけだった。

成長期で発育したマリアの胸部は常には、何年も更新されていない古い軍服ではきつすぎたのだ。



◇◇



「お初にお目にかかります。本日、着任いたしました。地球軍所属、第157歩兵小隊隊長サハリン・ハンザ少尉であります」


 と地球式の敬礼をしてくる。見慣れない顔だと思っていたがやはり新任の士官か。


「アルペンハーゲン軍管区所属、第203機動歩兵中隊隊長ガイウス・ディクタトルだ。よろしく」


 俺は一応、挙手式の敬礼で応じた。

 あまり地球軍の方から話しかけてくることもないからこういった場合、どうすればいいのか迷う。

 それにあまり触れたくはないが聞いておきたい話題が一つ。


「第157歩兵小隊の隊長はアドベル中尉だったように記憶しているが、彼はどうした?」


 正直、いけすかない地球軍の士官だった。何かにつけて俺たちを敵視してきて、カシウスを切れさせた。以前、カシウスが顔面に拳をお見舞いして、その時は大騒動になったものだ。

 その彼も、ここ数日、見ていない。


「亡くなりました。島の外での軍務中に」

「そうだったか。それは気の毒にな」


 見かけないと思っていたら壁の外に行っていたのか。

 ここ最近、地球軍が頻繁にトンネルを通って島の外へと出て行っているが、彼もその中に紛れていたらしい。そして、島に戻ることはなかった、と。


「致し方ありません。この星はあまりにも危険ですから」

「確かに、この星では毎日のように人が死ぬ。地球とは比べ物にならない勢いでな」


 とはいう地球もいまだにHelpoortから溢れてくる瘴気によって汚染されたまま。また、各地の汚染区域には戦鬼の生存も確認されており、予断を許さない状態だと聞く。

 何はともあれ、あのいけ好かない中尉が死んだというなら喜ばしいことだ。

 しかし、カシウスには言わないでおこう。言ったら喜びのあまり騒ぎそうで怖い。


「それで、着任の挨拶をしにわざわざ話しかけてくれたわけか」


 ハンザ少尉とかいった青年将校は地球軍人でありながらよく俺たちに声をかける気になったものだ。

 見る者が見れば、裏切り行為ともとられかねない。

 それだけ俺たちは嫌われている。


「いえ、挨拶は云わば次いでです。輸送部隊は暫く戻りそうにありませんし、戦鬼の姿もありませんから暫く、部隊を休ませてはいかがでしょうか?と提案に参りました」

「え?それはつまり……」

「壁の警備は我々だけで間に合っています。さすがに兵舎までお返しすることはできませんが、壁の内側ででもお休みになって頂いて構いません」

「……………」


俺は驚きのあまり言葉も出なかった。

何か裏があるのではないかと勘繰らずにはいられなかった。

俺たちを常に敵視している地球軍からそんな提案がくるなんてどうも怪しい。


すると、地球軍の士官は少しだけ困ったように笑って


「ご安心ください。寝込みを襲おうなどとは考えていません。《同族》のあなた達を」

「同族……まさか」


地球軍に所属していながら、俺達に対して同族という言葉を使う者は限られている。


「あなた達のいうところの《亡国人》という奴です」

「では、ヘルランドから地球に?」

「ええ、両親がそうでした」


 本来、一度、強制移住させられたニューマンは地球に帰ることができない。

 一生、この豚箱同然の赤い醜い星に缶詰だ。

 だが、時々、地球から強制移住させられてきたニューマンの中にはどういったコネを使ったのか地球への帰還を果たした者達がいる。

そしてヘルヘイムから地球へと帰還した人達は《亡国人》と呼ばれている。

ニューマンでありながら地球へと舞い戻り、地球では差別と迫害に、ヘルランドでは裏切者扱いされた。

どちらにも所属できず、どちらにもなり切れない。寄るべき国を亡くした、《亡国人》


噂では地球での生活もそれなりに苦しいらしい。

ヘルランドよりも死ぬ可能性は低いものの、普段から使い捨て要因として危険な仕事への従事を強制される。


目の前の士官も無理やり軍隊に入隊させられた挙句、この豚箱に送り返されたってことだろう。

両親がコネを使って地球に帰ったのに不運なことだ。


「申し出はありがたくお受けします。何かあれば言ってください」


とはいっても部下は疲れている。

俺は、申し出は素直に受けさせてもらうことにした。


「はい。暫くの間はごゆるりとお休みください」


地球軍の士官は虫も殺さないような穏やかな笑みで応えた。

サハリン・ハンザと名乗った将校だが、あまり長生きのできそうなタイプではなさそうだ。



◇◇



「すぅ……すぅ……」


兵士達たちは連日、壁の警備にあたっていた。

疲れのためか固いコンクリートの上であっても心地よさそうな寝息を立てている。

壁の向こうには第二の防壁があり、そこは今、地球軍が警備にあたっている。

さらにその壁を越えれば危険地帯。

いつ化け物共と遭遇しても不思議ではない、死に満ち溢れた世界だ。


それが直ぐ近くにあるというのに、俺の部下たちの肝の太さは大したものだ。

平然と眠っている。

それに引き換え、彼らの指揮官である俺ときたら


(やっぱりベッドじゃないとだめだな)


堅いコンクリートの床の上では全く寝付けなかった。

だからトンネルの壁にもたれかかり、すこしでも疲れを癒そうとしているのだが


「すぅ……すぅ……」


肩に心地いい重みを感じて真横を振り向くと、赤い毛の美少女が俺にもたれ掛かって眠っていた。心地よさそうに、そして安心しきっているように穏やかな寝顔を浮かべていた。


(マリアのやつ、また軍服を)


 惜しげもなく腹部を晒しているばかりかタンクトップの胸元から膨らんだ果実の谷間まで見せている。脂の乗った肌が薄暗い中でも僅かな明かりを反射して艶めかしい光沢を放っていた。


 本当に無防備な奴だ。

 そのうち、色ボケしただれかに襲われかねないぞ。

 ま、マリアを倒せる奴がいるとは思えないがな。



「ぐかぁ……ぐかぁ……」


 と、大きないびきも聞こえてくる。

コンクリートの上に大の字を描いて爆睡している赤毛の青年。カシウスだ。

彼の神経の図太さはおそらく一級品だろう。

少なくとも俺にはまねできそうになかった。


ただ


「クス……」


そんな彼ら、彼女らを見ていると心が和んだ。

少なくともまだ自分たちは生きているし、絶望的な状況というわけでもなかった。

でなければこんなにも穏やかに眠っていられるはずも無い。


「お前のおかげかな」


ペタリ、と真横に聳えるコンクリートの壁に触れた。

コンクリートの技術が無ければ多くの街が滅び、ニューマンは絶滅していたかもしれない。

今となっては有体の技術だが俺たちにとっては不可欠な存在だ。


 

◇◇



髑髏の兵士たちが休んでいる間、地球軍の兵士たちは行動に出ていた。


トンネルの入り口には鋼鉄とコンクリートで造られた監視所があり、地球軍はそこで周囲の警戒を行っていた。そこには今、数人の兵士が待機し、輸送部隊の帰りを待っていた。

また、眼下のゲート前にも数十人の地球軍兵士達が待機している。


「ハンザ少尉、今のところ輸送部隊の姿は見えません。戦鬼の姿も」


と、監視所から周囲を警戒しつつ、無線機を通して報告する。

監視塔からは周囲の状況が良く見えた。

トンネルの入り口周辺は大きな道が走るだけで建物もなければ木々もない。

遠巻きに大きな街が一つあるだけだ。


『そうか。もうしばらく監視を続けてくれ』

「了解」


そこでトンネルとの通信は終わり、再び監視作業に戻る。

双眼鏡をのぞき周囲を観察するが、ヘッドライトの煌きは見えてこない。

あるのはヘルランドの赤々とした夜空とゲート前で待機する兵士達が灯しているライトの光だけだ。


「にしても本当に暗いよな」

「ああ。こんな暗い空の中で双眼鏡を使ってもよく見えない」

「でもよ、なんで輸送部隊の奴ら戻ってこないんだろうな?」

「今回は重要な物資を持って帰るからって、二個大隊も動員したんだろ?」


 二個大隊といえば数にしておよそ1000人を超す。

 それほどの大部隊が先日、トンネルを通って死者の世界へと旅立っていった。

 そして未だに誰一人として帰ってこない。


「なあ、あの噂、知ってるか?」

「ニューマンに化けるセンキの話か?」

「ああ。センキの中に時々、高い知能を持ってる奴がいて、ニューマンに化けては街の中に潜り込み、パンデミックを引き起こすってやつさ」

「今回の輸送部隊の中にもその頭のいいセンキがいたって言いたいのか?」


 よくある噂話だった。陰謀論と大して変わらない。嘘か本当かもわからない、真剣に考えるだけでもバカらしい話だ。


「おい、見ろッ!」


と同じ見張りの兵士が声を上げたのはその時だった。


「ヘッドライトだッ!」


 双眼鏡が遠目にヘッドライトの明りを捉えたのだ。


「本当だ。輸送部隊がようやく到着したったわけか」

「輸送部隊が到着したぞッ!周囲の警戒をしろッ!ゲートを開けるぞッ!」

 

 兵士がゲートの開閉ボタンを押し、重厚なゲートが轟音を奏でながら開いていく。

 その奥に姿を見せたのは仄暗いトンネルだ。

 同時に、監視塔からライトを使って合図を送る。単純なモールス信号だ。


 だが……


「なんであいつら、応えないんだ?」

「光が届かない距離じゃないだろ?」


 しかし、輸送部隊からの返信は来ない。

 怪訝に思った兵士の1人が再び双眼鏡を覗き込み、ヘッドライトの光を注視する。

 すると、軍用トラックの巨躯が飛び込んできた。

 だが、輸送部隊と思っていた集団はそのトラック1台のみであり、他の車両の姿は無い。


「1台しかないぞ」


 出ていく時には百台誓い車両がトンネルを通ったのに、実際に戻ってきたのはたった1台だけ。

 嫌な予感がした。


「なあ、なんか聞こえないか?」

「は?音?」


 兵士たちはいったん双眼鏡から目を離し、周囲の音に耳を傾けてみる。

 すると、何かがざわつくような音がわずかではあるが聞こえてきた。

 ただ、何の音なのかはっきりしない。

 

 しかし、ヘッドライトの明りが近づいてくるについて、音も次第に大きくなる。

 そして再度、双眼鏡を覗き込むと


「そんな……」


 より鮮明に見えるようになったトラックの全容を見て、兵士は凍りついた。


 トラックに何かが取り付いている。

 人型をした何かがトラックの荷台に、フロントに、サイドに。そして何かがフロントガラスを割ろうと叩いていた。


 その時、双眼鏡のレンズは黄色い閃光が三つほど炸裂したのを捉えた。

 それからコンマ数秒のタイムラグを経て


 パンッ!パンッ!

 

 と銃声が耳に飛び込んでくる。

 誰かがフロントガラスに取り付いていた何かに向かって発砲したのだ。

 黒い影が道路へと転がり落ち、それを目で追った兵士はトラックを負う無数の黒い影と赤々と光る眼を見つけた。


「センキだッ!」

「総員、戦闘準備ッ!」


 監視塔から身を乗り出し、真下の兵士達に敵の襲来を告げる。

 だが、それだけでは足りない。


「少尉に報告しろッ!」

「ゲートを閉じるんだッ!今すぐッ!」


 ゲートを閉じようと兵士達が走りかける。

 が、突然、その足が止まった。


「ひッ!」

「なにしてるッ!」

「早くゲートを閉め……ろ……」


 同じように振り返った地球軍の兵士たちは凍り付いたように動かなくなる。

 目の前の光景に処理が追いついていないためだろう。


「アァ……アア……アアァァ……」


 彼らの後ろに立っていたのは一匹のセンキだった。

 その格好は深い緑色の軍服に、金属製のプロテクターを纏っている。

 灰色の肌に、全身に塗れている真っ赤な血。

 眼は白目の部分が全て黒に染まり、瞳は赤く煌いている。

 そこまでなら普通の戦鬼といえるだろう。


 だが、彼らの前にいる戦鬼は四肢が異様に長かった。

 胴の長さから推測するにもともとの身長は1m80から90だが変異した今では3m近くにまで伸びている。

 

「なんだ、こいつ……」

「いったい、どこから……」

「なにしてるッ!撃てッ!撃てッ!」

 

 地球軍の兵士たちは一斉に銃を構え、引き金に指をかける。

 しかし、俊敏さでは相手が上手だった。


「ウアアァァァァァッ!」


 戦鬼は奇声を上げながら長い腕を横殴りに振った。

 変異によって強まった腕力が地球軍の兵士たちの首から上を引きちぎった。


 吹き上げる血の噴水。

 だらりと脱力した3つの死体がその場に倒れ、猿者はまだ暖かな血肉をむさぼる様に食らいついた。

 その胸元には《髑髏》のエンブレムが血に塗れながらも輝きを失っていない。



 それから程なくして、ゲート前で無数の銃声が鳴り響いた。

 センキに追い立てられ、取り付かれたトラックがスピードを緩めることなくゲートへと殺到してきたのだ。

 例え仲間であっても化け物ごとトンネルに突っ込ませるわけにはいかなかった。


「撃てッ!撃ちまくれッ!」


 兵士達が一斉に銃撃を開始して、トラックの足を止めようとする。

 だが小銃の弾丸では暴走する勢いを止められない。


「なんでゲートを閉めないんだッ!」

「くそ、間に合わないッ!」


 監視所は既に血の海になっているが下の兵士達にその事実を由は無い。

 そしてヘッドライトの明りはもう目の前にまで迫っていた。

 



 数秒の後、大きな爆発音がトンネル内に響いた。

 燃え盛る炎の煌めきが仄暗い闇を禍々しく照らしだし、その中にゆらゆらと蠢く無数の影を浮かび上がらせる。


「ア……アァァ………」


 燃え盛る炎を超えて、異形の化け物たちがトンネルへと入り込む。


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