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7.初めてのダンジョンに来ています

 圧倒的な晴天、雲は焼け死んだこの空の下、スイイは村はずれにあるおどろおどろしい洞窟の前にいた。


「集合時間あいつら間違えてるんかなぁ」


 辺りを見渡しても茂みがあるぐらいであの2人の姿は見えない。

 はあ、とため息をついて地べたに座り込み、持ってきた武器を眺めた。


 カルイナイフ、名前の通りすごく軽い。その薄さは業界最高峰で、剣先を指で弾くとビョンビョン音を立て波立つぐらいだ。


「にしてもなんでこんなの買ったんだろうな」


 買ってはや二日目、すでに後悔し始めていた。

 店頭では腕っ節のあるオーナーが果物を切る実演をしていたが、果物が切れたから魔物が切れるわけではない。

 こうもスイイが気に病んでいるのは後にも先にも心細いのだ。

 それは武器だけじゃない。鎧だって、お金がなかったからケチって、厚手のティラノ皮が急所にしかないものにしていた。


「待たせたなボーイ」


 ようやく遅刻1号がやってきた。それも神々しく光を放つ金色の鎧を見にまといながら。


「いやぁ、鎧ってヘビーで時間がかかってしまったよ」

「お、お前だけいい装備しやがって、ふざけんな!」

「まあまあ、ミーはこれでも一応ダンジョンでハイコムギを育てていたというわけさ。まあ、その階層は魔物駆除済みで一度も使わず仕舞いだったけどね」

「あれ、もしかして使うと思って買わされたやつ……?」

「……古傷は開くと痛い、これ以上は追求しないでくれ」

「なんかごめんな」


「ごめんなさーい。遅くなりましたって、なんか暗くないですかぁ?」

「まあ、なんというかね、うん」

「ところで、見てくださいこれ!」


 センリッカがくるんと一回転してドヤ顔を決める。


「えっ、何を見るの?」

「装備ですよ、装備!」

「ああ、このもっさりした魔導師ローブか、僕はいつもの方がフリフリして可愛いと思っ……あ、ごめん!」


 スイイの心無い言葉にセンリッカの拳は固く握られていた。


「な、殴らないですからね! スゾーン殴った時にもう殴らないって誓ったんですから」


 手はプルプル震えている。あともう一押ししたら動き出しそうだが、そんな危険なことをスイイはするはわけもなかった。


「レディは美しい、どんな服を着てもやっぱり生える、絶世の美女だ」


 どこかでプツンと音がしたような気がし、スイイは構えながら辺りを見渡す。

 発見した。その音の主はセンリッカ、どうやら一線を超えてしまったらしい。


「どんな服でもって言われて嬉しいわけないですから!」


 ヒュンと風を切る拳はそこらに自生していた木にぶち当たる。


「ひえっ」


 スイイが思わず驚いた声を上げる。

 センリッカに殴られた場所には小さな拳が跡となって残っていたのだ。

 前々から思っていたが、ありえないパンチ力である。


「れ、レディ落ち着かないか。ミーが悪かったから、その拳をもう下ろしてくれないか……」

「スゾーンさん、二度と私を怒らせないでください」

「いや、そんなのスゾーンができるわけないだろ?」

「ボーイ、ひとつ言おう。ミーは命がけだ。できないなんて弱音は吐いてはいけないんだ」


 スゾーンの目は本気のそれであった。確かにセンリッカの攻撃を直に食らえばただでは済まない。と言っても、一度ワンツースリーのコンビネーションを受けているスゾーンだけあって、命がけというところに説得力が不思議とないのが怖いところだ。


「まあ、ここで遊んでいるのも何だし、そろそろダンジョンに行くか」

「ですね、早くハイコムギ見つけて看板娘ですよ」

「さてと、ミーたちの初陣を華やかに飾りますか」


 3人はダンジョン入り口にいた門番にライセンスを提示し、いざ洞窟の中へと軽快に足を運んだ。


「これまったく見えないぞ」


 入って早々にスイイが早々に根をあげた。


「どっかにライトとかあるんじゃない?」


 センリッカが壁を触るが、当然そのようなものは存在しない。

 仕方なく3人は進むことにした。が、入り口のか細い光では数十歩歩いただけで限界となってしまった。

 そこからは壁を頼りに歩くだけであった。なんでもダンジョンは暗い階と明るい階があるという話である。ここさえ乗り切れば大丈夫なのだろうと、全員が思っていた。


「いてっ! うわっ、冷たっ!」

「センパイ大丈夫ですか? なんかここ湿っぽいですね……。さっきからローブが濡れて寒いですよぉ」

「水滴……水場……女神がいる湖……女神に会えるかもしれないとはミーたちはラッキーかもしれないな」

「いや、ないからそんなの。あっても普通の湖だから」


 ただ前に歩くだけでは状況は改善されない。

 数え切れないぐらい岩でつまずいていた。特に先頭を歩いているスイイは後ろの2人との倍である。安物の靴先がほころんでいるのが見なくてもわかる。


「センリッカは魔法使いだろ、何かできないのかよ?」

「うーん……あ、できたかもしれません」

「ナイスレディ! 早く光を照らしてくれ」


 センリッカは暗闇の中、木の杖を高く振りかざした。


『大自然の神よ、我が声が届いているならば、闇を打ち消す力を我に与えよ』


「…………」

「…………」


 2人の期待をよそに何も起こらない。

 このままではセンリッカはスゾーンの戯言のようなわけがわかるようでわからない言葉を言っている変人になる。


「あれ、おっかしいですねえ。もう一度言いますね」

「今度はちゃんとしてくれよ」


『大自然の神よ、我が声が届いているならば、暗き闇を打ち消す力を我に与えん』


 センリッカの呪文に神が答えたのか、杖の先端から青白い光の玉が発生する。

 それが数秒でセンリッカの顔に近い大きさにり、刹那音も立てずに弾ける。

 するとあれだけ暗かったダンジョンがまるで昼間のように明るくなった。


「やりましたよ!」


 センリッカは思わず小さくジャンプ、そして大きなガッツボーズをとった。

 だが、他の2人は感嘆の声をあげなかった。


「いや、やっちまったっていうのが正解かもな」

「オー、ミーたちは何てとこにいたんでしょうか」


 なぜ、喜ばなかったか、それは天井でにあった。

 普通の洞窟ならば天井も地面と同じ岩でできているのが常である。そして、水滴が落ちる天井なら、つららのような岩が露出しているはずだ。

 しかし、そこは黒い雲のようなもので覆われている。その雲は雨を降らすかのようにピチョンピチョンと水滴を垂らしていた。


「一体どうしたんですか? 何もないじゃないですか」


 センリッカは未だその正体に気づいていない。しかし、これには気づかない方が幸せだ。


「静かに武器を取れ、あれは全部コウモリだ」

「えっ!? きゃああああああ!」


 バササササ!!


 センリッカが叫び声をあげた途端に黒い雲は分裂、個々のコウモリとなって3人を襲う。


「うおおおお!」


 スイイはナイフを振り回すが、刃が揺らめくせいでカスリもしない。

 頭によぎるのは死の一文字。ダンジョンに入る前も思ったが、再びこのナイフを買ったことを後悔していた。


「きゃあああああ」


 センリッカはというと木の杖を自慢の力で振り回していた。スイイと違い、時折ボゴンと鈍い音を立てコウモリを四散させることはできるが、数が数である。いくら殺してもキリがない。


「す、ストップーー!」


 スゾーンはなすすべもなくコウモリの餌食となった。


「ぐっ! う、うわあああ!」


 スイイが隙を突かれ、コウモリの牙が服を割き、皮膚まで切り刻んだ。途端に落ちる攻撃速度、あとは言うまでもなくコウモリに襲われるがままとなってしまった。


「セ、センパイ、私、もうダメです」


 時同じくしてセンリッカも力果てる。

 鉛のように重くなった杖は持ち上がらず、待っていたかのようにコウモリが攻撃を仕掛けてきた。


 初めてのダンジョン、文字通り3人は全滅してしまった。

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