依頼の内容
娘は、そこで自分が見られていることに気がついた。じろじろ見たのが気に障ったのか、小隊長はこちらを見ようとはしない。
しかし副隊長と呼ばれた人達はこちらを見ている。なんとなく、気恥ずかしいような、居心地が悪いような気がした。娘は空気を読むことに慣れていなかった。
「ああ、この子はいいんです。召使じゃございませんからね。この子も、一応は私の弟子ということになっておりますし」
お師匠さまは、なんとも不明瞭な答えをした。しかしそれは仕方のないことだった。普通の人に話しても意味がない自分の特殊な事情のおかげで。
「弟子だから、部外者ではないと?私たちはあなたに依頼をお願いしたいんです」
小隊長は、少し腑に落ちないといった感じで話していた。そのあいだも、副隊長たちの値踏みするような目線にさらされていた。
「ええ、だって実際に依頼をお受けするのはこの子ですもの」
「お、お師匠さま!?」
我ながら素っ頓狂な声を出したと思う。これは娘にとっても予測不能だった。これか、さっきの笑顔はこれだったのかと先ほどの恐ろしげな笑みを思い出していた。小隊長たちも多少驚いたらしいが、すぐに気を取り直していた。
「そちらの方がお受けするのですね。…了解しました、では、依頼の内容に移らせていただきたいのですが」
仕方ないと思っているような口ぶりだった。本人よりも周りのほうが落ち着いていて、ちょっと待って、おかしいよ!と娘は全力で思っていたがお師匠さまの目線で抵抗はすげなく終わった。
「我々がお願いしたいのは、端的に言えばある魔物の情報を売っていただきたいのです」
そう真剣な声で、小隊長は言った。
詳しくは省くが、特殊な魔物が王都からそう遠くない地で群れをなして森の中をさまよっているという報告がその土地の領主からあがった。
本来であればその土地の自警団などが対処すべき問題であるが、本来単体で行動するはずの魔物が群れをなして人間を攻撃していたという目撃情報でその近くの村の人々が震え上がってしまったようだ。
村人からの必死の懇願に負けて、その土地の領主は王都にどうにかしてほしいと依頼をしてきた。しかし今まで魔物が群れをなして行動、ましてや人に攻撃など前例にあったわけではないので騎士団の幹部たちはお手上げ状態、しかしどうにかせねば事態は悪化することはわかりきったことなので国内でも数少ない忌まわしい「魔女」を頼りにここまできた、と。
「…というわけなんですが、このような魔物、ご存知ないでしょうか」
特徴をつかめれば対策も練れる。その情報をにぎっているのがどのような人物でも、今は藁にもすがる思いなのだろう。だが、腑に落ちない。失礼を承知で娘は口を開いた。
「そのような案件、こちらで受けなくてもお抱えの魔術師などで対策できるようなものだと思いますが」