3.喫茶店で話し合っています
同日、公園で子供たちが増えたため3人はから逃げるように喫茶店へと行った。
「とりあえず何か頼みなよ、ミーのおごりだ。マスター、ミーは蟹氷とアイスコーヒー」
「お言葉に甘えさせてもらいまーす。 私はベリーベリーケーキとキャッスルパフェに……この生果実のスムージーください」
「僕はミルクの実のアイスでお願いします」
「センパーイ、いいんですか遠慮なんかしちゃって。たかれる時はたからないと」
「たかるって、本人真横にいるじゃん」
センリッカは全くぶれることはない。彼女曰く、甘いものは食べて貯めるのが常識らしい。百歩譲ってそれが常識であったとしても、遠慮をしないのは間違いなく非常識である。
「ミーは失業保険があるからお金がダボついているんだ。スイイくんも遠慮なんてしなくていいんだよ」
スゾーンから本当にいらない気遣いを受けたスイイはとてつもない嫌な気持ちに襲われた。
同じ無職でこの先のお金とか心配なはず、なのにどうしてこんなに羽振りがいいのか。またしてもスイイは疑問を覚えた。
「ほーら、センパイ。言った通りじゃないですかー。さっすがスゾーンさん、太っ腹ですね」
「はっはっは、レディにそんなこと言われると運命を感じるじゃないか」
「冗談でもそんなこと言うのやめてください!」
その疑問は結局、色恋でした。もちろんセンリッカの運命の彼(妄想)とかけ離れていたのだから一瞬で振られたが。
その後スゾーンのどうでもいい話を聞いていると席にスイーツとドリンクが運ばれてきた。
まずは蟹氷。凍らせた蟹とミルクを同時に削ることで赤と白のマーブル模様のかき氷の山が作れる。もちろん殻ごと砕くので強烈な潮の香りを放つ一品である。
次にキャッスルパフェ、この地域で存在した吸血鬼の城をモチーフにしたパフェらしい。城をかたどったチョコアイスにイチゴのジャムが垂らしてある。そこにフレークやらクッキー、スポンジなどをまぶしてコミカルにしている。ぶっちゃけた話、蟹氷の方がよっぽど吸血鬼の残酷さが出て吸血鬼らしいのは誰も言わないお約束だ。
そしてミルクの実。ダンジョンでお世話になるポピュラーな飲み物である。この店で一番安いメニューだ。
残りの品も運ばれてきたのでみんな食べ始めた。
「あのー、んぐ。ダンジョン行くってそれ冒険者ですよね?」
袋ネズミのようにめいっぱい食べ物を含みながらセンリッカは尋ねる。
育ちが良くないのかと疑うぐらい目を疑うぐらい行儀が悪い。本当によく看板娘になりたいと言ったものだ。
「一般的にはそういうけど、ミー的にはフロンティアの方がしっくりくるかな」
センリッカがすごくどーでも良さそうな顔をしている。それはスイイも同じだ。
「ユーたちはもちろんフロンティアしてくれるよね?」
「だから私はいーやーでーす」
「どうしてだい? 看板娘になりたいっていって言ってたのは嘘かい? ハイコムギがあればまたトミナガで看板娘として働けるんだよ。ここはフロンティア以外に選択肢はないはずだけどなぁ」
自分が魔物を殺せないのを棚に上げてよくもまぁこんな綺麗事が言えるとスイイは感心してしまった。
だが、いくら説得しようがセンリッカは行かないだろう。スゾーンと話し始めてからはや一時間あまり、まだ一度もスゾーンに対していい返事をしてないのだからな。
「確かに私が看板娘をするためには冒険者が手っ取り早いですね。嫌ですけどフロンティアしましょう」
「え、えええ!」
まさかの意気投合。センリッカは今日だけで何度手のひらを返したのだろうか。
「じゃあこれでミーたちは正真正銘のパーリィだ。とりあえず明日フロンティア組合に行こう」
「善は急げと言いますもんね。頼りにしてますよ、センパイ」
さも当たり前かのようにスイイも入っている。もちろん、行くなんて返事はしていない。
「ちょっと僕はまだ行くなんて」
「フロンティアでイケイケ、いいじゃないか、志が高くて」
「別にイケイケとか目指してないから!」
結局のところ、スイイは断る姿勢を変えなかったが、スゾーンに押し通されてダンジョンに行く羽目になってしまった。