王城という場所
「すみません、あなたがた魔女にとっては王城はあまりいい思い出がない場所でしたね。ですがそこ以外の場所の候補もないんです。我慢していただきたいのですが」
本当に申し訳なさそうに小隊長はいった。できればこの薬草屋のなかで魔物の特徴を分かるだけ聞いて、あとから書面なりなんなりで報告しようと思っていたセアは思わぬ展開についていけてなかった。セアが絶句しているあいだ、小隊長たちはさっそく帰り支度をしていた。といっても荷物なんてないに等しかったのだが。
「では、王城に案内したいと思うのですが。よろしいですか?」
意外と小隊長は強引だ、とセアは感じた。よろしいもなにも返事すらしていないしよろしくない。しかし返事は期待していなかったようで、小隊長が席を立つと左右に控えていたふたりは小隊長に続くように一歩下がった。その姿を呆然と見つめていたら、見かねたお師匠さまが依頼人たちを店の外に案内するついでに一緒に王城に行きなさい、と指示を出した。
「では、お気を付けてお帰りください。できればもうここに頼らずにいてくださればいいのですが。今度いらっしゃる時は魔女にではなく、薬草屋のほうに用事ができてくだされば幸いですね」
ふふふ、とお師匠さまは笑いながらいうと見送りの姿勢をとった。
セアが薬草屋から外へ続くドアをあけ、小隊長たちを店の外に出すと小隊長は言った。
「ここから街中を通って王城へ向かうと少々時間がかかるので、荒っぽいやり方ですが直通で行かせていただきます」
そう言うと小隊長は団服の内側から魔法陣が書かれた小さな紙を取り出すと地面に向けて投げた。と思ったら魔法陣は急に輝きだしてセアたちを取り囲むように巨大化した。セアが何事かをつぶやく前に強制的に移動の術式が発動し、魔法陣から光が失われたあと、そこには誰もたってはいなかった。
「随分と荒っぽいことをなさるのねえ。見た目に反して意外と粗野な方なのかしら」
そうセアのお師匠さまはセアたちを飲み込んだ魔法陣のあとを見ながらつぶやいた。
一瞬、宙に浮いたような心地がした。と思ったらいつの間にか術式で移動したらしく、セアは王城の床にへたりこんでいた。ほかの三人はちゃんと立っているので、なんだかいたたまれなくなった。いつまでも座り込んでいるセアを不審がったらしく、小隊長はセアの顔を覗き込むように見てきた。
「すみません、これくらいの移動術式はなれてらっしゃるとばかり思っていたので特に何も言わないままきましたが、気に触りましたか?」
そう聞くならせめて一言ぐらい欲しかった、と思うけれどうまく伝えられる自信がなかった。
何か言おうと思って、口を開いたけれど何を伝えればいいのかわからなくて結局口をぱくぱくと開け閉めしたセアをどう思ったのか、小隊長は手を差し伸べた。
その行動の意味がわからなくて、セアはただぼーっとその手を見つめていた。