疑問と確信
瘴気が漂っていないところに魔物が出現することはまずない。そのことは普通の人ならば知っている。だからこそそこに出現した魔物に驚いたし、恐怖を感じたのだろう。
本当にそんな魔物、いるのだろうか。いや…思い当たる節はある。あるが、それをこの人たちに言っても信じてもらえるだろうか。ちらりと、三人を見渡す。
あいも変わらずヘルヴィックさんはセアを睨んでいた。こちらも憎悪を向けられることはなれているとはいえ、正直まいっているのだ。毎回毎回人に依頼を頼む際、覚悟と恐怖に彩られた瞳を見る。そしてその瞳は依頼が達成された瞬間から憎悪と嘲りに色を帰るのだ。そんな人たちを見続けて、セアは人を憎むという感情は理由がいらないものなのだと感じた。自分たちが強大な力を求めてくるのに、その力をまざまざと見せ付けられるとたとえそれが望んだものだとしてもそれを使える者たちを蔑むのだ。
ヘルヴィックさんは多分何を言っても信じないだろうと確信していた。ほかのふたりは信じてくれるかもしれない。でも、もし信じてくれなかったら…最悪の結果を想像し、セアは一人身震いをした。
ほかの三人はセアの思考の邪魔をしない程度に会議をしていた。装備の問題や、報告書の作成など。討伐隊を組む場合、誰を連れて行くかなど。そんなことを聞いてもセアにはあまり関係はなかったのだが。
その魔物の外見について書かれた紙を見る。
それらは大きな狼のような形をしていて、目は赤く、体中が黒い。狼に比べるとふたまわりも大きく、牙は鋭く尖っている。実際その牙によって負傷者がでているようだ。ただ幸いにして、牙自体に毒なのはなかったようで、噛み跡だけで済んだようだ。
外見の特徴も一緒。毒性がないのも一緒。記憶の中の資料と噛み合わせて、確信に至った。
ただ、実物を確認してみないことには何とも言えない。もしかしたらまだ救えるのかもしれないのだ。
「あの、すみません」
そんなに大きな声を出したわけではないのだが、声を発した瞬間三人ともこちらを向いた気配がした。ちょっと怖かった、とセアは思う。
「どうかされました?」
優しく問いかけてくれるのはイズニアさん。少し人に向けられる感情に疎いセアでも、とても優しくされているというのが感じられる。
「魔物の正体、わかったかもしれません」
わかったから嬉しい、というわけでもないのだがセアに向けられた優しさが嬉しくて声が弾んでいた。その声に素早く反応したのはリントさんだった。
「わかったのですか?」
「は、はい。でも確かめたいことがあって…」
素早く立ち上がろうとしたリントさんはセアの声で不自然な格好で止まることになった。その格好はなんだかその先を促しているようだったので、そのまましゃべることにする。
「もし、討伐隊を組まれるのでしたら私も連れていって欲しいのです」
セアの言葉を最初誰も反応できず、一瞬静寂が訪れた。
「…え、え!?こ、来られるのですか!?」
一番最初に我に返ったのはイズニアさんだった。
思ったより長くかからなくて済みましたー。自分で構想してた段階よりずっと早く展開してます^^