交渉
「行きたいのですが…ダメでしょうか」
なるべく、声のトーンを変えずに言った。セアは顔が見えない分声で感情が浮き彫りになってしまうからお師匠さまにいつもたしなめられていた。仕事を受け持つとは思わなかった時、お師匠さまにいつも言われていた言葉。お仕事のときは感情を殺していきなさい、と。
「いや、だめというか…えーっと、んー…」
イズニアさんが今日会った中で一番慌てた声を出していた。依頼されたのは魔物の調査だけだった。だからこそ、この行為は仕事にはならない、そんなことはわかっていた。断られたら断られたで尾行すればいいだけなのだ。ただバレない自信はないに等しかったが。
「ダメに決まっているだろ!」
机を思い切り叩き、勢いよく立ち上がったのはセアをずっと睨んでいたヘルヴィックさんだった。やはりか、と思う。この人が一番に反対するだろうとは思っていた。薬草屋にきていたときからお師匠さまやセアを見つめる視線が憎悪や嫌悪の入り混じったものだったから。別に今更認めてもらおうなどと思わないがここでは折れてもらわなければならなかった。
「なぜですか?私は小隊長に同行の許可を求めているだけです」
顔をイズニアさんに向けたまま言った。なぜあなたが反対するのか、と伝えたつもりだった。言葉に詰まったようで、しぶしぶといったような感じで座り直していた。短いあいだだが、観察した結果珍しいことんイズニアさんは『魔女』という存在に嫌悪を抱いていない人だった。むしろこちらを同じ人のように接してくれ、また対等であろうとしてくれる、とてもいい人だった。
だからこそ、イズニアさんが折れてくれればついていけると確信した。ヘルヴィックさんは副だからこそ、小隊長が決定したことには逆らえないはず。また、リントさんはセアがついていく利点を話せば納得してくれると思う。
ここが正念場だ。穏便に済ませられるならそれに越したことはない。
「…同行したいという理由を伺ってもよろしいですか?」
慎重にイズニアさんは尋ねた。セアにしても、イズニアさんにしてもここはすんなりいけるとは思っていない。
「魔物の正体はある程度判別できたのですが、あっている確証もないのです。この目で実物を見れば対策もとれます」
「しかしそれはあまりにも危険です。そこまでは依頼していません」
危険、正体が分からなければそうだろう。しかし、別に確証がないわけではないのだ。ただ、一番最善な方法は対処方法を伝えて終わりではないのだ。
「正体不明の魔物の調査が私に依頼された内容だったなずです。まだ調査は終わっていません。自分の身は自分で守れます。ただ同行の許可をくださればいいのです」
どちらもひかない。セアはフード越しに睨んだ。伝わったかどうかはわからないが。やがて誰かがため息をついた。
「小隊長、魔女殿もこういっているんだし許可を出したらどうですか?」
「リント!!」
イズニアさんとヘルヴィックさんが立ち上がる。セアは三人の様子を交互に見て事態を見守った。
名前を変換するときたまにすごい変換されます。ヘルヴィックは減るヴィック、イズニアは伊豆ニアに、リントは凛ととかね!