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5.ティラノに乗って雑談しています

 ティラノはという乗り物は非常に便利である。


 数十年前までは平地ロバとかいうノロマなロバを乗り物としていたが、それと比べると数倍は早く走れる。

 まるで今のセンリッカの速度とスイイたちの速度の差の比ぐらいだ。まだ走り始めというのにセンリッカの姿は平原の奥で点になっている。いったいどれだけの速度を飛ばしているのか定かではない。


 ちなみにティラノが一重に平地ロバより優れているわけではない。ティラノは気性が荒いため、このように乗り手によって大きく速度が変化してしまう(センリッカの場合は服従させて強制的に速度を上げているのだろうが)。

 まだティラノが乗り始められた頃は、暴走して目的地に着かなかったり、突然振り落とされたりとかなりひどかったらしい。そのせいか、成人しないとティラノに乗ってはいけないという条例が作られたほどだが、今は形だけのものに成り下がっていた。

 その理由は、ティラノ運輸で提供されているティラノは特別な調教を施しているため、一定の速度で走ることができるからである。この調教方法は極秘で、噂では拷問まがいのことをしていると囁かれているほどである。


 試しにスイイが手綱で合図をしてみたが、センリッカのようには速くならない。

 これも調教の賜物なのだろう。なにせ、手綱を引かれるたびにティラノの皮膚からじんわりと汗が出ているぐらいであった。やはり調教は拷問であることは間違いなさそうである。


 ついにセンリッカの姿が視界から消え、追いつくことは不可能となる。

 仕方ないのでスイイは伸びてしまっていたスゾーンを起こし、ゆっくりと隣街へ向かうことにした。


「ミーはいったい……うっ、顔が痛い」

「ああ、それはセンリッカがやった」

「本当かい? ミーをノックアウトするなんて、レディはエルフ離れした怪力の持ち主じゃないか」

「確かにそうかもな」

 

 いくらティラノが早くなったとしても、隣街に着くまでは結構時間がかかる。

 暇つぶしと思ってスゾーンと会話するも、話がかみ合わない。それぐらいなら話さないほうがましである。


(何か面白いことあったっけなぁ……)


 スイイが記憶から最近のことを掘り返していると、一つ気になることを思い出した。


「そういえばワールドティラノにポータルが壊されたってどういうこと?」

「そうか、ボーイはフロンティアしたことがないから知らないのか。なら、教えようじゃないか」


 そしてスゾーンは淡々と語り始めた。


「ワールドティラノは今ミーたちが乗っているティラノの亜種ということは周知だな。じゃあなぜワールドティラノと呼ばれているか、これを知るにはまずポータルがわからにことには話にならない。ボーイ、ユーはポータルが時空転移石で出来ていることを知らないひよっこ……ではないよな?」

「……僕がひよっこで悪かったな」


 拗ねた声でスイイが言とスゾーンは大きなため息をついた。


「じゃあ時空転移石を説明しよう。これはかつて、くすんだ瑠璃と呼ばれたクズ石だったんだ。しかし、研究者がリサーチしたところ、なんと石の中に魔力が込められていることがわかったんだ」

「へー、すごいなぁ」

「だろぉ? そ、し、て、その魔力は石の形状を保つために空間を繋げていることが判明。そうだな、ミーとセンリッカのように見えない赤い糸でつながっでいると思えばいい」

「へー、ほー」

「そこで、2つに割り、一方をダンジョンに、もう一方を地上に置くと、2つの空間をつなぐことができたのさ。これがポータルの始祖、かち割り石さ」

「あー、はいはいなるほどね」

「しかし、問題が発生したんだよ。ダンジョンにいるティラノは細かく嚙み砕くために胃に石を入れる習性があってね、かち割り石を食べてしまったんだ」

「え、まじで」

「トゥルーさ。その結果、魔物が1つの階層から抜けれない常識をこのティラノは破ってしまったのだ。これこそがワールドティラノ、ミーの宿敵さ」

「あー、眠っ」

「今のポータルはティラノが食べれないよう金属やらで巨大化させて、ポータルと呼ばれるようになった。はい、説明フィニッシュ!」

「お、もう着きそうだな」

「ははは、ボーイ、さてはちゃんと聞いていなかったな?」


 そんなこんなでスイイたちは昼過ぎに隣街に到着したのであった。

 ついて早々行く場所はティラノ運輸、借りたティラノを舎に返す手続きをしなければならない。

 その後は、暴走してしまったセンリッカの探索。


 どこに行ったかなんて手がかり一つない状況で、手間がかかって面倒かと思いきや、ティラノ運輸の待合室の隅っこの方で見慣れたエルフがうずくまっていた。


「もう、私ダメかも知れません。弟の前で暴力ですよ。殴ったんですよ……家では健気な姉だったのに……」


 スイイはもちろんセンリッカが誇張しているとしか考えられなかった。500歩ぐらい譲れば子供、と言っても弟が生まれたての時ぐらいは健気な姉を演じていたのだろう。


「な、何よセンパイ」

「いやあ、なんでも。それよりスゾーンに謝らなくていいのか? 危うく再起不能にするところだったんだぞ」

「ミーは別に構わないさあ。バラにトゲがあるようにレディにトゲがあってもなんらミステリーではないのだよ」

「なるほど、意味不明だ」

「ともかく、フロンティア組合に行こうじゃないか。ついでにそこでランチでもしようじゃないか」


 スゾーンはクズであるが紳士でもあった。こんなに心が広いならさぞ安心しきった顔をしているはずと、スイイはセンリッカを見ると真逆の苦毛虫を噛み潰したような顔をしている。


「す、スゾーンさん。私が、悪かったです。急に殴ってごめんなさい。もう二度としません」


 そう、センリッカは言い知れない屈辱を味わっていた。自分よりもはるかに劣る存在であるスゾーンが、一つ次元を隔てた菩薩であること、つまりスゾーンはセンリッカにとって都合のいい歪んだ鏡ではなかったということだ。そのせいでセンリッカの正しい姿、暴力的で暴言癖があって暴走しやすいことが浮き彫りになる。

 悔しいのだ。スイイに続き、見下せる仲間をせっかく見つけたのに、実は反射した水面を見ていただけで見上げないと顔が見れないことに。


 それが結果として、センリッカから出るはずのない謝罪の言葉を引き出したのであった。


「すげぇ……」


 スイイは尊敬する眼差しでスゾーンを見つめたのであった。


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