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7.旅立ちと彼の名

side 未だ名前の出てこない騎士


「うん、大体は分かった。」


 私は失神してしまった伯を協力してソファまで運び、ダイニングをお借りして御子息に話を聞くことにした。ご家族も心配なのかダイニングから離れようとしなかった。

 彼の話をまとめると、宝具の刀は宝箱(封印の箱のことだろう)に入っていて、箱は簡単に開いた。これはいい。箱を調べたけど、術式が劣化していて法力が散ってしまっていた。魔除の加護も開けたときに消えてしまったようで、これでは鍵としての役割の方は期待できまい。

 そして中に入っていた良さそうな刀を試し振りしていたところ悲鳴が聞こえ、その刀で脱出した後スライムを30ほど切り伏せた挙句巨大スライムを倒して我々のいた書斎に飛び込んできたとのこと。


 だが、二つほど、気になることがある。


「ええと、質問してもいいかい?」

「・・・ああ。」


 半ば尋問のようになってしまったからか彼の表情は硬い。が、この際気にしてはいられまい。下手をすれば大事なのだ。


「じゃあ一つ目。君は巨大スライムを倒してきたと言ったけど、その実力はいったいどういうことなんだ?普通のスライムはともかく、一般人に相手できるような代物じゃあないはずだよ?」


 彼の所作振舞から腕が立つのは見て取れるが、その腕前は高すぎるといっても過言ではない。何しろ撃破を確認したスライムの核からして、我らが騎士団ならともかく国の正規軍ならば10人単位の討伐隊が組まれるようなサイズだ。スライムの実力はサイズに比例するといわれており、単独で相手するのは私とて出来れば避けたい。

 答えたのは、彼の兄君だった。


「こいつはクレイマン衛士学校の卒業なんです。剣術だけならすでにうちの親父以上に強いんですよ。」


 なるほど、あの名門校の・・・。

 クレイマン衛士学校は深緑の町(リネル)に本校を置く武人の名門校だ。武芸と兵法に重きを置き、卒業すれば軍人としての栄達が約束されるというまさに名門だ。納得。


「成程、心得があるだろうとは思ったけど、そういうことか。」

「・・・で?二つ目は?」


 彼は面映そうな表情を浮かべながら話を流そうとしているようだ。察するに自慢になりそうな話題で語りたくなかったのか。初手柄をあげながらも自慢にならない様抑えながら報告をする新任の騎士と同じ顔をしている。

 閑話休題。

 もうひとつの疑問の方が重要だ、何しろ宝具の存在そのものに関わる。


「うん、その刀、そもそも鞘から抜けないはずなんだが・・・君はそんな刀でどうやって戦ったんだ?」


side 騎士 out




side 名門出にとても見えない男


 ・・・は?


「ええっと、鞘のまんまぶん殴る、とか?」


 兄、黙れ。そんな野蛮な戦いしてない。


「いや、鞘は法力のこもった本体はともかく、装飾が後付で脆いんだ。そんなことをしてたらもう少しボロボロになっている。」

「いや、これふつーに抜けたけど。黒刀なんてレアもんだったからスライムでも溶けないし、切れ味も振りやすさも逸品だったんで戦いやすかったぜ・・・て、どしたん?」


 全員絶句。まあ、意味合いがそれぞれ違いそうだが。

 兄貴はまず、すっげぇジト目で見てる。明らかに疑ってるだろアンタ。お袋はお袋で嘘には敏感な人だから、事実を言ってるのだと確信してるらしく納得している。いや、話そのものに矛盾があるってことには・・・気付いてないんだろうな、お袋だし。

 んで、騎士の方は・・・なんか考え込んでいる。もしかして俺、やっちゃったっぽい?


「あー、騎士さん?」

「ん、済まない、また考え込んでしまったな。君、今その刀抜けるかい?」


 そういえば抜いて見せればそれで済んだんだよな、うん。よし、鞘の鍔元に指をかけて・・・。

 よ、あれ、おっかしいな・・・、ふんぬぬぬぬ、ぬぎぎぎぎぎぎ・・・。


「抜けないね。」

「抜けないな。」

「抜けないわねぇ。」


 三人の視線が痛い。いやこれ、マジでどうなってるんだ?さっきはするっと抜けたのに、今はまるで鞘が刀身そのものになってるみたいに固い。


「・・・どういうこと?」

「こっちが聞きたい。」


 兄よ、頼むから黙っててくれ。話が進まん。


「しかし、抜けたというのは事実だろうね。」

「?」

「宝具の剣が黒刀であるというのは『教会』でもあまり知られていることではないんだ。そもそも宝具の存在自体、秘密にはしてないが知っているものも少ない。詳細については教会の図書館で調べないと判らないことだし、図書館は入館許可証の発行が意外と面倒で入れるものは多くない。黒刀だと君が知っているということが、その刀を抜いたことがあるという証明さ。」

「・・・そうですか・・・。」


 つまり同時に、この刀は本物の宝具それだということだよな。

 抜いたら何か起こるのかな、ってかそもそも、何で抜けたんだ?


「なあ・・・。」

「何故抜けたのか、かい?それは私もわからない。」

「あ、そ。」


 残念。


「だが、宗教都市(セノワスト)の本部ならわかるかもしれないな。」

「調べられるのか?」

「図書館があると言ったろう?生憎な事に私は入館許可証を持っている。図書館になら資料があるかもしれないし・・・君も来るかい?」


 へ?今何つった?


「そうだな、それがいいだろう、行ってきなさい。」

「親父?目ぇ覚めたのか?」

「うむ。第一騎士殿にも証人が必要だろう。お前なら騎士殿の護衛代わりにもなる。騎士を目指しているなら『教会』本部を見ておくのも勉強のうちだ。」


 う、反論させない気かこの親父。寝起きのくせに周到な。

 でもまあ、一理あるってか真理だよねぇ。しょうがない、行って来るか。


「・・・わかった、行って来るよ。けど、その前にひとつ話がある。」

「?」


 つまり、これから二日・・・往復だから四日か、は旅に出ることになるわけで。

 そこの騎士は、短いながらも旅の連れになるわけで。


「俺はマテウス。騎士さん、あんた、名前聞いてないよな?」


 騎士さん、なんぞと呼び続けるのは結構不便なわけで。


「・・・はははっ、そう言われれば忘れてたね。」


 ・・・ははは、で済むうっかりじゃないわけで。


「私は『教会』本部・教皇猊下直属騎士団「青天」隊副長、「アルトス・ゼシカ・インダクト」だ。通名は「ゼシカ」で通している。よろしく。」


 そう言うと騎士―ゼシカは右手を差し出してきた。

 ちくしょうイケメンめ絵になるじゃないか。う、羨ましくなんてないんだからねっ!


序章 旅立ち 了

というわけで序章終了です。

本作の形式ですが、章末に主要人物の紹介をはさんで次章に進むという形で行こうと思います。なるべくそれ以降のネタばれは避けようと思います。


しかし1回の投稿長くした方がいいのかなぁ、プロット分全部書くと100話ゆうに超えるんだが・・・。

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