4.決戦!俺の家
side 普段は冷静沈着な兄貴
「父さん!母さん!」
久しぶりの醜態をさらしてしまった俺だが、恥をかいた甲斐あってか両親とは合流できた。
「スタウト!無事であったか!」
「あらあら、よかったわぁ。」
・・・なんか、拍子抜けな気がするのは気のせいですか、母さん?
というか、愛剣たる水晶剣「ミラージュ」を手に奮戦していたであろう父よりも、アルカリ洗剤塗ったフライパンでスライムを相手にしてる母が気になって仕方がない。
まあ、いろいろ規格外な人だし、気にしたら負けなんだろうな、きっと・・・。
「ねえスタウトさん、マテウスさん見てないかしら?あの子さっきから探してるのだけれどどこにもいないのよぉ。」
「あー、あいつなら倉庫で反省してる?けど・・・って、危ないじゃんか!」
忘れていたけど、考えてみれば危ない。何しろ非常事態なのだ。引っ張り出してきて一緒にいたほうがいいに決まっている。反省は・・・また後日ってことで。
「心配はいらん。あそこは特別な倉庫で、出られんが代わりに入れん。窓から入ってくる程度のスライムなら、あいつの腕前には問題にもならんだろう。」
「腕前って、あそこ剣とか置いてあるの?」
「無くてもあそこには処分する予定のガラクタと、あとは術法で強化封印した箱が置いてある。使い捨ての武器程度でもあいつなら何とかする。」
余談だけど、ちょっぴりマテウスを羨ましいと思った。俺は父さんから期待されているほうだとは思う。いつだったかマテウスは「俺は別段期待されてるわけじゃないしさ」なんて自嘲ってたけど、その代わりあいつは、多分腕っ節だけだろうけど、父さんに信頼されてる。あいつは気付いてないけど、俺にはそんなものかけられたこと無い。悔しいから教えてやらないけどな。
まあそんなことより、気になった物がある。
「・・・はこ?」
「『教会』からの預かり物だ。下手な結界より頑丈な特注品だから酸などでは溶けん。『教会』の道士様が3日かけて法力を煉り込んだ一品とのことだ、開けられなくても鈍器くらいにはなるだろう。」
へー、そんなのうちにあったんだ、とも言いたくなるけれど、うちの事情を考えればそんなに不思議なことでもない。「教会」の学校に通ってた俺の縁もあるし、宗教都市と氷の港の中間地点にある町の顔役である父自身がそもそも教会とつながりが深い。
が、それはそれ、これはこれ。
そんなものがあることは、別の意味で問題だろう。
「・・・スライムって、法力に寄ってく習性あったよね。もしかしてこの襲撃って・・・。」
「・・・あ。」
こんなうっかりおやじが連盟国の中枢に居るんだから、大丈夫かねこの国?
とはいっても今は父さんに頼るしかない。父さんはこれでも優秀な武人だし、俺もてんで駄目とはいえ戦わなきゃ溶けてスライムのパーツになるだけだ。母さんも守らなきゃ、今後二度とこの二人の長男なんて名乗れなくなる。
俺は近くにあった箒の柄を握り締め、考えるのを止めた。
マテウス、無事でいろよ。
side スタウト out
side 親の信頼に気付かないドラ息子
「・・・へっくし!」
誰だ、俺の噂してんの?え、風邪?・・・ひかない自信ある!って胸張ることでもないけどさ。
しっかし、さすがにしんどくなってきた。スライムって対処さえ知ってれば別段強いモンスターじゃないんだけど、さすがにこう多いと・・・疲れる。
加えて、うちの屋敷って構造が無駄に複雑なんだよね。玄関ロビーから詰め所前の廊下に入ってパーティ用のフロア、奥の使用人エリア、階段上って来客用寝室エリア、そこから奥の扉開けて食堂、から階段下りて浴室、戻ってキッチン、の脇を抜けてプライベートリビング、から各自の寝室および書斎なんて具合で、腹立つくらい構造がめんどくさい。旧貴族の家で防犯を考えた伝統ある屋敷っていっても、もうちょい簡単でいいと思う。だって、部屋に着くまでに疲れるんだもん。
ちなみに、俺が閉じ込められてたのは別棟の倉庫ってか物置だわな。つまり屋外。
「くそったれ、なんでこんなにいるんだ、よっ!」
また一匹仕留める。もう30は斬ったと思う。何だってこんなに大量にいるんだ?ってか、ほとんどが俺のほうに向かってきてるのは、さっきつついたのもはや関係ないんじゃないか?
「どいつもこいつもっ、俺まっしぐらって、何の恨みだっての!」
まとめて三匹払う。そういえばこの信じられない名刀、溶けるどころか全く切れ味が落ちない。これはこれで頼もしいんだが、そろそろ終わってくれないと俺のほうがもたない。
そうこうしてるうちに、親父の書斎の前にたどり着く。ここは建物の構造がしっかりしてるらしいから、何かあったらここに逃げ込むように家族で打ち合わせてる。まぁ、旅行で迷子になったときの待ち合わせポイントを決めておくようなもんだ。
の、だが。
「・・・あのさ、そこどいてくんねぇかな・・・。」
親父の書斎の前には、で~んとスライムが居座っている。しかも、ごっついでかいの。さっするに、親玉。さすがに最後がこれってのは、ちょっと精神的にキツイ。
「無理ってんなら、力ずくでどいてもらうぜぇ・・・。」
フラストレーションたまりまくりの俺は、目の前の巨大スライムに当たり散らす事に決めた。決めたったら決めた。
「兄貴!・・・親父、お袋まで!無事かっ!」
巨大スライムを片付けて扉をぶち破る。ぶち破ったのは鍵とかかかってるかなぁと思ったんだけど、簡単に吹き飛んだところを見るとかけてなかったらしい。やりすぎたかなとも思う。うん、反省。
「マテウス!生きてたか!」
「あらあら、無事でよかったわぁ。」
「無事か!しかしお前、どうやって出たのだ?」
三者三様だが、とりあえず応答は返って来た。どうやら無事らしい。
「・・・よかったぁ・・・・。」
情けない話だが、家族の無事を知って腰が抜けた。突入してくるときに使用人たちは外に逃がしたから、人的被害はゼロ。うれしい限りだ。
「何だマテウス、でんち切れたか?」
「やかましい!どっかの誰かさんの悲鳴のおかげで大慌てだったんだよ!」
「うぐぐ、口の減らないやつめ・・・。」
ニヤニヤしてからかいに来る一番の役立たず(多分)に、反撃の意味もこめて皮肉を返しておく。黙り込んだアホは放っといて、親父のほうに向き直る。
「・・・で、親父?ひとつ聞きたいんだけど・・・。」
「うむ。」
今この部屋には、俺含めて5人いる。俺、親父、お袋、兄貴、そしてもう一人。銀髪に銀の鎧、剣の拵えも白っていう何か純白なイメージは、どこと無く俗世を離れた印象を与える。そしてその容貌は、女子百万年の憧れにして、おおよその男の不倶戴天の敵。
「そこのイケメン、誰?」
えらいイケメンが親父達の後方に、なんとも所在なさげに立っていた。