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4.また公園にいます

「えー、そこの組合はダメです。行くんなら別のとこにしてください」


 翌日、無職3人はあの公園に集った。しかし、いざスゾーンが行き先を告げるなりセンリッカが駄々をこね始めた。


「レディ、この村の周辺にはあそこの街のフロンティア組合が一番近い。何をそう嫌がる理由があるんだ?」

「嫌なものは嫌なんです!」


 こうなったセンリッカはテコでも動かない。横のスーパーの社員の方が給料がいいことを知った時に、店長に値上げ交渉をした時もこれだ。三日間もの間しかめっ面で接客して店長に根をあげさせたぐらいだ。


 それにしても、何というか、始まってもいないのにグダグダである。


「ボーイは心当たりがないかい?」

「僕もセンリッカのことよく知らないけど」


 ふとスイイに昨日の話の内容が蘇る。


「ああ、もしかしてそこで身内が働いているんじゃないか?」

「ギクー! チ、チガイマスヨー」


 ここまでわかりやすい嘘は珍しい。

 いくら口笛吹いても、それがどんなにいいメロディでも、片言のような返事をした時点で誤魔化せられるはずがないだろ、とスイイは思っていた。


 そう、スイイは思っていたのだ。

 スゾーンは思ってなかった。


「うーん、違うのかぁ」

「違わねぇよ! 図星で大当たり! なんでちがうってなるんだよ!」

「ええ、ファミリーが働いているのか!? アメージィング!」

「驚きたいのはこっちだよ!」


 もはやスイイはツッコム事しかできない。センリッカもマイペースだったが、スゾーンはその比じゃない。今日話し始めてからまだそんなに経っていない。なのにスイイの体には気だるさの気配が姿を現していた。


「レディのレディが働いているのか……。イエス、わかったぞ。A級看板娘のミミナ、これがレディのレディだな」

「ななな、なんでわかるんですか!」

「ミーは一度会ったレディの顔と名前と年齢と服装とほくろの数は絶対に忘れないのさ」


 センリッカ、ドン引き。

 スイイ、ドン引き。


 ここまで自慢してはいけない特技があっただろうか。顔と名前と年齢を覚えるのは確かにすごい。服装なんて才能の域だ。ここまでならいい。むしろなんでこれ以上を言った。

 ほくろの数を覚えられて喜ぶ女性なんているはずがない。

 不幸な事に聞いてしまった以上、これからスゾーンが女性を見るたびにほくろを数えていると脳内が置換してしまう。見られた女性が不憫でままならない。


「さすがにほくろのはジョークさ。イッツアオークジョーク」


 スゾーンは両手を広げて、ミーってすごいでしょ、と言わんばかりの笑顔を作る。

 スイイもセンリッカもこれほどまでにサンドバックにしたい笑顔は見た事がなかった。


「さあ、エブリワン。そう決まれば行くか」

「え、本当に行くんですか?」

「ミーは嘘なんか言わない」

「さっき言ったくせに」

「あれはジョーク、ライとはまったく違う性質を持つのさ。さあ、今度こそ行くぞ!」


 目に余るぐらいのスゾーンの行動力に当てられた2人はあれよあれよと流されるがまま公園を出て、村の入り口にあるティラノ運輸まで連れて行かれてしまった。

 ここ、ティラノ運輸は『ティラノ』と呼ばれる二足類の魔物を使い、街と街、村と村を繋いでいる大企業の一つである。決まって村や街の端にあり、灰石でできた質素でこじんまりとした営業所に大きな舎がある。

 その大きな舎で肝心のティラノは買われている。乗る種族ごと、引く荷物ごとに体サイズの異なる個体を用意しているため、非常に大きい施設になっている。

 スゾーンはオークであるため、大柄で縞柄が特徴のシマティラノ、他の2人は小柄のナミティラノをレンタルした。


「今係のものに手配しました。お手数ですがレンタル料金は前払いとなっていますのでご了承ください」


 サッとスゾーンがお金を出す。ついでに「レディだから色をつけといたよ」なんていらないことまでしている。たとえオークだろうがエルフだろうが、きっとドワーフでも女性にカッコをつけたいのだろう。

 外に出ると、小柄なエルフがティラノ三匹を引き連れて待っていた。


「え、えーーーッ! なな、なんであんたがこの村にいるのよ」


 センリッカが突然叫び出す。あまりのことに横にいた2人は蒼然。持病で奇声をあげるのは本当だったのかもしれない。


「あ、リッカ姉ちゃん!」


 そこにいたのはセンリッカの弟、ターキだった。

 しかし、別に弟が別に村にいたからって悪いことではない、とスイイは思ったが文句を言われそうなので黙ることにした。


「僕は研修中だよ、まずは仕事の少ない……あ、これ言ったらダメなやつだった。まあ、とにかくそういうことさ。ところでその2人は誰なの、リッカ姉ちゃんの知り合い?」

「ま、まあ、知り合いっちゃあ知り合いね。うん、知り合いよ」


 姉、動揺す。センリッカとしてはこれ以上会話を続けることなく、さっさと村を出たいところなのに、スゾーンとかいうアホウが首をつっこむのであった。


「ノンノン、ミーたちは知り合いではなくパーリィ、今からフロンティア組合に行くんだ。なあレディーー」

「や、やめてえええ!」


 センリッカが恥ずかしさを隠すあまりワンツー、そしてスリー! スゾーンはその場で3回転してダウンした。


「すげぇ……」


 スイイが思わず感心してしまうほど連携である。なにせ、感情的になっているのに関わらず、体の芯がぶれない。それに殴る直前まで綺麗に脱力し、インパクトの時だけ力ませている。まさにワンツースリーの理想の型であった。


「ね、姉ちゃん……」

「な、なんでもないからもう聞かないで!」

「は、はい!」


 センリッカは弟から手綱を奪って1人ティラノに乗り爆走。スイイはセンリッカとの弟と協力してスゾーンをティラノに無理やり乗せると、その後を追っていった。


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