依頼の疑問
王城にはまずお抱えの魔術師がいるはず。魔物の情報だって知っているはず。わざわざ王都からは行きにくいところにいる魔女を頼るよりそちらのほうが早いし、何より信頼できるだろう。
なぜそのようなことをしないのか、わからなかった。確かに魔物の情報の提供ならば魔女の力などほぼない娘にも受けられる依頼だが、正直このくらいのことで頼られても困ってしまう。魔女はなんでも相談屋ではないのだ。そのことをこの人たちは分かっているのだろうか。
「あー…いや、城勤めの者たちは今頼れなくて…」
急に小隊長の歯切れが悪くなった。今まではしゃんとしていたのに、断られるかもしれないという不安からか、ちょっとおどおどし始めていた。
お師匠さまはそんな彼をにこやかに見つめていた。あくまで、にこやかに。
さすがに居心地悪く感じたのだろう、小隊長はさきほどまでこちらにまっすぐ向けていた視線をさまよわせ、やがて諦めたように息をついた。
「どうやら全てお話ししなければ依頼を受けていただけないようですね…では、お話しいたしますがこのことはどうか内密にお願いいたします」
そんな前置きをした後、小隊長は簡単にこちらに依頼することになったいきさつを話した。
今、王城では少しばかり諍いが起こっているらしい。それも、魔術師どうしの。今までは貴族よろしく裏の探り合いやら交渉、取引など、水面下での対立があったようなのだがそれが表立って対立しはじめたのがちょうど一ヶ月ほど前。奇しくも魔物を討伐してほしいという嘆願書が届けられた時期とほぼ同じだったそうだ。派閥は主に3つで、対立は未だ舌戦の域を脱してはいない。そこまではいいのだが、この依頼をどこの派閥に回せばいいのか、国の重鎮たちは悩んだ。
この依頼をどの派閥に回すかによって国に一番求められている派閥が決まる、それはいい。だが問題はどの派閥が一番有能で、かつ国に、王に忠誠を誓っているのかがわからなかった。
この問題の発端は魔術師の誰に聞いても要領を得ない回答をしており、誰もがはぐらかしたい事実らしい。基本的に魔術師機関というものは国家からは独立しており、表立った争いに発展するまでこのような派閥が出来上がっていることすら誰も知らなかったのである。
話を元に戻すが、重鎮たちは悩んだ。嘆願書の紙が重なり、ひとつの山になるくらいの時間の長さくらいに悩んだ。しかしこのまま悩み続けても何も解決にはならない。さてどうしたものかと解決策をもう若くない頭で考えていた重鎮たちに一つの声が上がった。
「いっそのこと、魔女に頼ってはいかがか」と。
その声は、重鎮たちにとっては神のお示しとも、悪魔の囁きにも聞こえた。
その声に対して、最初こそは反対意見も目立ったが、しかし国お抱えの魔術師たちに頼れる状況でもないので致し方なし、ということでこの件は決着がついた。
なるほど、確かに筋は通っては…いるのか?と多少疑問は持ったが娘はこの話を受け入れた。しかし娘がこの話を受け入れようが依頼の受託の決定権はお師匠さまが持っている。さて、お師匠さまはどういった決断をされるのだろうかとちらと見たら、満面の笑みで娘の方を微笑んでいた。その顔からはなんの感情も伺えない。何を決断なさったのだろうと、娘は先ほどと同じように恐ろしく思った。
「なるほど、なるほど。そのような事情がございましたの。いつの時代も争いは形を変えて起こり続けますね。確かにこれは火急の問題でも、魔女に頼らざるを得ないような案件ではございません。そのことはまず理解なさっていただきたいですわ」
うふふ、とお師匠さまは感情が伺えない笑みを小隊長たちに向けていた。
ゆっくりですが進んでいます、もっとさくさく展開できたらいいんですけど…(´・ω・`)