決断
「魔女殿は報告書の作成をするために同行したいといっているだけです。我々の邪魔をするわけでもないし、自分の身は守れるでしょうから私は別に構わないと思いますよ」
リントさんの声からは感情は読み取れなかった。しかし、反対はされていないようなのでほっとした。残るは二人。ここまでくればなんとかなりそうな気もしなくもない。
「しかし…」
イズニアさんは何か迷っている様子だった。しばらく思案するように額に手をやり、決心したように息をついた。
「いいでしょう。同行を許可します。しかし我々はあなたの護衛ではありませんので危険が迫ったら自分で対処してくださいね」
「小隊長!!」
ヘルヴィックさんが叫んだ。今にも飛びかかりそうな勢いのヘルヴィックさんをリントさんがなだめていた。
なんとか、許可された。そのことに安堵して、小さく息をついた。これで行く手段はつかめた。あとはこちらの準備をするだけである。しかし、その準備も無理を通さなければいけない。もう少し、こちらのわがままに付き合ってもらおう。そこまで考えて、次の言葉を出すべく考えようとしていた。
「では、魔女殿。魔物の対処方法をご教授願いたいのですが」
すっかり忘れていた。しかし、対処すべきことなどないのだ。しかしそのまま伝えれば意味がない。仕方ない。
「私の推測しているものと同じものであればその魔物は殺せません。ただ、動きを止めることはできます」
言葉を一旦区切って、息を吸う。声が震える。嘘をつくということはこんなに怖いことなど、知らなかった。別にその魔物は殺せないわけじゃない。ただ、殺されてはこちらが困るのだ。しかし、こればかりは知られてはいけないことなのだからしっかりしろ、と自分で自分を叱咤した。逆に考えろ、ここで生け捕りしなければならないという嘘の討伐方法を教えれば、不審がられずに済むのだ。バレたら終わりなのは自分ではないのだから、余計緊張した。
「その方法は?」
焦れたようにイズニアさんが言う。
「その方法は、この玉を使って捕まえます。」
ローブの内側のポケットから透明なガラスのような玉を取り出した。
「これは、一見ただのガラス玉ですがこうやって魔力をこめれば…」
これはただの手品だった。入れているように見せかけ、発光しているように見せればきっと信じる。この場に魔術師がいないことが幸いだった。いたらすぐに魔力が込められていないことを看破されてしまう。
「このように、発光して中の魔法陣が起動します。起動した状態で魔物に投げつければこれで捕らえられるはずです」
「捕らえたあとは?」
「私に任せてください」
その言葉に、さして疑問をもったわけでもなくイズニアさんは頷いた。その後、討伐隊を組むときの優先順位なども聞かれたが、動揺を声に出すこともなく答えられたと思う。
「では、方法もわかったところなので、今日中に討伐隊を組み、あしたには出立できるようにします。またあしたあそこの薬草屋までお迎えにあがります」
「小隊長、なにもそこまでしなくてもいいだろ!」
ヘルヴィックさんが吠えた。イズニアさんはリントさんの方を見て、少し考えてから言葉を発した。
「確かに、そこまではやりすぎか…魔女殿、王城まではひとりでこれますか?」
「おそらくは、平気です」
「では王城までお出で下さい。城門で案内人を付けますから」
「ありがとうございます」
思わずお辞儀した。
「では、また明日ですね。これから討伐隊の選抜をしなければならないので城門までしかお送りできないのですがよろしいですか?」
その言葉に頷いて、会議場をでていった。