5.親父もがんばってました
今更のお願いですが、感想・ご指摘などいただければ幸いです。
素人の習作ですので、より多くの推敲を交えてよい作品にしていきたいと思っています。
では、本編をどうぞ。
side うっかりな親父、の回想
「むぅ、数の不利は否めんか・・・。」
自慢ではないが私は武人としてはそこそこの所にあると自負している。一応ではあるが然る剣術流派の免許を皆伝した程度の腕前と思っていただけば通じるだろう。旧国家時代に伯爵位に就いていたリードルスの当主として、それくらいは教養のひとつだ。
しかし、一人で多数を相手にするというのは勝手が違いすぎる。剣だけならば私よりもはるかに使える次男坊を倉庫に放り込んだ手前、あれに頼ることは今更出来ん。長男は武術だけは何の因果かさっぱり、さらには妻を守らなくてはならないのは言うまでもあるまい。まあ、思いのほか善戦出来てしまっている妻には驚いたが・・・。
「父さん拙いよ、このままじゃやられ・・・。」
「言うな。どうにかできると信じて動く者だけがどうにかなる。散々言い聞かせてきたはずだぞ。」
これは私の座右の銘だ。家訓と言い換えてもよい。尤も私が定めた物になるが。
原典では「天は自ら助くるるものを助く」というが、息子達が幼い頃に噛み砕いて教えるために随分と砕けた言い回しになってしまった。しかし、息子達はこの言葉の方を未だに覚えていてくれているらしい。親馬鹿だが、今更改める気もない。いわば、息子達との絆なのだ。
とはいえここまで不利な状況というのは心が先に悲鳴をあげるもの、息子の悲哀はわからんでもない。何しろ私だけでももう十五は突き倒したというのに眼前に広がるのはまるでスライムの海。最低でも今ここにいる分すべてを倒さなければならない。そして妻のかけてきた次の一言がさらに苦境に拍車をかける。
「ねぇ、あなた?」
「・・・何だ?」
「洗剤、切れちゃったみたい。明日からどうしましょうねぇ?」
妻よ、明日より今の心配をしてくれ。頼むから。
しかし、それはそれで拙い。何だかんだで妻も戦えていたのは洗剤を塗ったフライパンという武器の相性によるものだ。酸を無力化できるアルカリとして洗剤を即座に思いついた妻はさすが家庭人というほかはない。メイドもいるというのに、厨房だけは未だこの妻の領域なのだ。
閑話休題。
その洗剤がないということは、フライパンひとつしか手元に無いという事を意味する。そしてそんなものはすぐに意味がなくなる。溶かされてお終いだ。
私は、家長として一つの決断をせねばなるまい。
「セルシア、スタウト、私を置いて2歩下がれ。」
「??」
「!!」
スタウトは察したか。妻は・・・察せぬ方が幸せかも知れんな。
守りすら捨て、道の一本でも開ければと突撃を試みる。乱れ撃ちでしかない剣閃でも、うまくすればいくつかの核まで届くかも知れん。家族の逃げ道さえ開けばよし、開けなんだとしても守るべきものより後に倒れることなど、私自身の矜持が許さない。
そう、捨て身の覚悟。
「目に物見せてくれる・・・これがアドナレス・リードルスの生き様よ!!」
覚悟とともに、大見得を切り飛び出・・・そうとした。
そう、しようとしたのだ。
だがそれは、イレギュラーによって阻まれることになった。
「伯、ご無事か!」
窓から飛び込んできたのは、全身鎧の剣士・・・騎士だった。
「・・・おお、そなたは・・・。」
「緊急ゆえ、抜刀いたします。御免!」
果てしなく白い閃光とともに、轟声がその場を支配した。眼前のスライムたちが見る見るうちにその数を減らしていく。まさに奇跡。その閃光の生む軌跡も、急速に収束していくこの戦場も。
そうしてものの数分で、スライムの影はこの部屋から消えた。
命を捨てずにすんだことに私は安堵した。馬鹿な真似をした父の背中に刺さる妻と息子の痛い視線を浴びながら。