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遂行日記  作者: きよみ
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第一話

「引きこもりニート」


真っ暗の部屋でパソコンの起動音にキーボードを打ち込む音とマウスのクリック音だけが部屋に響き渡る。

ディスプレイの明かりが部屋の照明のように思えた。

黙々とキーボードを叩き続けている。

部屋にはごみが散乱していて、足の踏み場もない。

ベットには夏だというのに毛布が敷いてある。

この部屋だけ、時間が止まっているようだった。

少しばかりカビも見える。

パソコンディスクの後ろの机も物が散乱してあり、飲みかけのジュースに小蝿がたかっている。

こんな衛生面最悪な部屋で健は高校卒業時から引きこもっている。

大した友達もいなくて、もちろん彼女もいない。完全に家族の一員から孤立をしている。

健が外出している所を家族は見たことがなかった。

ほとんどの時間を自分の部屋で過ごしている。

食事は家族が運びにくる。

欲しいものがあれば通販で買い物をしている。

もちろんお金は親が払う。

人間的にこういう行為を取る人間を人はニートと呼ぶ。

健はどうでもよくなっていた。世間も社会もなにもかも。

たとえ今この瞬間に地球が滅びても別にかまわない。

俺以外の人間は全部くずだ。

社会から完全に孤立し、見放され、自分の人生を投げ出している健に、

人生の転機が訪れる恐怖が待ち構えているとは等の本人夢にも思わないだろう。

そう。

すべての始まりは湿った空気で少し霧が出ていた、8月31日の一般人で言う、

夏休み最後の日。

この日から健の死に物狂いの生きるための恐怖の戦いが始まるのだ。

 「おい!だれもいないのか!」

健が部屋から叫ぶ。家中に声が響き渡る。

その声に答えるものは家にはいなかった。

・・やくにたたねえな。。

健は用事を家の者に頼みたいらしい。毎週木曜は週刊誌の発売日だ。

毎週毎週、母が買い与えていたが、母が留守と知り、健は軽く焦りを覚えた。

もっともくだらない焦りだといえるだろう。

木曜発売の雑誌を金曜に読もうなどととても常識では考えられないと思っている。

発売日のその日のうちに週刊誌を読みたいという健ならではの焦りだ。

健は時間を見た。夜の8時だ。今の時間帯は人気が少ないだろうな。

コンビニに買いに行くか。

そう決めてTシャツを着替えて、ジーパンをはき、部屋の外にでた。

いつぶりだろうか。かなり久しぶりの外出だ。

暗い階段を下りて、左手にある玄関で靴を履いた。

久しぶりに靴を履く。少しきつい気がする。つま先あたりが痛い。

玄関を出た。健は家の鍵をかけなかった。

家の事なんて関係ない。泥棒が入ろうが知ったことか。

そういう自己中心的考え方は一生変わらないのではないか。

そう思わせるような生活態度だ。




「外出」

コンビニへ向う道のりが健には楽しく思えた。久しぶりの外だ。

ただ道を歩くという動作を楽しがる健。わくわくして、少年期に戻った気にもなった。

いい気分で歩いて歩調よく歩いてると、

なにやら怪しい雰囲気を醸し出す一軒の本屋を見つけた。

長年この町に住んでるがこんな店見たことなかった。

いや、知らなかっただけだと自分に言い聞かせた。

週刊誌ならここにおいてあるかも。そう思い健はその本屋へ向った。

その時健は感じ取った。

何か特別な何かを感じる。この本屋には近づいてはいけない。

そう健の第六感が働いたのかもしれない。

これ以上進むと危険だ。嫌な予感がする。

本屋の引き戸を前に背を向けて帰ろうとした。

しかし健は頭のどこからか、ふっと好奇心がわいてきた。

久しぶりに外へ出て気持ち的にも溌剌として、もう少し冒険をしてみたい気持ちになったのかもしれない。

もっと外の世界を探索してみたい。そういう感情が健に芽生えていた。

少しぐらいならいいか。。

そう思い、健は少しばかり勇気を振り絞り、本屋へ再び進みだした。

引き戸を開け本屋の中へ入っていった。

いらっしゃい。。

健はびくついた。急に横から声を掛けられた。他人に喋りかけられたのはいつ以来だろう。

店内を見渡した。薄暗かった。不気味だった。

気味が悪そうな本がずらりと並ぶ。健が店内を少しばかり探索しながら本を見渡した。

どれもこれも訳のわからない本ばかりだな。

そして健は目的である週刊誌を探した。しかし置いてある雰囲気はまったくない。つまらなさそうに本を見渡している。

そんな時、健に異変が起きた。

何か不気味な力を感じる。

自分の体をコントロールできない。金縛りにでもあったのだろうか。

無意識のうちに気づいたらある本棚の前に立ち止まっていた。

気味が悪かった。まるで本棚にひきつけられたような気になった。

目の前にあった本棚の本を見た。一番上の段の端の本に目がいった。

黒色の本で、外見的になんら他の本と変わりはないが、なんとなくこの本だけ特別な何かを感じる。

気味が悪い。

遂行日記と書いてある。

店員がこっちを見てる事に気づいた。

何か問いただしたいのかと思うほど不気味な目線でこっちを見ている。

早く帰りたかった。ここには週刊誌はない。これ以上は時間の無駄だ。帰ろう。

その時、またしても思考とは逆に別の好奇心が働く。

なんだろう。この本にはなにかある。不思議だ。どんな本なんだろう。

怖かったが、この本を手にとって見たかった。

少し手にとって見るか。

そう思い本へ手を伸ばした。


絶対読んではならない。


手をさし伸ばした時またしても第六感らしき力を感じた。

人間の本能だろうか。感情は前へ向っているのだけれど、腕がそれを拒絶するかのような。

しかしその拒絶する力も消えていった。

不思議と手が伸びた。

体が吸い込まれる感じがする。気分が悪くなりそうだった。

しかし不思議だ。手にとってみたが、不思議と何かにこの本に魅力を感じる。何の変哲もないただの黒い本なのに。

この本が読みたい。

おじさん。この本ください。




「不思議な力」

健は店を出て早歩きで家に向った。

周りの街頭が気味悪く感じた。

蛾が飛んでいるのが確認できた。

時間はわからないが、家を出てからかなりの時間がたっているように感じた。

ただ近くにあった本屋によって本を買っただけなのに凄い疲労感だ。

歩きながら健は思った。

なんでこんな本を買ってしまったんだろうか。

少し後悔した。

本屋で起きた本にひきつけられるような奇妙な出来事を忘れたかのような言い草だった。

帰り道を歩いている時、健は何も特別な力は感じなかった。

家に着いて玄関を開けた。当然鍵は掛かってなかった。

健は家に入り、黙々と暗い階段を上がり自分の部屋へ入った。

その時週刊誌の事はすっかり忘れていた。

買った本を後ろの物が散乱している机に置き、パソコンを立ち上げ、メッセンジャーでチャットを始めた。

1時間ぐらいチャットをやっていると、相手が10分外出すると言い出した。

そして健も10分間休憩をし、相手が戻ってくるのを待つ事にした。

腕を組みながら深くイスに座り、ぼーっとすごした。

その時さっき買った本の事を思い出し、本を袋から出した。

いつ見ても気味が悪そうな本だな。

そして本を出した瞬間、またさっきの不思議な力を感じた。

健は少し恐怖を感じた。

何なんだこの不気味な感じは。

しかし、半分度胸試しのつもりでこの「遂行日記」と書かれた本を開いて見ることにした





「日記の内容」

1989.7.2


担任の杉浦がいつも俺の事をばかにするんだ。

バカだの、あほだの。

大学進学も就職も無理だとはっきり言われた。

じゃあ俺はどうすればいいんだよ。杉浦なんて死ねばいい。


1989.7.3


今日もスリッパにカッターナイフの刃を仕向けられた。

この前もボンドをイスに塗られてて知らずに座って制服がぐちゃぐちゃだ。

誰がやったか検討はついている。

青山たちだ。中学の時からよってたかって俺だけを標的に嫌な事をしてくる。

俺の何が悪いんだ。あいつさえいなければ。

青山なんか死んじゃえ。


1989.7.4桐原和子・死


お母さん。お母さんが悪いんだよ。兄貴ばかり見て俺はまるっきり無視じゃないか。俺のことはまるで干渉しなかったね。いじめを受けてもしらんぷり。殺されて当然だったと思うよ。


1989.7.5


お父さん。

なんで俺ばかりぶつんだよ。

なんで殴るんだよ。

何も悪い事してないじゃないか。

痛いよ。お父さん。兄貴には優しくしてさ。

俺ばかり。もう耐えられないよ。お父さん。死んでください。


1989.8.31


もう僕は耐えられないよ。

僕はこの世界にいちゃいけない人間なんだ。

僕は友達も親も教師も誰も信用できる人はいなかった。

いつも一人だったんだ。なら僕は、これから一人で生きれる世界に行くよ。

僕の友達はこの何でも話せる日記だけだよ。


本を開いた瞬間からすべてが始まる。

この本を開いて日記内容を遂行しないで、ニ日間たつと、三日目から一日ごとに周りの人間が死に至る。六日間で肉親すべてが死に至り、七日目で当事者が死ぬ。

この本の事を誰かに悟られてはならない。

悟られれば、当事者は死ぬ。

日記内容の遂行がすべて終わらせ、この本を燃やす。

すると呪縛は解け、当事者および当事者の肉親、周辺者が死ぬ事はない。


なんだこれ。

健は自分の目を疑った。

あまりにも悲惨的な日記が5日分書いてある。

可哀想な日記だ。31日から書かれていない。

この内容からすると自殺したんだろうか。

そして健は7.4日の桐山和子死亡の文が目に入った。

この文書はおかしい。

殺されて当然?

なんでこの文だけ進行形なんだよ。

もうこの桐原和子って人は死んだって事か。

わけわかんないよ。

それに遂行しなければ人が死ぬ?

この書いてある通りだと7日で当事者が死ぬって当事者は俺のことか?

7日以内にこの日記を遂行させるっなんだよ。

遂行って何にも命令文も書いていないじゃないか。

その健にふっと新たな発想が芽生えた。

それはあまりにも残虐で、恐怖を煽るような発送だった。

まさか日記の登場人物を殺せってことじゃ。

その発想をすぐさま自己否定した

馬鹿馬鹿しい。やってらんないよ。

健は本を後ろの机の上にポンと置いた。

奇妙な緊張感と不安感はメッセンジャーでチャットを再開した頃には忘れていた。

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