最終話
杉浦の事件は証拠不十分で不起訴になった。
健は嘘をついて、刑務所に寝泊りしていたと、罪に問われたが、火事のショックから来た行動と言う事になり、3週間で留置所から出られた。
なんで杉浦の殺害が不起訴なんだ?
警察に聞いた事がある。何しろ、被害者と健が結びつかない事に警察は疑問を持っていて、詳しく調べた所、死体から容疑者らしき物の髪の毛と服に血痕が見つかったのだ。その血痕はA型で、健はB型。その時点で健の殺害疑惑は薄れていった。
それで健の署名運動時の集団拉致事件で、警察が捜査をした所、ある暴力団の部屋から複数の死体が発見された。
その死体の中の人間の髪の毛と杉浦に付着されていた髪の毛が一致したんだ。その拉致事件の被害者の名前は川島良。りょうだ。組に使っていたやすひこという名は偽名でりょうが本物の名前だったのだ。
りょうはチャットで健に言われて、空き地に死体を見に行った時、いろいろと細工をしてくれたのだろうと思った。だから死体発見も遅れて、事件が公にならなかったんだ。すべてはりょうのおかげだった。おそらく健が自供しなければ捕まる事はなかっただろうと警察は言った。
そんな事までしてくれていたのか。友達はいたじゃないか。家に引きこもっていても。俺はずっと一人じゃなかったんだ。
「おう!健!今晩のみに行くぞ!」
部長の声が聞こえる。
「すいません。まだ仕事が残ってるし、今日はちょっと届け物があるので。」
「そうか。また誘う。なにしろあそこのつまみは天下一品だからな。」
そうつぶやくと部長は廊下へ出て行った。
もう俺も終わるか。
機械の電源ボタンを切り、工場を後にした。
工場の外には小さな女の子が立っていた。
「健おじちゃん!仕事お疲れ様。」
知美がそういうと少し黒ずんだ手で頭をなでた。
「元気にしてるか?」
「うん元気!」
はちきれんばかりの声で叫んだ時だった。
「こら知美駄目でしょ。あらすいません。」
青山の妻だった。
「いやぁ、いつ見ても青山さんに似てますよ。知美は。」
妻は笑った。
「そうですか?まぁ元気だけが取り得なんですけどね。」
「それより、これ差し入れです。帰り道に食べてください。」
健は嬉しそうに答えた。
「ありがとうございます。こんな美味しい手料理感激だな。」
「いつでも食べに来てください。」
そういうと青山の妻と知美は工場を後にした。
元気に育ってくれてよかった。
そんな事を考えながら、電車に乗った。そして駅から歩き、家賃3万円のアパートの鍵を開けた。