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8.ハードモードな珍道中

ほぼ全く告知していないマイナー作にもかかわらず、

今話投稿時点で450以上のPVと、130以上のユニークアクセスを頂きました。

読んでくれている人がいるというのはめっちゃくちゃ嬉しいですね!


では、第2章始まります。

第2章 醜い泥沼


side 旅に出た次男坊


「・・・なあ。」

「・・・何だい?」

「・・・この道って、そんなに険しくないよな?」

「・・・そのはずだ。」

「・・・じゃあ、何で5日経っても着かねぇんだろうな・・・?」


 正直、うんざりだ。

 あの日は結局ゼシカをうちに泊めて、翌日は俺の旅支度、そしてさらに翌日になって俺が寝坊し、その日の午後になってようやく出立と相成った。男の俺が1日も旅支度に使ったなんて俺自身も信じられないけど、理由は割と単純だったりする。剣を買いに武器屋に行ったからだ。

 武器を買うのには、実は大して面倒な手続きなどはない。観賞用などの華美で値が張るものは保証などの書類を書く必要があったりして面倒なのだがこちとら求めるのは実戦用だ。保証なんて無意味だしそもそも付くはずがない。だが店の配置が悪かった。うん、深緑の町(リネル)の端から端まで歩く羽目になるとはねぇ。

 閑話休題。

 出立までにも時間は要ったが、出立さえしてしまえば2日もあれば着くはずだった。出立が午後だったことを考えても三日でいけるはずなのだ。だがさすがにあと僅かだとはいえ5日目の現在、俺とゼシカは背中合わせにへたり込んでいる。疲労困憊。


「盗賊が襲ってきたから・・・で納得しないかい?」

「バカ言え、モンスターもわんさかじゃねぇか。この街道ってこんなに治安悪かったっけ?」


 うん、家のスライム騒動なんかメじゃないね。

 何しろ盗賊に襲われたと思ったら、その盗賊が倒すより速く減っていって、何事かと思ったら盗賊団の連中が後ろからモンスター(ゴブリン?だったと思う)に襲われてて、仕方ないから盗賊と共闘してモンスター倒したと思ったら、まだ諦めてなかったのか盗賊どもが襲い掛かってきて、そいつらとっちめて街道の監視所に届けるので1日、その翌日報復に来たモンスターの群れとたった二人で大立ち回りを演じて1日、脱走して追いかけてきた盗賊の連中に引導渡して1日、遅れ取り戻すためにほぼ丸1日走って、今日は今日で別のモンスターの群れに遭遇しているのだ。

 あー、疲れた。


「モンスターは確かに異常だね、盗賊がいるのはいつものことだけど・・・。」

「いつものことって、おい。」

「ここは盗賊にとって美味しい稼ぎ所なんだ。何しろ交易の動脈みたいな街道だからね。他所でやるよりはるかに獲物が多いんだ。」

「・・・徒歩の二人組なんて襲って、なんかいいことあるのか?」

「ローリスクだと思ったんだろうね。私の鎧だけでもそれなりの値にはなる。騎士とは言っても、大勢でかかれば何とかなると思った・・・。」

「へえへえ、そいつは御愁傷様なこって。挙句に返り討ちとは笑えねえな。」

「そういう君がデタラメなんだと思うけどなぁ。返り討ちに出来る君の実力が一番謎だよ・・・。」

「それをアンタが言うか?」

「私はいいんだ。若輩とて騎士団の副長なんて肩書きをもらえる程度の戦力ではあるつもりさ。」


 そんなもんかねぇ。ま、いいけどさ。

 まあ、思わぬ長旅になったけど、それでも得るものはあった。ここまでの会話でだいぶ想像はつくだろうけど、俺とゼシカは結構ウマが合うらしく、背中を預けて戦ってれば仲たがいというわけにもいかない。短期間とはいえ、頼りに出来る程度の信頼は互いにあると思う。

 「真の友を得ることは世界を手に入れるより難しい」学校通ってた頃の心得の授業で習った言葉だけど、うん、実感するよな。


「ま、いいか。そんなことより、まだ着かないのか?」

「いや、もうじきのはずだ。先ほど目印の三本杉を超えたから、もう30分もかからないはず・・・。」

「お、あれか?」

「・・・マテウス、君は自分がした質問の答えを最後まで聞くようにしたほうがいいと思うよ。」


 いや、だって、ねえ、答え見えてるし。


side マテウス out




side 説明の長い騎士


「ふう、やっと着いたか・・・。」

「相変わらずでかい街だな・・・。」


 マテウスの言葉に、地元民たる私も頷かざるを得ない。各国の首都とほぼ同規模の都市なだけに、街の全域まで知っているものは行政の従事者や運送業、後は私達「教会」関係者位なものだという。


「マテウスは何度か来たことがあるといっていたね?」

「ん、ああ。学校の研修旅行とかでな。騎士になる奴も多い学校だから「教会」本部とその付属施設位しか見てねぇけど。」


 そういえば、「教会」本部は各地の学校が研修や修学旅行などの先にしている有数の観光地でもあったな。私は地元民だけに他所だったが、何度か自由行動中の学生に案内を頼まれたこともある。その学生いわく、「迷ったら騎士に聞くのが確実」などと旅のしおりに書いてあるらしい。全域について知っている騎士は道案内に最適だし、認識票や装備ですぐ判り身元も保証されているから危険もない、とのことだ。なるほど理にかなっている。

 そんなわけで、案内にかけてはちょっとしたものなのだ。


「それなら、今日はもう遅いけど明日は宗教都市(セノワスト)を見て回ろう。折角あれだけの苦労をしてきたんだ、観光の一つや二つバチも当たらないだろう。」

「そりゃあ有難いけど・・・いいのか?任務の報告とかあるんだろ?」

「もちろんさ。実は報告書が全くまとまってなくてね、かといってどんなに急いで書いても明日の午後にはなるし、「証人として招待した人物に休息を」っていう言い訳がほしい、ってわけさ。」

「あ、なるほどね。」


 実はこれ、騎士団の通例になっている。任務を終えて帰ってきた騎士は、当たり前だが報告書を書かねばならない。帰り道のことまで報告に挙げねばならないため、任務地で直接書くわけにも行かないのだ。

 ところがここで、「教会」という権威が邪魔になる。帰ったのならば直ちに報告せよ、なんぞと言い出すのだ。無闇に遅らせるのはすなわち神への不敬である、ということなのだが、それをまともにやったのでは報告書など仕上がらない。かといって報告書を出さなければまともな報告になどならない。資料を手元において、その上で説明を受ける。そうしなければ伝わらない報告というのは、特に戦闘について素人な上層部への報告においては、非常に多いのだ。

 閑話休題。

 そこで歴代の騎士たちが取ってきた作戦が「宗教都市(セノワスト)に入ってから何らかの理由で足踏みをし、そこで報告書を書き上げてから本部に戻る」というものだ。任務の日程など不確定なのだから、という死角を利用した解決法で、任官したての騎士は最初の任務でこの方式を先輩から教わる。


「それなら明日の朝イチで鍛冶屋か研ぎ屋に行きたいな。安物買ったつもりもないけど剣がボロボロだし。セルフメンテにも限界あるからな。」

「それなら任せてくれ、腕利きを紹介するよ。というか時間かかるだろうし、今からでも行っておいた方がいいだろう。」


 実際彼の剣は私の騎士剣よりはるかにボロボロだ。剣自体の性能もあるだろうがそれ以上に戦闘におけるスタイルの違いが大きく出ているのだろう。私は小盾(バックラー)を持つ片手剣に、「教会」の秘術「天術」を絡めた騎士団の養成施設独自の「天術剣」を用いる。刀身への負担はたいしたことはない。

 対して、彼の剣術は片手半剣とでも言おうか。握りを片手、両手と切り替えながら、さらに左右の手を持ち替える事も多い。当然盾はなく、刀身で受けて止めるか流す、あるいはかわすという防御スタイルをとっている。刀身への負担は計り知れない。

 ともかく、5日のうち3日は戦っていたということで、数打ちでもないが名品ともいえない彼の剣はボロボロだ。研ぐどころか鍛えなおす必要さえあるかもしれない。いや、そもそも直るのか?


「まあ、最低でも明々後日(しあさって)までは滞在する予定なんだ。のんびりやればいいさ。」

「明々後日?」

「まず今日は報告するの無理なんだろ?明日は俺の観光中に資料をまとめて、明後日は報告と資料探し。まさかその日の内に帰れ、なんて無茶は言わないだろ?」


 私は正直嘆息した。

 彼は頭が良い方ではないと伯から聞いていた。実際勉学の成績は酷いものだったという。本人も認めていて、「頭悪くても騎士になれるのか?」などと聞かれたりもした。ちなみに答えは半々。戦闘任務中心の部隊でならばまず採用されるであろう実力(というか私の下にほしい)の持ち主だが、面接官の頭が固ければ即不採用だ。

 だが、今の日程をすばやく想起したのは間違いない。指を折りさえもしなかった。日程のようなものは即座に考えるには計算が要り、事前に考えていても思い出しながら数えなおす必要がある。実際騎士の研修の課程に日程表の作成などというものはある。苦労する者は、多い。


「ん、どしたん?」

「あ、ああ、いや、何でもないよ。」


 未知数。

 私は彼の人物像に、そう書き加えざるを得なかった。

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