四千五百分の一
ノリと勢い!
約4500人。
一年間に死亡する事故の犠牲者の数だ。
画面の向こう側での死亡事故だなんていつでも他人事だった。まさか自分が当事者になるとは。
享年22歳。特に残した偉業なし。充実していたかと言われれば微妙なところだが悪くない人生だった。
目の前のトラックが自分にぶつかるまでの数瞬。こんなに頭が高速回転したのは人生で初めてかもしれない。そんなことを思っていると自然と過去のことを色々と思い出す。生まれて、保育園に入って、小学生になって中学生になって高校生になって大学生になって就職して。
過去のことを一通り羅列してみるとものの見事に大した思い出がなかったことに気づく。寂しいもんだ。
別に当時は寂しい人生だなあ、なんて思ったことはなかった。しかし今考えてみると学生時代の友人で今も付き合いがあるやつは皆無だ。親友といえる人間は俺にはいなかったらしい。
灰色の青春というか透明無色といったかんじだろうか、灰色の方が目に見える分幾分マシな気がする。
きっとこんな中途半端というかなんの面白みもない人間だからこんなところで事故に遭っちまうんだなと思った。
それにしても。
いくらなんでもこのトラック遅すぎやしないだろうか、いつまでたってもぶつかるどころか近づいてきている気すらしない。
実はトラックは停止していて俺は助かったんじゃないかと思って試しに体を動かそうとしたが動く気配はなかった。なんだっていうんだ。
人生最後の数瞬が人生で一番遅い時間だとは、これは神の不運に巻き込まれた人間へのせめてもの慈悲なんだろうか。しかしもう特に思い出すことはない。
自然と目が閉じた、やっとあの忌まわしきトラックも働いたということか。思い残すこと……特になし。
あぁそういえば、一度だけ青春らしく恋をしたなと今更思い出した、最初から最後まで一方通行だったけど。なんだか悲しくなってきた。
そのことを思い出したらさっきまでのように死ぬことに「まあいいや」だなんていえない自分が出てきた。なんとうかとことん手遅れだ。もう死んじゃうし。
もしも、死後の世界があるんだったら。
そこであの娘に告白してついでに親友も作ろう。
なんでだ、いつまで経っても思考が途切れない。気づけば体の感覚が戻っていた。特に痛みはなかった。ついに死後の世界に到達したのか。
人類未知の世界、地獄か天国か。はたまた予想のつかないような異世界だろうか。
ついに知る時がきたのだ、さあご開帳。
目を開けたらあの娘がいた、例の好きだったあの娘だ。
まだ、告白の準備とか出来てないんですけど。ドギマギしているとあの娘が口を開いた。
「転校してきました、後藤 藍です。よろしく」
そう後藤さん、彼女は転校生だった。
「えっ、なんで」
思わず口に出てた俺がいた。痛いほどの視線を感じた、見渡してみれば人が一杯いた。というか俺が当時いた教室だった。
どういうこっちゃ。
俺を掻き乱す元凶の彼女はといえば。
「誰でしたっけ」などと言ってのける。
「オレだよ!オレオレ!」そう叫びたくて仕方ない気分だった。というか口に出していた。
死ぬってよくわかんねえ。