勇者が升職過ぎて帰れない
「リア充爆発しろ。」
なんかイチャラブしながら世界を滅ぼそうとしているDQNな魔王を取り敢えず爆発させる。勿論相手の息はない。何気にヲタクって使い用によっては升職ではなかろうか。
リア充爆発しろ;リア充が爆発する。相手は死ぬ
うん。本当相手によるけど最強の呪文である。万能升職の勇者と合わさり最強に見える罠。しかし相変わらず元の世界には帰れないという…いかにして世界との結びつきを切り離して帰るか。未だに見つかっていない。
魔王という強大な敵を倒す為に不死が基本スキルな勇者にヲタク隠れ基本スキル「升」で不老に。そんな不老不死な俺はまったり研究できるわけなのだが、いい加減魂が枯れ落ちそうである。懇意にしていた王竜も老い衰え、知り合いを何人も看取ってきた。いい加減悟りすら開けそうだ。
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いつも通り魔法の研究に勤しむ俺の所に慌ただしくやってきたのは最近子供自慢ばっかりしている王竜陛下…の部下であった。
「魔術師長、大変です!」
と顔を青ざめながら飛び込んできたそいつは部屋に入ると同時に思いっきりこけた。これはおそらく彼がドジっ娘属性を持っているわけではなく単に部屋が本と紙で埋め尽くされていて、うっかり足の本か何かに躓いたのだろう。正直すまないと思っている。だけど一旦研究に没頭するとこうなっちゃうんだよね…。
「どうしたんだ?」
見た目では相手の方が年上なのだが、不老な俺のほうが倍以上年上なのである。敬語を使わなくなって久しい…帰ったら敬語を覚えることから始めるべきかもしれない。
「帝国が異世界人召喚をしました!」
…なんだって?
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帝国は俺他5人を召喚した所だ。
召喚理由は、不定期に現れる魔物達をまとめあげ、人類を脅かそうとする王…通称魔王の討伐だ。しかし、最近現れたDQN魔王は冒頭の通り俺が爆発させ、討伐成功の報告も既に各国に通達したはずなのだが…。何故召喚したんだ?
「おそらく師長が前に言っていた…。」
俺が言っていた?はて、何か言っただろうか。回想してみよう…
「えー、イージーモード?きんもーい、」
これじゃないな。
「最高にハイってやつだああああ!」
これでもないな。
「選んで殺すのがそんなに上等かね。」
私は何カサレタヨウダ。
「や ら な い か。」
だが断る。
「もう何も怖くない。」
死亡フラグは投げ捨てるもの。
「…思い出せないな。俺も年か。」
どうでもいいことしか思い出せないな。何か言ったかな。
「ほら、異世界召喚で理想の嫁を出すとかなんとか。」
…俺のログには何もうつっていないな。そんな事言ったっけ?まぁ、そんな事言いそうなの俺ぐらいだけと。というかもしかしてそれやったの?帝国ってなんというか…存外阿呆の集団なのか?
「と、いうかさっさと送り返せよ。」
現在協定で異世界召喚には宣言がいる。宣言が受理されていないのに異世界召喚した場合、速やかに元の世界に返さなくてはならない。
「それが…。」
呼び出された理想の嫁に各国の王、王太子などが一目惚れ、本人は帰りたがっているそうなのだが返させてもらえないのだそうだ。勿論これについても協定があって召喚された人間が嫌がれば返さなくてはならない。しかし前述の通り最高権力者共が軒並み惚れ込んで返さないらしく(さらに実力者は大抵惚れ込んでいるという噂もあるらしい。どういうこっちゃ)、ついに俺に声がかかったらしい。…俺も惚れたらどうするんだろうね。
入国許可証やら大使証明やら持ってさぱっと転移することにする。どんな人物か知らんが俺が責任持って送り返そう。惚れたらごめんね☆
「さて、早速噂の理想の嫁とやらに会ってみますか…って、あ?」
帝国の城内までさっさと転移したのだが、様子が可笑しい。なんかこう、慌ただしいというか…メイドやら貴族やらが走り回っている。走ったりするのははしたない、優雅ではないと城内では基本禁止であるのに一体何が…
「あ、そこの人危ない!?」
「ファ!?」
背後からの急な衝撃に思いっきりよろけて倒れてしまう。最近戦闘とかめっきり縁遠い生活をしていたから(え?魔王討伐?あれスナック感覚だったからノーカン)色々鈍っているな…と思いながら頭を床に打ち付けた。受け身とか久しくやってないっての。
「ご、ごめんなさーい!?大丈夫ですか!?」
大丈夫じゃない、問題だ。
いや全然平気だけども。耐久力カンストをなめないでほしい。具体的に言うとダメージは0。痛みも感じない。とりあえず起き上がってぶつかってきた人物のほうを向いた。
白い肌。黒い髪。セーラー服を着た…
「何やってんすか、先生。」
「ひ、久本くん…?」
高校時代の担任の先生だった。
え、もしかして召喚されたの先生なの?てかなんでいい年して制服着てるんだ?確か32だよね先生?
「久本くん、私、私ぃ…。」
先生曰わくこの格好は出来心だったそうな。詳しくは聞かないで欲しいと半泣きで言われた。事情はわからないが、人には誰しも触られたくない黒歴史がある。そっとしておこう。
事情を聞いた所、いきなり召喚されて特に何もしていないのに惚れられて結婚を迫られて今に至るのだそうだ。…ほむ。
「カナエ!」
と話している間に帝国第三王子の…なんとか王子が走ってきた。さらにそれを聞きつけたらしいメイドやら何やらの、誰それをお呼びしろ!などの声が聞こえる。なんだかややこしいことになってきたぞ…帰っていいかな?先生服の裾持たないでくれ、逃げられないじゃないか。
「ヒサモト導師、その人をこちらへ渡してくれないか?彼女は私の大切な人なんだ。」
うむ、と頷いて先生を引き渡そうとしたら、凄まじい勢いで首を振りながら拒否している。さらに耳を澄ませば小声で絶対渡さないでくださいと何度も言っているのが聞こえる。
名も知らぬ王子よ、その大切な人から全力で拒否られているぞ?
「カナエ!」
追加キター(・∀・)
見慣れた奴から正直顔すら知らない奴までわらわらやってきている。知っている奴は全員大物(王様とか)だしそれ以外も着ている服から結構な身分と分かる。これ全員引っ掛けたのか?先生。実はかなりやり手の悪女と言われても俺は驚かないぞ。
「ヒサモト導師…」
目で語られても俺は分からんぞ。口があるならちゃんと言葉に出せ。言わんと伝わらんぞ。そして先生、俺を盾にしてガタガタ震えないでくれ。一応教え子だろ、俺。…まあ、でも気持ちが分からないでもないし、助け舟を出そうか。
「彼女から話を聞いた。彼女は帝国の異世界召喚で召喚された人間で間違いないな?しかし本人から帰還したいとの旨を聞いているが、何故未だ送り返していない?ついでに言うなら今回の召喚の宣言がなされた、との報告が届いていないのだが…宣言はしたのか?」
周りを睥睨しながら言えば、何人か物言いたげに口を開くが、こちらを見ると顔を青ざめさせて俯いて黙ってしまう。別に話してくれても構わないぞ?俺、怖くないよー。…異議なし、と。意気地なし共め。
「反論はないようだな。では帰還魔法は俺がすぐ執り行おう。安心するといい。」
何人か食ってかかると思ったんだけどなー。見込み違いか。食ってかかる気概が…もしくはそれ程愛しているとか言うなら一緒に先生を説得するのも吝かではないのに。皆ある程度大人なんだなー。
「…カナエ、は。」
ぽつり、と誰かが呟いた。こいつは…確か宗教国家の次期教皇じゃなかったかな?お前確か婚約者いただろ、なにやっているんだ…。真実の愛()にでも目覚めたのか?
「カナエは、そんなに元の世界に帰りたいのか?こちらに居れば、何不自由ない生活を約束する。だから、だから…。」
押しが弱いけど言ったー(・∀・)
先生、超☆告られてるよ!?俺の記憶が正しかったら先生まだ独身だよね、行かず後家だよね?選り取り見取り選びたい放題だよ!こっちで幸せ掴むのもありだよ!…え?お前はどうなって欲しいんだって?帰って欲しいんじゃないか?いやいや。俺は楽しそうなことになって欲しいと心から思っているだけで先生の意志は尊重するよ。楽しいことになってほしいと思うけど。チラチラ
「…っ、私…。」
お?脈ありそう?やったね次期教皇、お嫁さんが来るかもよ!ちなみに知ってるかもしれないけどその人君の倍年上だよ。年上趣味なんだね、おじいちゃん知らなかったよ。
「未練があるなら清算したほうがいいっすよ、先生。いつだって帰れるんだし。」
こっちの時間と向こうの時間どうなってるかわからないけどな。この前ナチスの親衛隊呼び出した国あったしな…。
「俺は先生の味方っすよ。帰りたくなったらいつでも訪ねにきたらいい。絶対返してあげますから。」
にっと笑ってそう言えば、先生は決心したらしい。
俺は魔法を使わずに部屋に帰った。まあ要するにそういうことだ。
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「大恋愛の末帝国王太子の嫁、か。」
先生やるな。妥当な相手だと思う。
しかし今更だけど一応俺にも帰らないって選択肢あるのか。いや絶対に帰るけどさ。
しかし俺はいつになったら自分が元の世界に帰れる魔法が作り出せるのか。升職なのにそんなことも出来ないってどうよ。